第434話 ジャングルを駆け抜けます!

「いけそうっすね、これなら余裕っす」

「このクエストは、『見つける』『探す』系のスキルが活きるねぇ」


 七新星側には、発見型のスキルを持ったプレイヤーがいる。

 ひょろっとした長身のキングマンと、後輩系男子の翔二郎。

 その指示によって、すでに多くのフロンテラ陣営プレイヤーが【輝石】に向けて行進中だ。

 探索状況の良さに、二人は勝利を確信する。


「それにしてもツイてたねぇ。こんなに早く【輝石】の反応があるなんてさぁ」

「ほんとっすね!」

「よっ! それーっ!」

「……ん? なんすか?」


 聞こえてきた声に、顔を見合わせる。

 一切の迷いなくジャングルをやって来たのは、先導する鳥の後を追いかけてきたメイたちだ。


「おい! あの子はっ!」

「メイちゃんだ! 止めろ! ここでメイちゃんを止めるんだ!」


 ハイレベルプレイヤーの叫び声に、始まるフロンテラ勢の攻勢。


「【ファイアシェル】!」

「【曲剣閃】!」

「【波動突き】!」

「【アクロバット】! からの【アクロバット】!」


 しかし木から木へと飛んで行くメイが、側転や宙返りを挟むだけでかすりもしない。

 魔法による集中砲火も、【ラビットジャンプ】一つで全弾回避。


「今だ! 【アイスバレット】!」


 そんなメイの大きな跳躍の着地を狙い、放たれる魔法スキル。

 的確な攻撃は、誰が見ても直撃を確信するレベルだ。しかし。


「おねがいしますっ!」


【密林の巫女】によって木々の枝が動き、氷の弾丸を打ち払った。


「な、なんで……!?」


 植物が壁になってプレイヤーを守るというまさかの事態に、そのまま硬直する魔導士。


「……いいぞ、そのままこっちに来い。ここで狙い撃ってやる」


 そんなメイの遥か前方には、【スコープアイ】によって遠距離から狙いを付ける弓術師。


「こいつなら、いくらのあの野生児ちゃんでも……っ! 【パラライズ・アロー】……そして【スナイプアタック】だ!」


 もともと範囲の長い弓矢での攻撃を遠距離射程スキルで強化し、さらに『痺れ』を乗せることで大きな力を発揮するハイレベル弓術師。

 その射程圏内にメイが入ったところで、これまで無数のプレイヤーを討ち取ってきた必殺の一撃を放って――。


「痛ッ!?」


 強制キャンセル。

 見れば太ももにガッツリ噛みつく、大蛇の姿。


「ハッ!? なんで!?」


 まさかの事態に思わずのけ反ると、その姿がメイの視界に入ってしまう。


「【投石】っ!」

「ふぎゃあっ!」


 メイの放った【投石】は、容赦なく弓術師に直撃。

 どうにか生き延びはしたものの――。


「【誘導弾】【連続魔法】【ファイアボルト】!」


 顔を上げるとそこには、迫る炎弾。


「うおおおお――っ!!」


 しっかりトドメを刺されて、狙撃型弓術師はメイの足を一度も止めることなく退場となった。


「ッ!」


 密林を駆け抜けていくメイ、思わず驚く。

 続く木々の上から飛び掛かって来たのは忍者とアサシン、そして盗賊という身軽さが武器の五人組。

 それぞれわずかに違う角度と位置を取りながら、手にした武器を振り降ろしに来る。


「「「もらった!」」」

「がおおおおおお――――っ!」

「「「なっ!?」」」

「【フレアバースト】!」


 しかし前方から複数人での飛び掛かりは、【雄たけび】の最高の餌食。

 硬直の直後に叩き込まれた爆炎が、全員まとめて消し飛ばす。


「レンちゃんありがとーっ!」


 走りながらくるっと一回転してほほ笑むメイに、フフッと笑い返すレン。

 移動しながら敵を倒していくという見事な連携で、ジャングルを駆け抜けていく。


「……マズいな、このままだとマジで見失っちまうぞ」


 メイたちはある程度速度を落として進んでるとはいえ、後を追うテーラ陣営の面々はその移動力に悲鳴を上げる。しかし。


「倒れてる敵プレイヤーと、動物たちを追えばいいんだよ」


 魔法学校民がそう指摘した。

 見ればメイたちの道案内は鳥の他にも、動物たちがあの手この手で道しるべになってくれている。さらに。


「おらー! お前たちだけでもここで消してやるーッ!」

「ガルルルルル!」

「なっ!?」


 遅れて現れた敵プレイヤーには、豹が横から猛烈な突進を叩き込み、その体勢を大きく崩させた。


「い、いまだ! 【ソードストライク】!」

「【波光砲】!」

「【エクスプロード!】」

「うぎゃああああ――っ!?」


 そうなればあとは、全員で叩くだけ。

 飛び出してきたフロンテラ陣営プレイヤーは、野生の豹によるまさかの突進からの連撃で姿を消した。


「なんだよこれ!? 植物も動物たちも皆全部、メイちゃんの味方なのか!?」


 メイの後を追うテーラ組の面々、そして競争しているフロンテラ陣営プレイヤーの声が重なる。

 もはやジャングル自体が味方となっているメイには、唖然とするしかない。


「……あ、雨だっ!」


 怒涛の進行を見せるメイたちに、降り出した強烈な雨。

 それは今回も、この一帯だけの局地的なもののようだ。

 そして先頭を行くメイの視界に一斉に現れたのは、十数人のフロンテラ陣営パーティ。


「散開して叩け! 範囲スキルを重ねればさすがに逃げ切れないはずだっ!」


 的確な指示によって、即座に武器を手に取るプレイヤーたち。

 さすがにこの数は少しやっかいになりそうな気配。だが。


「【投擲】!」


 そんなフロンテラ陣営パーティの真ん中に投じられたのは【雷ブレード】

 パチッと小さな輝きを見せた後、煌々と輝く雷光が駆け抜ける。


「「「うおおおおおお――――ッ!?」」」


 大雨によってその範囲を大きく広げた電撃が、敵の動きをまとめて停止。


「ありがとうツバメちゃん!」


 そう言ってわずかに振り返り、笑みを見せたメイにツバメは恥ずかしそうにうなずく。


「いきますっ!」


 そして木を蹴り、跳び上がったメイの手には剣。


「せーのっ! ジャンピング【ソードバッシュ】だぁぁぁぁ――――っ!!」


 雷光による硬直で動けない敵パーティを、メイの放つ衝撃波が一掃。

 そしてその先には早くも、見慣れぬ怪しいモンスターの姿。

 ジャングルを駆けるメイたちの勢いは、誰にも止められない。

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