第436話 二つ目の輝石

「マジで反応なくなってるっすよ……」


 得意の『範囲探索』や『発見』スキルによって、隠しクエストなどをいち早く発見。

 七人組のパーティが一気にトップに駆け上げり、七新星と呼ばれる原動力となってきた二人は先を急ぐ。


「僕たちが追っていた反応は、例の野生児ちゃんに先を越されちゃったと考えるのが妥当だろうねぇ」

「マジっすか……すでに方角まで分かってる状態で先を越されるのなんて、初めてなんすけど」


 シンプルな中分けの髪に軽鎧、後輩感の強い翔二郎。

 そして肩の力が抜けた雰囲気のひょろっと男子、キングマン。

【輝石】をメイたちに奪われてしまった二人は、仕方なく『探索』スキルを再発動。

 すでに取られてしまった【輝石】を追うのではなく、二つ目の【輝石】探しへと方向転換した。

 今度は先を越されないよう、速い移動で密林を駆けていく。


「よし! もう少しだぞ!」

「【プロテクト】!」


 聞こえてきたのは、戦いの声。

 10人組のパーティが、今まさにアルマジロ型の守護獣との戦いの最中だ。


「【アースバインド】!」


 後衛の放った石牢を生み出すスキルによって、足止めに成功。


「今だ! いけっ!」

「任せろ! 【ヘビィブラスター】!」

「やった!」


 大剣による強烈な一撃が重低音を響かせて炸裂し、アルマジロ型の守護獣を見事撃破した。

【輝石】の守護獣を倒し喜ぶのは、青い腕章をつけたアングル陣営のパーティだ。


「お見事だねぇ」


 気の抜けた拍手をしながら、アングル陣営の前に出ていくキングマン。


「でも、輝石はいただいちゃうぞぉ」

「もらっていくっす」


 短くそう言って、二人は【輝石】を手にわき上がるアングル陣営パーティに襲い掛かる。


「ッ!? フロンテラ陣営か!?」

「こいつら知ってるぞ! 七新星じゃねえか!」

「慌てるな! この感じは探索型に違いない!」

「そうだよな! それならいけるっ!」


【輝石】を見つけたアングル陣営チームは、前後衛そろったパーティだ。

 即座に戦闘態勢に入って――。


「はい【サンド・バースト】」

「「「なっ!?」」」


 キングマンの放った砂の舞が、視界を一気に奪う。


「いくっす! 【ファイナルストライク】!」


 敵プレイヤーの位置を記憶していた翔二郎が放つのは、武器を失う代わりに高火力となる必殺スキル。

 そこにあらかじめ【チャージ】で威力を増しておいた、強烈な一撃を叩き込む。


「ウソだろ……!?」


 砂が晴れた時、立っていたのはわずか3人だけ。

 そこへさらに、キングマンは連続でスキルを発動。


「【サンドエッジ】」


 生き残ったアングル陣営も、続けざまに放たれた三本の砂刃で斬り裂かれた。

 アングル陣営の後衛が死に際に発動した炎魔法が、虚しく空で弾ける。


「くっ……」

「探査が得意なのに、強いから七新星なんだってばー」

「そういうことっす」


 10人組をあっさりと片付けた七新星の探査役、キングマンと翔二郎は、倒したパーティに向き直ると余裕の笑みを浮かべる。


「つーわけで、【輝石】はいただいちゃうよぉ」

「悪ィっすね」


 死に戻り時に、【輝石】はその場に落としていく仕様。

 キングマンはそれをひろって「どうもね」と軽くつぶやいた。


「なんとかなったっすね。【ファイナルストライク】もまだ5回はいけるっす」


 そこは一気にトップまで駆け上がったパーティ。

 高価なアイテムを使うことも惜しまない。


「……ん?」


 不意に聞こえた異音に、翔二郎が顔を上げる。

 そこには、わずかに揺れる木々。


「11人組だったみたいだねぇ……」


 どうやら、応援を求めて逃げ出していった11人目がいたようだ。


「ま、いっか」


 しかしその余裕は変わらない。

 そう言って笑うと、キングマンは緊張感のない欠伸をしてみせた。


   ◆


『――――二つの【輝石】は無事、プレイヤーの手に渡りました』

『――――強奪、窃盗、陣営の統合など、手段は問いません。東部にあるスモーキング・フォレストを超えた先の遺跡に、二つの【輝石】を奉納してください』

『――――成功させた陣営は、守護神を利用することが可能となります』


 フロンテラ陣営の七新星が【輝石】を手に入れたことで、鳴り出したアナウンス。


「利用って、やっぱり敵陣営への強力な攻撃手段になるんでしょうね」

「守り神を利用するというのは、あまり好ましくありませんね」

「本当だねぇ」


 こくこくとうなずくメイに、『大樹を斬れ』というクエストを断ってやって来た合流組も一緒にこくこくする。


「スモーキング・フォレストって、どんなところなのかなぁ?」

「煙の森。気になりますね」

「さすがに火の手が上がっている所はなかったと思うけど……」


 二つの【輝石】のうち一つを手に入れたメイたちは、島の東部目指して歩を進める。

 これまで煙が立ち上っているような場所は、見受けられなかった。

 その意味を計りかねながら、メイたちはジャングルを進んでいく。すると。


「なんだか、急に暗くなってきたな」


 合流組の面々が、しきりに付近を気にしだした。

 見れば確かに、太陽の光が弱まっている。


「霧……?」


 それは、深くなっていく霧のせいだ。


「進むほど、濃くなっていますね」

「なるほど。スモーキング・フォレストってそういうこと」

「すごーい……」


 その不思議な雰囲気に、メイの尻尾が震え出す。

 気が付けば、すでに10メートル先も目視できないような状態だ。


「この酷い視界の中で、【輝石】の奪い合いをしながら遺跡を目指せってことみたいね」


 いよいよ数メートル先すら、白くかすんできた密林。


「各自、離れないように距離を詰めておいた方が良さそうね」

「レンちゃんっ!」

「レンさん!」

「はいはい」


 怪しい雰囲気が広がるのと同時に、レンの腕をつかむ二人。

 キャッキャする三人を見て、合流組もこくこくと満足そうにうなずく。

 こうしてテーラ組は寄りそうようにしながら、道なき道を進む。


「……【輝石】が光り出した」


 メイが持った【輝石】が、ほんわりと輝きを灯す。

【輝石】自体はアイテムとしてインベントリに入れることができず、ベルトに提げて運ぶ仕様になっているようだ。


「これで、誰が持ってるのか一目で分かっちゃうわけね」

「……レンちゃん、足音がたくさん聞こえてきたよ」


 メイの猫耳、が戦いの気配を捉える。

 どうやらフロンテラ陣営とアングル陣営もすでに、メイたちの近くにまで踏み込んできているようだ。

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