第429話 陸ガメは守り神

「すごーい!」


 土煙をあげながら現れたのは、巨大な陸ガメ。


「私たちがいた丘そのものが、カメの上だったわけね」

「……ひっくり返ってますね」


 陸ガメはひっくり返った状態のまま、両手足をもそもそさせる。


「「「…………」」」


 両手足をブンブンさせる。


「「「…………」」」


 起き上がれない。

 それからもっとブンブンさせたかと思うと……そのままぐだっと力を抜いた。


「あきらめるんじゃないわよ」

「『しゃーない』みたいな態度です」

「あはははは」


 陸ガメは、すっかり諦めモードだ。


「もしかしてこの子、何かでひっくり返ってそのまま土や雨が降り積もって丘になっちゃったのかしら」

「とんでもない話ですね……」

「倒れたこの子を、起こすところからスタートなの?」

「だとすればやはり、攻撃してひっくり返す形でしょうか」


 ツバメがそう言うと、陸ガメは手足を引っ込めて準備万端。


「そうみたいね」

「だ、大丈夫かなぁ」

「HPゲージがないから、問題ないはずよ。一定以上の威力が必要ってだけだと思う」


 そう言われてメイは、陸ガメからわずかに距離を取る。

 それから剣を掲げ、狙いを定めると――。


「それではいきます! 【ソードバッシュ】!」


 振り降ろした剣から走る衝撃波。

 陸ガメはゴロンゴロンと大地を派手に転がって、見事に甲羅が上を向く形になった。


「「「…………」」」


 しかし、動かない。


「……ウ、ウソでしょ?」


 カメはピクリとも動かない。


「ちょ、ちょっと待って、別に外傷もないしHPゲージもないんだからこれで終わりってことはないわよね!?」

「あ、あわわわわーっ」

「とにかく様子を見てみましょう!」


 右往左往し始めるメイ。

 三人が大慌てで駆けつけると――。

 陸ガメはスッと、何事もなかったかのように顔を出した。


「紛らわしいわね! もっと早く出てきてよ!」


 普通に出てきた陸ガメの頭に、レンがツッコミを入れる。

 するとそんなレンのツッコミにあくびで応えたカメは、ノロノロと歩き出した。


「湖の方に向かってるのかしら……【浮遊】」


 レンは、その背に乗ってみる。

 それでも陸ガメは、特に気にすることなく先へと進んでいく。


「楽しそうっ! 【ラビットジャンプ】!」


 メイが続き、二人並んで腰かけるとツバメも【跳躍】で甲羅の上へ。

 なぜか正座で腰を下ろした。

 そのまま三人は、大きな陸ガメの上に乗って進んでいく。


「さすがに、ただのんびりと移動していくだけとはならないようですね」

「そうみたいね」


 やがて現れたのは、二人の従魔士NPCたち。

 麻の服に革の部分鎧という格好。

 どうやら、集落の住人や調査団員ではなさそうだ。


「急に騒がしくなったと思って来てみたが、ようやく見つけたな……!」

「ああ。あれを捕えられれば我らが大望に近づくことができる。いくぞッ!」


 二人の従魔士NPCが短杖を掲げて、召喚陣を呼び出す。

 現れたのは紫の毛並みをした、二体の巨猿。

 その体躯は5メートルほどの高さを誇り、見るからに近接型といった様相だ。


「「やれ! あのカメを狙うんだ!」」

「ツバメちゃん、レンちゃん!」


 動き出した二頭の大猿に対応するメイたち。

 亀の甲羅から飛び降りると、真正面から敵を迎え撃つ。

 飛び掛かりと共に振り下ろされるのは、巨大な拳。


「よっと!」


 これをメイがかわすと、続くのはなんと頭突き。


「ええっ!?」

「なっ!?」


 そのまま前頭部を激しく地面に打ち付ける一撃を、メイとツバメは驚きながらバックステップで回避する。

 そして再び距離を詰めようと、足に再び力を込めたところで――。

 なんと巨猿は手を地面に突き刺し、土を巻き上げた。


「「ッ!?」」


 思わず顔を背け浮てしまう二人。

 さらにその背後から飛び掛かって来る、二頭目の巨猿。

 両拳を合わせ、そのまま強烈な叩き付けを狙う。


「【加速】!」

「【バンビステップ】!」


 地面が揺れるほどの一撃を、ツバメとメイは感覚で左右に分かれて回避。

 するとさらに二頭目を押しのけるようにして、一頭目がつかみかかって来た。


「うわっ! うわっ! うわわっ!」


 続けざまに伸ばされる手。

 それを追うように飛び込んできた二頭目の振り回した拳が一頭目に当たって、バランスを崩す。

 もはやコンビネーションと言い難い、二体の大暴れ。


「ここまで無軌道な暴れ方をする敵もめずらしいわね……っ!」


 アクションゲームにおいて稀に見る、『発狂』状態になった近接モンスターのような暴れぶり。

 そんなボスが二体というのは、予測もしづらくやっかいだ。


「【ラビットジャンプ】!」


 ここでメイは一度戦況を変えるため、後方へ大きく跳躍。

 すると一頭目の巨猿は近くの岩を持ち上げ、そのまま投擲してきた。


「もう一回! 【ラビットジャンプ】!」


 投じられた岩は地面を削り、木をなぎ倒しながら転がっていく。

 その暴れぶりは恐ろしいが、連携が軽視されている分だけ隙も生まれがちだ。


「【加速】【リブースト】【電光石火】!」


 残った個体をツバメが攻撃することで、ターゲットを奪い取る。

 これでメイとレンは、一頭目に集中できる状態となった。


「【コンセントレイト】! メイ、ぶん投げ攻撃ならこっちの方が上だってところ、見せてあげましょう!」

「りょうかいですっ!」

「【氷塊落とし】!」

「【ゴリラアーム】!」


 メイ、地面に刺さった氷塊をガッチリとつかみ上げる。


「いきますっ! それぇぇぇぇ――――ッ!!」


 今まさに岩を投じたばかりの巨猿に、直撃する氷塊。

 尋常じゃない弾き飛ばされ方をした巨猿は、ゴロゴロ転がって樹木に叩きつけられた。


「【フレアバースト】!」


 即座に叩き込む爆炎が大きく敵HPを削る。

 するとここで、従魔士が再び手を掲げた。

 スキルエフェクトと共に巨猿たちの手に握られたのは、紋様入りの石棍棒。

 叩きつける度に爆発を起こす石棍棒の威力は高く、直撃すれば大ダメージ必須だ。


「【加速】【リブースト】!」


 しかし装備の変更はアダとなる。

 怒涛の攻めを見せていた二頭目の巨猿の前に、とにかく回避だけを続けていたツバメ。

 無軌道な拳の振り回しよりも、武器による攻撃の方が圧倒的に『見』やすい。

 安易な振り降ろしをV字移動で回避したツバメは、ダガーで二連撃。


「【電光石火】!」


 二度目の降りおろしを、斬り抜けながら回避する。

 そしてツバメが作った隙を、レンは逃さない。


「高速【連続魔法】【フレアアロー】!」


 放たれた高速の炎矢が三連発で着弾し、大きく体勢を崩した。

 巨猿二頭のHPはこれで、どちらも3割ほどまで減少。


「くっ、やりやがる! 仕方ないあれを使うぞ!」

「おうっ!」


 ここで従魔士二人が、同時にスキルを発動する。


「「【ギガンティア】!」」


 すると二頭の巨猿は、その体躯を大型化。

 そのまま驚くほど高く跳躍し、石棍棒を振り上げた。

 輝く紋様。

 二頭の巨猿は必殺の合体攻撃を、陸ガメに叩きつけにいく。


「必殺スキルで、直接カメの方を狙いに来たわっ!!」


 まさかのハイジャンプ攻撃。

 メイの【鹿角】によるパリィで片方の攻撃はどうにかできるが、もう一体をどうするか。

 レンは思考をフル回転。


「……【コンセントレイト】」


 ギリギリまで溜めたところで放つ【フレアバースト】で、吹き飛ばすという作戦に賭けることを決めるが――。

 次の瞬間、陸ガメの甲羅にも光る紋様が浮かび出した。

 現れたハニカム型の光エフェクトが、石棍棒と接触。

 すさまじい勢いで火花を散らし、直後に巻き起こった大爆発を相殺。

 まさかのノーダメージ。

 そして紋様による光の盾は、メイたちの前にも現れていた。


「……どうやら、防御関係のスキルと見て間違いなさそうね!」


 身体に宿る白い輝きに、普段『攻撃は避けないと大惨事』という意識のツバメとレンは、楽しそうな笑みを浮かべた。

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