第437話 アサシンと霧の世界
広いジャングルに広がる深い霧。
いくらでも迷い続けられるこの迷路は、現れるプレイヤーが敵か味方かの判断も難しい。
さらに遺跡に近づくことで光り出した【輝石】は、インベントリに隠しておくことができない。
その面倒な仕様は、【輝石】が誰の手中にあるのかを明確にしてしまう。
「そのうえ派手なエフェクトは、この霧でもある程度見える。下手にスキルを使えば敵陣営が集まって、【輝石】持ちはさらに厳しくなるってわけだ」
フロンテラ陣営の最後尾。
赤い腕章を着けた剣士プレイヤーは、パーティの仲間たちに笑みを見せる。
「この霧での混戦はすぐに進路を見失う。そして道に迷ってるうちにまた敵にぶつかる。本当に不利な状況だよ」
メイたちの進んでいる、スモーキング・フォレスト。
実は今、付近には【輝石】を求めるフロンテラ陣営のパーティがいくつも立ちふさがっているという、危険な状況だ。
「この時点で【輝石】を持っていても良いことなんて何もねえ。運ばせてやればいいんだよ。はっはっは」
「――――【アサシンピアス】」
「なるほどなぁ……そう考えると【輝石】を運ぶのも大変なんだな。もっと進んでから奪い取った方が良さそうだ……え?」
弓術師が振り返ると、そこには仲間の剣士が倒れ伏していた。
「お、おい! どうした!?」
「【アサシンピアス】」
「ぐはっ!?」
そんな不利な状況に風穴を開けたのは、一人のアサシン。
「【加速】【電光石火】」
プレイヤーの倒れる音を聞き、寄ってきた魔導士もダガー二連撃からの斬り抜けで対応する。
「【隠密】【忍び足】」
霧によって、姿を視認されにくいこの状況。
周りに気づかれないまま姿を消すことも、ここでなら容易だ。
そのうえ足音もしないとなれば――。
「お、おい! どうした!?」
近くを進んでいたフロンテラ陣営プレイヤーが、異変に気付いて駆け寄ってくる。
当然そこには、誰もいないように見える。
「き、気を付けろ……小さなアサシンが急に出てきて……」
「アサシン? と、とにかく周りのやつらに知らせよう!」
「お、おい! 後ろだっ!」
「【アサシンピアス】」
爆発を起こすスキルで付近に異常を知らせようとしたところに、【アサシンピアス】が直撃。
また一人その場に倒れ伏したのを確認して、今度は木の上へ。
「なんだこれ……戦いの気配なんてなかったのに!」
続け様にやって来たフロンテラ陣営のパーティが、倒れた仲間たちを見て驚きの声を上げた。
その数は四人。
ここからはもう、一気に叩きにいく。
ツバメはふわりとした跳躍で、樹上から落下すると――。
「【アサシンピアス】」
「「「ッ!?」」」
いきなり仲間の一人が倒れ、驚きふためく三人。
「なんで!? 誰もいなかっただろ!」
「どこから出てきたんだ!?」
「【加速】【電光石火】」
慌てて武器を構え出したところを、また一人打倒。そして。
「【紫電】」
放つ雷光で、残った二人も硬直させる。
「【加速】【アサシンピアス】」
弱点の一撃突きで、三人目も撃破。
「くっ! 【ソニックウェーブ】!」
「【跳躍】【エアリアル】【四連剣舞】」
ようやく攻撃に転じた四人目のプレイヤーが放つ光刃も、時すでに遅し。
空中から剣舞を叩き込む。
「う、ぐっ」
倒れ伏す四人目のフロンテラ陣営プレイヤー。
メイが足音を聞きつけ、ツバメが姿を消して先行。
そのまま暗殺するという流れが、見事に決まった形だ。
ツバメは息をつくが、ここで予想外の展開。
「な、なんだあいつは!」
先を行っていた一団が、連絡のために引き返してきていたようだ。
倒れ伏す仲間たちを見て、すぐさまツバメを敵と判断。
「犯人はあのアサシンだ! 追え! 追ってそのまま潰せ!」
「「「おうっ!!」」」
「思った以上に大きな一団です……【加速】」
やって来た20人ほどのパーティが、全力で追いかけてくる。
しかしツバメは慌てない。
真っ直ぐに霧の中を駆け、やがて覚悟を決めたかのように振り返った。
「いくぞ!」
そして速い敵の前衛組が、剣を抜き襲い掛かったところで――。
「「「うおおおおおお――――っ!?」」」
吹き荒れる猛烈な氷嵐。
濃い霧にくわえて、足元を隠す下草。
ひどく見えづらくなっていた【設置魔法】が発動し、前衛組をまとめて吹き飛ばした。
「正解ね。氷結なら派手な光も出ない」
レンが選んだのは【フリーズブラスト】による攻撃。
炎の輝きは目に付くと考えての選択だ。
「ひ、ひるむな! この隙を叩くんだ!!」
追って来た敵パーティの後続が、スキル発動後の隙を狙って突撃してくる。
「「「お、おおおおおお――――っ!?」」」
そこに二つ目の【設置魔法】【フリーズブラスト】がさく裂。
二陣目の一団も見事、一網打尽にしてみせた。
「今だ! 【ウィンドカッター】!」
「【ストーンバレット】!」
「【ファストステップ】【ブレイドラッシュ】!」
そして運よく生き残ったプレイヤー達と後衛は、合流組がとどめを刺しにいく。
的確な分担で、見事に敵を殲滅。
メイたちは、進路を塞いでいたフロンテラ陣営の一団を片付けることに成功した。
「ないすーっ!」
拍手してよろこぶメイの姿に、よろこぶ合流組の面々。
「これで問題なく、先に進めると思います」
「【忍び足】で音が消えてる上に、霧の中に突然出てきて暗殺していくって、本物アサシンみたいね」
「うんうん。ツバメちゃんカッコいいー」
「生で見たかった……」
「本当だな」
同行の合流組も、思わずうなずき合う。
実際に死に戻りしたフロンテラ組は今、リスポーン先でその『無音アサシン』の惨状を語り出している状況だ。
こうしてメイたちは、【輝石】を持ったまま難なくこの危機を切り抜けてみせた。
「でも、どっちに進めばいいんだ……?」
目印にできるものが見えないこの場所は、戦いが終わると方向感覚も失われてしまう。
「おまかせくださいっ! こっちですっ!」
しかしメイは、【帰巣本能】によって目的の方角を常に把握することができる。
そのためこの深い霧の世界にいても、最短距離で進んで行くことが可能だ。
――――そして。
「あっ!」
「「ッ!?」」
ここでまさかの出会い。
「マジっすか?」
「こりゃとんでもないことになったねぇ」
バッタリ出くわしたのは、『探索』スキルでもう一つの【輝石】を追っていた七新星の二人。
両者の持つ【輝石】が光り、始まるにらみ合い。
だが、これだけでは終わらない。
「お、おい! 見ろ!」
そこに現れたのはなんと、青の腕章のプレイヤーたち。
アングル陣営の一団が、約15名ほど。
「「…………」」
まさかの三陣営ばったり。
走り出す緊張感に、七新星もさすがに言葉を失うのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます