第433話 対戦の始まり

 場所は、フロンテラ大調査船団本営。


「我らはこの新大陸に、古き神の力が眠っていることを突き止めた!」


 その船団長NPCが、サンタ・マリーナ号を背に演説を始めた。


「古き神の力を武力として利用することができれば、我らフロンテラは大国として世界に覇をなすことも夢ではない! ……だが、野蛮な原住民であるアングル族も古き神の力を狙っている! ヤツらに奪われるわけにはいかないのだ!」


 船団長は剣を突き上げて、気迫のこもった叫び声をあげる。


「頼むぞ冒険者たちよ! 我が国に古き神の力を持ち帰れば、その報酬は輝かしいものとなるだろう!!」

「「「おおーっ!!」」」


 合わせて、拳を突き上げるフロンテラ調査船団陣営。


「これは勝てそうだな!」

「あの銀騎士を退場させた七新星がリーダーだもんな! 今回は完全な勝ち組だぞ!」


 七人のトッププレイヤーと、最大級の参加者を抱えた陣営。

 赤い腕章のプレイヤーたちは、早くも興奮気味だ。


「仲間もめっちゃ増えたし、準トップくらいのプレイヤーもいっぱいいる。これって結構いい感じじゃね?」


 長い赤髪の少女、アンジェラが楽しそうに笑う。


「下克上、上手くいきすぎて笑ってしまいましたなぁ」


 ローブ姿の少女も「くっくっく」と笑いをこぼす。


「そーいや、メイちゃんはどうなったんかなぁ。アングル側にいりゃー、普通にリーダーになってそうだけど」

「集めた情報では、アングル側に野生児少女の姿は見つかっていないようだ」


 大きな剣を担いだ鎧の女剣士が、冷静に状況を伝える。


「マジかよー、こりゃ今回も余裕っぽいんですけど!」

「さすがにフロンテラかアングルに入らなければ、今回のイベントを勝ち抜くのは無理でしょうな」

「そんならいつも通り、サクッと勝たせてもらっちゃうかぁ」


 アンジェラはそう言って、強気の笑みを見せる。

 サンタ・マリーナ号の一室に集まった、七人のトッププレイヤー。

 それは別ゲームから移行してきて、驚異的な速度でトップへと駆け上がってきたパーティだ。


「それなら僕はそろそろ、探査に出ておきますかねぇ」

「お供するっす」


 そう言って二人のプレイヤーが立ち上がる。

 フロンテラ陣営を先導する、最強トップパーティ。

 七新星の面々は、余裕の笑みと共に動き出した。



   ◆



『――――調査船団イベントの最終目的は、古き大神の復活とその奪取になります』

『――――そして最初のクエストは、守り神の覚醒です』


「守り神……?」


 先ほど見つけてきた陸ガメを思い出して、振り返るレン。

 羽飾りの少女が、震えながらつぶやく。


「……神さまの力を手にして、世界に争いの火を生み出そうとしている人たちが、動き出した……」

「なるほど。フロンテラ王国とアングル族は、神の力を狙って争っている形なのね」

「そのようですね」

「そしてこの感じを見るに、私たちはそんな両派を止める第三派ってところかしら」


 レンの考えは正解だ。

 野望のため、神の力をめぐって争うフロンテラ陣営とアングル陣営。

 そしてメイたちがいるのは、自然との共生を謳うテーラ陣営となっている。


「なあ、俺たちって……これだけしかいないのか?」


 合流組のプレイヤーがつぶやいた。

 テーラ陣営に遅れてたどり着いたプレイヤーは現状、わずか十数人ほど。

 恐ろしいほどの偏り方だ。


「まだ合流してないプレイヤーが他にもいるのかもしれないけど……何百、何千人とまではいかないだろうなぁ」

「この広大なマップに、過去最大の参加人数。しかもトッププレイヤーの数も多い……大差をつけられた状況だね」

「こいつは厳しいなぁ……」


 他陣営に比べて、明らかに規模の小さな超弱小陣営。

 メイたちの能力は間違いないが、その圧倒的な不利に複雑そうな表情をするテーラ陣営の面々。


『――――封じられた古き守り神は、ジャングルのどこかにある二つの【輝石】を祭壇に供えることで目を覚まします』

『――――目覚めを成功させた陣営は守り神を戦闘に使用することが可能となり、他軍を叩く大きな戦力を得る形になるでしょう』

『――――各陣営は守護獣と共にある二つの【輝石】を入手し、守り神を目覚めさせてください』

『――――それでは対戦クエスト。スタートです!』


「これはまた、人が多いところほど有利なクエストだな……っ」

「最悪なことになったぞ。よほど近くに【輝石】がない限り、俺たちに勝ち目なんてないだろ」


 広大なジャングルから、二つの【輝石】を探し出す。

 絶大な人数差というハンデを背負ったテーラ陣営は、スタートと同時に騒がしくなる密林に頭を抱える。

 普通に考えれば、圧倒的な不利に陥った状態だ。しかし。


「場所はジャングル。そして探し物をするクエストか……」


 魔法学校でメイの活躍を見ていたプレイヤーだけは、すでにワクワク状態でいた。

 そして「よろしくお願いします」と言って、『場』を開ける。


「おまかせくださいっ!」


 笑顔で元気に応えたメイは、右手を大きく上げた。


「みなさん。お手伝いのほど、よろしくお願いしまーすっ!」

「お、おい、なんだこれ!?」


 発動する【呼び寄せの号令】によって、突然付近が騒がしくなる。


「動物たちが……一斉に!?」


 初見のプレイヤーたちは、そのとんでもないスキル効果に驚きの声を上げる。

 号令一つで、近くにいたのであろう動物たちが一斉にメイのもとに集合。

 あっという間に、動物たちに囲まれてしまった。


「な、何度見ても……すごいスキルだ……」


 魔法学校民はその光景に、数日ぶりのため息をついた。

 一見すると凶悪そうな雰囲気の蛇まで、メイにべったりだ。


「守り神さんを目覚めさせる【輝石】を探しています! 何か見つけた方は、ご一報おねがいしますっ!」


 そう告げると、動物たちは探査のためにまた一斉にジャングル内へと散っていく。

 そんな中、メイのもとにやってきたのは一羽の鳥。


「もしかして、心当たりがあるのっ!?」


 鳥は短く鳴いて返事をすると、さっそくメイたちを先導するように飛んで行く。


「追いかけましょうっ!」


 そういって走り出すメイに、続くレンとツバメ。


「俺たちも続こう! この流れは魔法学校でも見たやつだ!」

「お、おうっ!」


 始まった対戦クエスト。

 こうしてメイたちはどの陣営よりも早く、【輝石】に向けて走り出した。

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