第511話 一転また一転

「【ペガサス】っ!」


 威力の高い通常攻撃を起点に攻勢を仕掛けてくる湖の騎士に、アルトリッテは一度距離を取る。

 すると騎士は、盾を槍に換えた。


「くっ!」


 投じられた槍を、慌てて黄金の盾で防御する。


「【ソードストライク】」


 湖の騎士は、速い動きで距離を詰めてきた。

 単純な振り降ろしの基礎スキルが、豪快なエフェクトと共に繰り出される。

 これをサイドステップでかわすと、再び手にした盾を振り回してきた。


「【シールドストライク】」

「くうっ!」


 駆け抜ける強烈な衝撃波が、アルトリッテを後退させる。

 すると地面に刺さっていた槍を手に取り、そのまま叩き付けにきた。


「【スピアバスター】」


 ひたすら下がることで回避を成功させるアルトリッテ。

 ここで反撃に出ようと動き出すと――。


「【ジャンプオーバー】」


 叩き付けた槍を支柱にして空中で一回転、そのままもう一度槍を振り降ろす。


「しまっ!?」


 肩を打ち付けた槍のダメージは1割ほど。

 そしてなおも追撃を狙う湖の騎士は、すでに目前。

【アロンダイト】に集まる魔力光に、アルトリッテは防御を図るが――。


「【シールドブレイカー】」

「ッ!!」


 聞こえた不穏な言葉に、慌てて盾を引っ込める。


「ぬはあああーっ!」


 防御を止めたためさらに1割ほどのダメージを受けたものの、その選択は正解だ。

 盾で守っていれば、『破壊』されていた可能性がある。

 こうして両者の間にできた隙間。

 一転、アルトリッテは攻勢に出る。


「【ペガサス】!」


 一気に距離を詰め放つ【エクスブレード】の振り上げ。

 これをバックステップでかわした湖の騎士に、長い踏み込みで放つ大きな振り下ろし。

 続けざまの後退で避けたところを、一気に詰めにいく。


「今だ! 【ホーリーロール】!」


 聖なる光の軌跡と共に放つのは、大きな回転撃。


「――――【シールドパリィ】」

「なっ!?」


 湖の騎士は、盾防御どころか盾による弾きまで決めてくる。

 質実剛健な戦いぶりには隙がなく、物理攻撃にもキッチリ対応してくるようだ。


「いいだろう……っ」


 大きく弾かれたアルトリッテは覚悟を決め、迫る湖の騎士をしっかりと見据える。

【アロンダイト】による連撃がアルトリッテのHPを削り、三連撃の最後にはスキルエフェクトまで輝かせる。


「【ソードストライク】!」

「ここだあっ!!」


【アロンダイト】の軌道を凝視し、イチかバチか下げる足。

 連携の最後を、アルトリッテはわずか数センチのところで回避してみせた。


「今度こそっ! 【ホーリーロール】っ!!」


 大きな踏み込みと共に放つ剣撃は、隙だらけの湖の騎士に向けて振り抜かれる。しかし。


「【魔力武装】」


 湖の騎士はわずかに早く、その場に落ちていた木の枝をひろいあげた。

 そしてそのまま魔力を帯びた枝で、最短距離の斬り上げを放つ。


「【ソードストライク】!」

「なにっ!? ぬはああああ――――っ!!」


 生まれた隙を消す形で湖の騎士が用いたのはなんと、オブジェクトに魔力を通し武器に変えるという予想外のスキル。

 まさかの事態に直撃を受けたアルトリッテは、5%ほどのダメージを受けた。


「隙を消すためのキャンセルスキルといったと言ったところか……だがっ!」


 隙を埋める攻撃の直後はさすがに硬直があり、両者は再び向かい合う形になる。


「【ペガサス】!」


 一気に距離を詰めての振り上げ。

 今度こそと、大きく振り上げた【エクスブレード】を叩き込む。

 先ほどと変わらぬ流れにスキルに対し、湖の騎士はまたも【シールドパリィ】を狙いにいく。


「【ハードコンタクト】だーっ!」

「ッ!?」


 まさかのタックルに、大きく体勢を崩す騎士。

 アルトリッテはすぐさま懐へ踏み込む。

 両者の間に再び閃く、エフェクトの輝き。


「盾パリィが単純な飛び掛かりを苦手にすることは基本だな! 【ハードコンタクト】ーっ!」


 聖騎士、まさかの二連続タックル。


「ぐああああ――っ!」


 二度に渡るタックルを受けた湖の騎士は、ついに転がり倒れ伏した。


「ここで勝負をつけさせてもらうぞ――っ! 【サンクチュアリ】!」


 スキルの発動と同時に広がる、聖光の領域。

 それは範囲限定で聖属性の武器、スキルを大きく強化するという特殊スキルだ。


「いくぞ! ――――【グランドクルス】!」


 発動と同時に、黄金の輝きが足元から立ち昇る。

 天を焼くほどの巨大な十字光が突き上がり、湖の騎士を焼き尽くしていく。


「まだまだーっ! 【ペガサス】! その状況ならパリィもできないだろうっ!!」


 いまだまばゆい輝きを灯す【グランドクルス】の粒子の中を、飛び込んで来たアルトリッテは大きく剣を振り上げる。


「これで終わりだ――っ! 解放剣技【エクスクルセイド】ォォォォ――!!」


 猛烈な輝きと共に降り下ろす聖なる一撃が直撃し、光が飛沫のように大きく散らばる。

 さらにそこから巻き起こる聖属性の爆発が、騎士を消し飛ばした。

【サンクチュアリ】による威力向上攻撃を前に、倒れ伏す湖の騎士。


「強敵だった……」


 どうにかこうにかの勝利を収めたアルトリッテは、【エクスカリバー】のもとへと進む。


「……む?」


 するとその前に立ちふさがったのは、湖の乙女。


「まさか……これで終わりではないのか?」


 嫌な予感は、的中する。

 状況を静観していた湖の乙女が、その手をアルトリッテに向けた。


「【アクアキャノン】」

「【ペガサス】! なっ!?」


 迫る魔法攻撃を大慌てで回避すると、なんとそこに湖の騎士が迫りくる。


「倒れてはいなかったのか……っ!?」

「【ソードブレイカー】!」


 唐突なエフェクトの輝きに、振り払った【エクスブレード】が【アロンダイト】に直撃。


「武器、破壊だとっ!?」


 めったに見ないそのスキルは、驚異的な剣の硬度ゆえ。

 折れ飛んだ【エクスブレード】に驚愕しつつ、アルトリッテは慌てて【黄金剣】に装備を換える。


「【アクアスウォーム】」


 湖の乙女は攻撃の手を緩めない。


「くっ! 【ペガサス】ッ!!」


 迫る50発の水矢からどうにか逃げた先には、すでに攻撃体勢にある湖の騎士。


「【ソードストライク】!」

「ッ!!」


 これを必死の回避でやり過ごすも、再び閃く魔法エフェクト。


「【アクアキャノン】」

「しまった!」


 肩口に炸裂して2割近いダメージを受け、その場に転がる形でダウン。さらに。


「【ソードフリップ】!」

「うああっ!?」


 大慌てで剣を引くが、間に合わない。


「今度は……武器飛ばしか……っ!!」


【黄金剣】は大きく弾き飛ばされ、遠く地面に突き刺さる。

 一方湖の騎士と乙女の二人は、前衛後衛で陣を組んでいる状況。

 そこに隙は無く、完全に追い詰められてしまった形だ。

 とてもではないが、ここから逆転できるような状況ではない。


「さあ、帰りなさい」

「最高の騎士たちが、魔導士たちが消えていった。王の剣は、ここで静かに眠り続けるべきなんだ」


 冷たく言い放つ湖の乙女と、迫り来る騎士。


「ここまで……なのか?」


 トップ級のプレイヤーが複数人で挑んでも、苦戦必至の相手。

 普通に考えれば、湖の騎士戦を一人で乗り越えただけで十分すぎる戦果だ。


「いや! 皆に送り出してもらったのだ。わたしは、最後まで……っ!」


 剣を失ったアルトリッテは、それで立ち上がろうともがく。

 しかし湖の騎士はもう目前。

 振り上げた【アロンダイト】が、トドメの一撃を見舞おうとした――――その瞬間。


「【ラビットジャーンプ】ッ!!」


 聞こえてきた声に、思わず皆視線を上げた。


「【アクロバット】からの……【ソードバッシュ】だああああ――――っ!!」

「ッ!」


 迫り来る怒涛の衝撃波を前に、騎士は慌てて走り出す。

 そのまま湖の乙女を抱きかかえて退避し、ギリギリのところで危機を回避。


「お待たせいたしましたっ!」


 そう言って、笑顔でアルトリッテに手を伸ばす。


「ありがとう……メイ」


 立ち上がったアルトリッテは、ゆっくりと振り返る。


「すまないな湖の者たちよ。どうやらこちらには……王が助太刀に来てくれたようだ」


 最強の騎士と魔導士の前に立ち並ぶ、聖騎士と野生の王者。


「あらためて宣言しよう! 【エクスカリバー】は野生の王と共に、聖騎士アルトリッテがいただいていく!」

「やっ、野生の王ではございませーんっ!!」

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