第430話 銀の騎士鎧

 陸ガメの使用したスキルによって生まれた、ハニカム型のエフェクト。

 それは短時間だけ敵の攻撃から身を守ってくれる、守りの光壁。


「いきます! 【投擲】!」


 ツバメはもう一回り大きくなった一頭目の巨猿を攻撃してターゲットを奪うと、その場に足を止めた。

 そして石棍棒の叩き付けを、あえて真正面から受けにいく。

 スキル【ギガンティア】によって大型化した巨猿たちの一撃は、威力も範囲もさらに高めている。

 猛烈な爆発に付近の木々が大きく揺れ、葉が音を鳴らす。

 ツバメは背後の木に叩きつけられたものの、勢いよく顔を上げた。


「ダメージ……ありませんっ!」


 その効果に、歓喜の声を上げるツバメ。

 普段命がけの回避を繰り返しているツバメには、初めての感覚だ。


「やっぱり制限時間は、あまり長くないわね」


 ハニカム型エフェクトの点滅は、スキル効果の消滅を示唆している。

 こうなればレンも、試さずにはいられない。


「メイ! 今度は私をお願いっ!」

「おまかせくださいっ! 【ゴリラアーム】! それぇぇぇぇ――――っ!!」


 一頭目の全力降りおろしに耐えたツバメ目がけて、砂煙を上げて追撃にいく二頭目……目がけてレンを投じる。

 レンはそのまま高速で飛び、【夜風のローブ】の効果で飛行姿勢を制御。


「絶好のタイミング! 受け継いだばかりのこのスキル、使わせてもらうわ! 【ペネトレーション】!」


 一頭目の横をすり抜け、前に飛び出していこうとする二頭目の側腹部に【銀閃の杖】を突きつけると――。


「【フレアバースト】――――!!」


【銀閃の杖】から、燃える深紅の閃光が解き放たれる。

 ゼロ距離で叩き込まれた爆炎は、手前の巨猿を貫き後方の個体にまでその手を伸ばす。

 縦に並んだ状態だった二頭の巨猿は、まとめて爆炎に吹き飛ばされて転がった。

 そしてそのまま燃え上がり、粒子となって消えていく。

 対して爆炎の反動を受けて転がったレンは、受けるはずの衝突ダメージを陸ガメのスキルによってゼロに抑えることに成功。


「…………」


 残り火を前に、静かに杖を下ろすレン。


「青バラのリリーネ。あなたの意思……確かに受け継いだわ」

「レンさん、リリーネさんは生きています」


 まるで巨大な炎の槍のように、攻撃が突き抜けていく感覚。

 そこから二体が同時に倒れるという演出と効果に、思わずテンションの上がったレン。

 一人空を見上げてつぶやく姿に、ツバメは静かにツッコミを入れたのだった。


「レンちゃん……カッコイイーっ!」


 そしてこれにはメイもぴょんぴょん跳ねて大はしゃぎ。

 それを見た二人の従魔士NPCは、転移結晶を利用して逃走。

 すると意外な防御力を見せた陸ガメは安全を確認し、またゆっくりと進み出したのだった。


「ふふ、本当にマイペースねぇ」


 そんなカメの甲羅に普通に戻っていくメイと、引き続き正座するツバメに、レンは楽しそうに笑った。



   ◆



 集落の人たちが『守り神』と呼ぶ陸ガメは、やはり湖を目指していたようだ。

 まるで運転士のような位置に座るメイと、その後ろで景色を眺めるレン。

 そして正座のツバメを乗せたままジャングルを進んでいく。


「二時の方向にモンスターですっ!」

「【誘導弾】【連続魔法】【ファイアボルト】!」


 メイが見つけたモンスターを、レンが早々に排除。

 こんな警戒コンビネーションを使いながら、三人は湖の目前まで戻ってきた。


「レンちゃん、ツバメちゃん!」


 そんな中メイが、騒がしい気配に気づく。

 慌てて視線を向けると、斜め後方から迫る巨大な白トラの姿。


「グォォォォォォ――――ッ!!」

「「「ッ!!」」」


 大気を震わせるほどの激しい咆哮に、メイたちは思わず身体を震わせた。

 間違いなく、これは大物だ。


「【二枚刃】【イグニシアス】」


 するとその直後、地面を駆け抜けていく二本の軌跡。

 遅れて爆炎が吹き上がり、木々を越えるほどの火の刃を生み出した。

 直撃の虎は転がり、大きく体勢を崩す。


「今だ」


 炎の一撃を見舞った銀の騎士鎧が、クールに呼びかける。


「【凍花陣】」


 するとそこに続くのは青年魔法剣士。

 生まれる氷結の花々が、直径30メートルに至ろうかという広範囲に一斉に咲き乱れる。

 開いた氷の花は、敵を切り裂き砕け散っていく。


「【突進脚】【閃火竜撃砲】」


 さらに輝く氷片の中に高速で飛び込んできたのは、武器をもたない青年。

 叩き付けた拳から、トドメと呼ぶに相応しい派手なエネルギー波が突き抜ける。


「わあ……っ」


 その圧倒的な三連撃に、思わず感嘆の息をもらすメイ。

 怒涛の攻勢に、白い大虎が粒子となって消えていく。

 騎士鎧の女性は、陸ガメ移動中の三人の方へ振り返った。


「驚かしてすまなかった。思ったよりも動き回る敵だったんだ」

「耳と尻尾? もしかして君たちは広報誌の……」


 同じく銀の軽鎧をまとった魔法剣士が、首を傾げる。


「はいっ! メイですっ!」

「あれ、でも服装が違うな」

「本気の時にだけ、本来の姿を開放するのだろう」

「ちちち違いますっ! 今の格好が本当の姿なんですっ! 普段はコーヒーを片手に読書をしたりしていますっ!」


 そんな銀騎士の予想に、頭と尻尾をブンブン振って否定するメイ。

 ここでもミルク9割のカフェオレを、前面に押し出していく。


「破竹の勢いで突き進んできた最強パーティと名高い三人が、同じイベントに参加してたんだな」


 銀のナックルを着けた武闘家は、楽しそうにうなずいた。


「これは対戦イベントが盛り上がりそうだ」


 銀の騎士はそう言って、踵を返す。


「そろそろ皆マップにも慣れてきた頃。これは俄然、対戦の開始が楽しみになってきた」


 そう言い残して去って行くクールな女性剣士と、二人の男性メンバー。


「あれは『銀騎士』って呼ばれてる、トッププレイヤーのパーティね」

「あの攻撃力に見事な連携、かなりの手練れですね」


 その動きや攻撃力から、すぐに分かるその驚異的な強さ。

 レンとツバメは、思わず息を飲む。


「あれー? キミって確か……噂の野生児ちゃんじゃね?」


 そこに、銀騎士たちを追うようにして長い赤髪の少女がやって来た。


「野生児ではございませんっ!」


 即座に否定するメイにグイッと顔を寄せて、二ッと笑みを浮かべる。


「あたしはアンジェラだよ。よろしくね、メーイちゃんっ」

「こちらこそ、よろしくおねがいしますっ!」


 元気に頭を下げるメイに、赤髪少女は早くも上機嫌。

 その手を取ると、ブンブンと大きな振りで握手する。

 長く派手目な爪と、キラキラ光る大きな輪のピアスが特徴的だ。


「いくつか映像見させてもらっちゃったんだけどさ、メイちゃんマジでいい感じだよな! 敵でも味方でもよろしくなっ! そんじゃあね、あばよー!」


 そう言い残して、軽い足取りで銀の騎士を追い駆けていく。

 どうやら彼女たちと、同じクエストを受けていたようだ。


「待ってくだされー」


 そこへさらにもう一回り遅れてやって来たのは、謎のローブ少女。

 もそもそとした動きで、赤髪の少女を追いかけていく。


「……いよいよ、対戦イベント開始直前って感じかしら」

「なんだかドキドキしちゃうねぇ」

「はい、ワクワクしてきました」


 敵か、それとも味方か。

 広大なジャングルの中でようやく出会ったプレイヤーたちの姿に、メイは思わず尻尾をブンブンさせるのだった。

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