第438話 まさかの三つ巴です!
三陣営、広いジャングルの一角でまさかの勢ぞろい。
七新星の二人組が得意の『探索』スキルでメイたちを追って来たことで始まった、思わぬ事態。
下手に動いて、二対一になってしまえば一気に不利になる。
さらに【輝石】持ちとしては、戦闘の激化で敵陣営が集まってきてしまうことも避けたい。
「さて、どうしたものかしら」
「悩ましいですね」
膠着する状況。
そんな状況を打ち破ったのは、駆け込んできた一人のアングル陣営プレイヤーだった。
「「あっ」」
七新星二人が、思わず声を上げる。
「こいつらだ! こいつらが俺たちから【輝石】を奪い取ったんだ!」
それは以前キングマンたちが【輝石】を力づくで奪い取った、アングル陣営パーティの逃げ出した11人目だった。
「やれぇぇぇぇぇぇ――――っ!!」
それを聞いたアングル陣営が、『敵』は七新星の二人と判断。
一斉に襲い掛かる。
「まいったねこれ!」
「こんな不運、あるものなんすかーっ!?」
「俺にはなぁ、尾行スキルがあるんだよ!」
10人の仲間を一瞬で倒されたパーティの生き残り青年が、そんな叫びと共にスキルを発動する。
「【ソーンバインド】!」
七新星の二人を拘束せんと、伸び出す足元のイバラ。
「うわっと! 【跳躍】!」
「逃がすか! 【投擲】!」
「しまったぁ!」
アングル陣営が投げた【ショートダガー】がキングマンに当たり、【輝石】が弾かれる。
これが『インベントリにしまえない』仕様の、最大のポイントだ。
「何やってるっすか!」
ポーンと飛んで行った【輝石】を、慌てて追いかけるキングマンと翔二郎。
「【一足飛び】!」
翔二郎はすぐに跳躍スキルで取り返しにいくが――。
「【荒風】!」
「うおおっ!?」
吹き荒れる風に、軌道を大きくズラされ失敗。
そこに駆け込んだのはキングマン。
どうにか【輝石】を再回収したところに、飛び込んでくる11人目プレイヤー。
「【葉隠し】!」
それは【輝石】を奪われた際に喰らった【サンドバースト】への、反撃のようなスキル。
吹き荒れる葉の乱舞が、目隠しとなる。
「目くらましはこっちも持ってるからねぇ。そうはいかないよっとぉ!」
キングマンは見事なガードで視界を守る。しかし。
「【ショートダッシュ】! 【スティール】!」
そこに駆け込んできた盗賊が、【輝石】を盗み出した。
「おいおい冗談だろぉ!?」
「マジっすか!?」
ついにアングル陣営の見事な連携が、【輝石】を奪い取った。
これがイベントアイテムを運ぶ際に、その所持者が背負う難しさ。
正面から戦いを挑まれるより、『奪い』に来る一団の方が圧倒的にやっかいだ。
「こうなったら力づくで返してもらうっすよ! 【アクセルブレード】!」
これに対して翔二郎は、突進からの回転斬りで奪い返しにいく。
「しまった!」
回避はギリギリの失敗。
かすめた一撃によって落ちた【輝石】を、翔二郎は奪還することに成功。しかし。
「あれっ?」
突如、足元に空いた穴。
「うおおおおっ!?」
従魔士が使用したシンプルな【落とし穴】に片足を突っ込んでしまい、動きを封じられたところで――。
「はい【スティール】!」
「マジっすか!? そっちの【スティール】成功率どうなってんすかー!」
「二回盗んで二回とも成功……」
それを見たツバメが一人、愕然とする。
「このまま逃げろ! これでアングルも【輝石】を一つ手に入れたことになる!」
「そうはいかないわっ! 【誘導弾】【連続魔法】【フリーズボルト】!」
まんまとそのまま逃げようとした盗賊に、レンが放つ氷弾。
「痛っ!!」
これが見事に直撃し、再び【輝石】は宙を舞う。
「行けっ! アルバトロス!」
これを狙って、アングル族の従魔士が大型鳥を差し向ける。
「させないっての! 【サンドエッジ】!」
しかしこれを砂の刃でけん制し、キングマンが【輝石】をキャッチ。
「【加速】【紫電】」
「なあっ!?」
そこに飛び込んできたツバメの雷光で、動きが止まる。
「もらっていくっす!」
ここで【輝石】を受け取ったのは、再び翔二郎。
「こうなったら、こいつでいかせてもらうっすよ! 【ファイナルストライク】!」
追って来るツバメに対し、大きく振り上げた剣。
直撃と同時に武器自体を破壊することで放つ強烈な一撃を叩き込む。
しかしその瞬間を、メイは逃さなかった。
「【装備変更】! とっつげきー!」
頭を【鹿角】に変えて放つパリィは、振り下ろされた剣を弾き飛ばした。
「からの……もう一回とっつげきーっ!」
「うおおおおおお――っ!?」
パリィからの【突撃】がヒットし、翔二郎は派手に転がる。
「こーりゃもうダメだな」
翔二郎の手からこぼれた【輝石】に、一斉に群がるアングル陣営。
状況は圧倒的に不利だ。
「この人数に絡め手スキルを使われて、さらに戦闘でもあの野生児ちゃんたちがいるって、無理っすよ!」
「野性児ではございませーん!」
「これはどう考えても【輝石】を持っていかれる展開になりそうだねぇ。しゃーない、打っちゃって! 僕たちにゃ探査力がある、ここで取られるよりはマシだってね!」
「りょーかいっす! 【運びの弩】! いけぇぇぇぇぇぇっ!!」
「「「なっ!?」」」
大慌てで【輝石】をひろいあげた翔二郎が発動したスキルに、その場にいた全員が驚愕する。
それはアイテムや小型のオブジェクトなどを、遠くの目的地へ飛ばすだけという変わり種スキル。
取得者の少ないこのスキルを『目的地』を決めずに放てば、ただジャングルの『どこか』へ飛ばすだけという使い方も可能。
狙い通り、【輝石】は霧の密林の中へと消えていく。
「よーし、このまま引くぞぉ! 【サンドバースト】!」
『奪われるくらいなら、一度遠くに捨てて仕切り直す』
一度【輝石】を手放しても、得意の『探査』スキルで後を追えば他の面々より先に回収できると踏んだキングマン。
目くらましを使って、この場から退避する。
「悪いけど、【輝石】は渡さないよぉ」
「渡さないっす」
そんな方法でこの場を回避した七新星二人は、そのまま姿を消した。
「メイ、ちょっといい?」
七新星の動きを見たレンは、すぐに耳打ちをする。
「二人を追いかけますっ! 【バンビステップ】!」
するとメイは、投じられた【輝石】を追うようにして走り出した。
「お、俺たちも行くぞっ!」
「「「おうっ!」」」
アングル陣営も即座にその後を追っていく。
「……そろそろいいかしらね」
残されたテーラ陣営。
レンがそう言うと、メイが草の間からひょこっと顔を出した。
その頭には、葉っぱが乗っかっている。
「うまくいったわね」
「うまくいきましたーっ」
葉っぱを払いながら、笑い合う二人。
「もしかして……アングル陣営の標的が俺たちに変わらないように、【輝石】持ちのメイちゃんが先行するフリを?」
「まあ一応ね」
同行組の問いに、レンは軽く応える。
「さて。これで二つ目の【輝石】の方角も分かったし、私たちも後を追いましょうか」
「りょうかいですっ!」
「いきましょう」
三つ巴の争いは、一時解散。
こうしてメイたちは、二つ目の【輝石】を追いかけて再び密林を進み始めたのだった。
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