第431話 対戦が始まります!

「ただ今戻りましたー!」


 湖のほとりまで戻ってきたメイは、そこで待ち受けていた長老たちに大きく手を振る。


「みんな無事だったんだねー!」


 するとカラフルな羽飾りの白ワンピース少女が駆けて来て、さっそく陸ガメに飛びついた。


「湖が見えてからは速かったですね」

「きっとノドがカラカラだったんだね!」


 湖にやって来た陸ガメは、グビグビ水を飲んでいる。


「……ありがたい。我らが守り神を本当に見つけてきてくれるとは……あのお姿、深く恩義を感じていることだろう」

「ふふ、そうは見えないけどね」

「途中で何か、変わったことはなかったか?」


 安堵の息をつく村長に代わり、不精ひげの男がたずねてきた。


「そういえば、革鎧の従魔士に狙われました」

「革鎧の従魔士……アングル族の者たちか」


 その言葉に、長老は渋い表情でため息をつく。


「これは何かありそうね」

「……我々は自然やそこに住む動物や魔獣たちと、調和して生きることを掟としてきた」


 そして、静かに語り出す。


「だが、そんな生活に異を唱えたものがいた。それが『アングルチカ』だ。その者はこう考えた。我らこそ島の全てを従えた王となるにふさわしいと。大自然は我らが支配するべきなのだと。アングルチカはその考えに賛同した者たちを連れて、新たな集落をつくった」

「そんで長い年月をかけて勢力を伸ばし、ついに俺たちが信奉する島の守り神にまで手を伸ばすようになったってわけだ。今じゃもう、ヤツらの方が武力は圧倒的に上だ」


 そう続けて、不精ひげの男がため息をつく。


「だから従魔士たちは、守り神である陸ガメを狙っていたのですね……捕らえれば楽になると言っていましたし」

「やっぱり、利用する方向なのね」

「そんなのダメだよー」


 何やら不穏な空気が流れ出す中、羽飾りの少女が不意に身体を震わせた。


「……嵐が来る。争いの火は、近いうちに大きく燃え上がりそう……っ」


 少女の占いを聞き、いよいよ長老たちは悩ましそうにする。


「アングル族が攻めてくるということか……?」


 しかし羽飾りの少女は首を振る。


「もっと大きな争い。アングル族と私たち大地の民テーラ族……そして異国から来た者たちがぶつかり合う、激しい戦い」

「……我らは長きに渡り、このジャングルを守ってきた。しかし今、武力によって守り神を奪い、この古き密林を奪おうとする者がうごめいているようだ。猛き冒険者たちよ、我らにその力を貸してくれないだろうか」


 そう言って長老は、深く頭を下げた。


「この深き密林を、そして動物や魔獣たちを守るために……っ!」

「俺からも……頼む」

「おねがいしますっ!」


 村長の言葉に続く不精ひげの男と、羽飾りの少女。


「私は構わないわ」

「もちろん、異存はありません」


 レンとツバメは、問題なくこれを承諾。


「わたしもですっ!」


 そう言ってメイも、尻尾をビッと立てて気合を入れる。


「長い間、ずっとジャングルを守ってきた人たち……これはもう、他人事ではございませんっ!」


 その宣言と同時に、メイたちの腕に現れるエメラルドグリーンの腕章。


『――――お待たせいたしました』


 ここで運営からのアナウンスが入る。


『――――フロンテラ王国調査船団と、アングル族。【力】を求める者たちの対立が始まりました』

『――――それにより【陣営】分けが終了。ただいまをもって新大陸調査イベントは、対戦フェーズに移行します』


「陣営分け? いつの間にそんなことが?」


『――――調査船団からの指令を受け、動いていたプレイヤーの皆さまは赤の腕章。フロンテラ陣営』

『――――アングル族からの依頼を受け、フロンテラ国に反する行動をしていた皆さまは青の腕章。アングル陣営』

『――――この二つに加え、いくつかの少数【陣営】がございます』


「なるほど、私たちはテーラ陣営ってところかしら?」

「そのようですね」


『――――また、これ以降は陣営間での対戦となりますが、リーダーの打倒、合意による敵陣営の吸収、統合も可能です』

『――――そして見事、最終目標を成し遂げた陣営の勝利となります』


「リーダー次第で陣営の吸収や統合も可能……うちの場合はメイがリーダーってことみたいね」

「メイさんの腕章、金の輪が付いています」

「あっ、本当だ」


 見ればメイの腕に現れた腕章には上部下部に二本ずつ、輝く金の輪が施されている。

 それがリーダーの証のようだ。


『――――それではただ今をもちまして、対戦フェーズ……スタートです!』


「テーラ陣営は私たち以外にいないのかしら。さすがにこれだけだと、できることも限られそうだけど」


 レンが困惑していると、見知らぬ集落の住人が出てきて声を上げた。


「おお、戻ったか!」


 どうやら他にも、テーラのクエストを受けて行動していた一団がいたようだ。

 その腕には、メイたちと同じく緑の腕章。

 数少ない、同陣営の仲間で間違いなさそうだ。


「……あれ? もしかしてメイちゃんか!?」


 同陣営の面々が、メイを見つけて駆け寄ってくる。


「はいっ! メイですっ!」

「テーラにいたのか、気づかなかった!」

「しかも同じ陣営! これは面白くなりそうだな!」


 メイのエメラルドグリーンの腕章を見て、うれしそうにするプレイヤーたち。


「他にも、テーラに至るルートがあったのね」

「俺たちは最初、フロンテラ船団員からクエストを受けてたんだけどさ……」

「なんか邪魔な大木を切り倒して道を作れとか言われて……でもそこが動物たちの巣になってたんだよ」

「伐採の選択を迫られて、それを断ったところでテーラの人に出会ったんだ。それでこの集落にたどり着いたって感じなんだけど……正解だったな」

「ああ! メイちゃんと同じ陣営とか最高じゃねえか!」

「イベント、がんばろうぜ!」


 早くもテンションを上げる、テーラ組プレイヤーたち。

 さっそくメイは、ペコっと頭を下げる。


「メイですっ! よろしくおねがいいたしますっ!」

「「「こちらこそっ!」」」



   ◆



「メイちゃんたち、どうしてるかなー」


 長めの黒髪を頭の左右で大きめのお団子にした小柄な少女が、アナウンスを聞きながらつぶやく。


「PV可愛かったよなー……しかもあの可愛さであの強さなんだもんなぁ」

「実は私たち、船が同じだったんだよ」

「うおいっ! マジかよ! ……いや見つけたんなら言えよっ! あたしも同じ船だったでしょうが!」

「メイちゃんとお話してたら、なんかもう呼びに行かなくてもいいかなって」

「なんでだよ! 来いよ!」

「その間にメイちゃん、どこか行っちゃうかもしれないじゃん」

「お前なぁ……」


 大げさなツッコミを入れているのは、綺麗な長い黒髪と華奢な体つきの少女。

 見ための清楚さに反して、リクションは激しめだ。


「美少女野生児……最高の一撃を叩き込みたい」


 そうぽつりとつぶやいたのは、目立つ赤リボンに短いピンク髪の少女。


「おう! そうだよな!」

「そして回避されて、最強の一撃を叩き込まれたい」

「どうしてそうなる」

「あっはは! 相変わらず変人ぶりだね」

「とにかく! 今回メイちゃんたちは敵みたいだからな! この新大陸できっちり叩いてやろうぜ!」

「おおーっ!」

「私は叩かれる感じで」

「だからなんでだよ」


 そう言ってピンク髪の変人の頭に、チョップを入れる清楚少女。

 友人同士で組んだ三人組の前には、アングル族陣営のプレイヤーたちが大挙している。

 そしてそんな清楚少女の青い腕章には、彼らのリーダーの証である金の輪が施されていた。

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