第435話 輝石を探します!

 静かに雨が降りしきるジャングル。


「七新星の探査スキルのおかげで、すぐに見つけられそうだな」

「やっぱ七新星すごいわ」

「強い探査型がパーティにいるってのも、トップに駆け上がれた理由の一つなんだろうな」


 フロンテラ陣営のプレイヤーたちは、密林を進む。

 七新星の中でも特に【探索】を得意としている二人の指示。

 それによってフロンテラ勢は、狙い通り【輝石】を持つ守護獣のもとへと向かっている。


「【輝石】の方角が把握できてるって、めちゃくちゃ有利だよな」

「このまま守り神も手に入れてやろうぜ」


 見落としのないように注意しながら進む三人組は、すぐに異変に気付いた。


「……なんだ、あの動物たち?」


 視線の先には、二頭の猿。

 そのどちらもが、木の上から同じ方向を指差している。


「ありがとーっ!」


 その五メートルほど横を駆け抜いていくのは、メイたちの一団だ。


「……あの猿たちが、道でも教えてるのか?」


 見落としに気をつけながら進んでいる三人は、もはや『場所を知っている』かのような迷いない走りに驚く。


「さすがにそれはないんじゃないか……?」

「だ、だよな」


 しかしその予感は大正解。


「ツバメちゃん! レンちゃん!」


 メイたちが進んだ先に待ち受けていたのは、奇妙なマーブル模様の守護獣カメレオン。

 その体長は約3メートル。

 長い尾を含めれば5メートルになろうかという巨体だ。

 メイたちの姿に気づいたカメレオンは、巻かれた舌の先にあった【輝石】をこれ見よがしに飲み込んでみせた。

 そしてそのまま、透明になって姿を消す。


「絶対やると思ったけど、完全に透明になるタイプなのね!」


 空間のブレや波紋も残さない、完全な透明度を誇るカメレオン。


「ツバメちゃん!」

「【跳躍】!」


 メイの指差しに、即座にジャンプ。

 現れたカメレオンは輝くエフェクトと共に舌で突きを放つ。

 すると舌先が幹に深く突き刺さり、木が大きく揺れた。

 カメレオンはすぐさま透明になって姿を消すと、ツバメへの距離を詰め、舌を右から左に振り回す。


「っ!」


 これをとっさの伏せで回避。

 するとカメレオンは再び姿を消した。

 強くなりだした雨のせいで、視界自体も良くはない状況。

 緊張感と共に、視線を走らせる三人。

 次の瞬間、現れたのはレンの目前だった。


「ッ!?」


 いきなりの近接攻撃。

 飛び掛かりと共に放つのは、鋭い爪による振り降ろし。

 これをレンが慌てながらもバックステップでかわすと、続くのは尾による叩き付け。

 縦の攻撃は、慌てなければ問題なし。

 少し大きめな斜め後方への回避で、これも見事に回避する。


「【連続魔法】【誘導弾】【フリーズボルト】!」


 反撃は氷弾の連射。

 カメレオンは地を駆け、そのまま倒木の背後に隠れることで身を守り、次の瞬間には姿を消している。


「ああもう、やっかいね!」


 再び視線を走らせるレン。

 カメレオンは姿を消したまま木を登り、メイの後方から飛び掛かりにいく。


「「ッ!!」」


 まさかの上方からの攻撃。

 姿が見えた瞬間、レンとツバメは見事に虚を突かれた。

 しかしメイの視線はカメレオンを警戒するのではなく、樹上の蛇に向いていた。

 同じく付近一帯に視線を走らせていた蛇は、襲い掛かるカメレオンに気づき、その位置を視線で教えてくれる。


「【投石】!」


 振り向きざまに放つ【投石】

 すると今まさに飛び掛かって来ていたカメレオンは、見事に弾き飛ばされた。


「高速【連続魔法】【誘導弾】【フリーズボルト】!」


 すかさずレンが続き、ダメージを奪う。

 この隙を逃したくないツバメも、一気に距離を詰めていく。


「【加速】【リブースト】【雷光閃火】!」


 早くも放つ必殺級の一撃。

 刺さった【グランブルー】が火花を上げ、そして爆発。

 もちろんこの隙を、メイも逃さない。

 転がったカメレオンに向けて、剣を振り降ろす。


「【ソードバッシュ】!」


 放たれた一撃は付近の雨ごとカメレオンを吹き飛ばし、木に直撃させてHPもまとめて消し飛ばした。

 見事な勝利に笑い合う三人。しかし。


「……まだっ!?」


 限界まで巻かれた舌が、槍のように空を切り裂きながら突き進み巨木を貫いた。

 その距離は約20メートル。


「これは……すごい攻撃ね」


 さすがに目を見開くレン。

 しかしこの攻撃を、メイに行ったのが失敗。

 速い点の攻撃を、メイは肩の動き一つでかわしていた。

 必殺の一撃をかわされたカメレオンは三人に背を向けると一転、姿を消しつつ一目散に逃げ出していく。


「逃げましたっ!」

「ただ倒すだけじゃなくて、逃げ際を捕えないといけないクエストなのね! 【フレアバースト】!」


 カメレオンは、最後にHPを1で残すスキルを持っていたようだ。

 メイが吹き飛ばした雨は、まだ降り出していない状態。

 レンは慌てて効果範囲の広い魔法で、付近一帯に攻撃判定を繰り出した。

 しかしその中に、カメレオンはいない。


「イタチちゃん!?」


 そこに飛び込んできたのは、陸ガメ発見時に現れた一匹のイタチ。

 メイの足元から駆け上がり、そのまま肩から大ジャンプして突風を放つ。

 レンの爆炎の後を追うように放たれた猛烈な風は、炎を一気に燃え上がらせる。

 すると大きく巻き起こった炎がその攻撃範囲を広げ、逃げ切れなかったカメレオンが草の上に落ちた。


「やるじゃないっ! メイお願いっ!」

「おまかせくださいっ! 今度は逃がしません【ターザンロープ】!」


 メイの投じたロープが、しっかりとカメレオンの身体に巻かれる。

 三人が即座に駆け付けると、戦いの姿勢を解いたカメレオンは逃げることをやめた。

 そして『力を認めた』証として、【輝石】を寄こしてきた。


「……な、なんで口から出すのよ」


 長い舌の先に乗せられた【輝石】に、そーっと手を伸ばすレン。


「ぬるぬるしますか?」

「……と、特にそういうのはないみたいだけど……」


 それでも、複雑そうな顔で笑うレン。

 圧倒的不利から始まった最初のクエストは、どの陣営よりも早くメイたちが【輝石】を手に入れた。

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