第428話 守り神を探します!

「それでは行ってきます!」

「よろしく頼む!」

「お願いしますっ!」

「頼んだぞ……」


 探すのは大きな陸ガメ。

 箱のような高い甲羅を持つ、大きな守り神だ。

 まずメイたちは、ワニたちを倒したことで通れるようになった川辺付近を動いて探す。

 川べりは比較的道が開けていて、移動もしやすい。

 メイは木々の枝を跳びながら【遠視】で、レンも【浮遊】で辺りに視線を走らせる。


「大きな白いトラと巨鳥は見えたけど……あれも何かのクエストボスなんでしょうねぇ」


 強そうな個体を見かけて興味深そうな視線を送るレン。

 さすがはジャングル、動物魔獣の数がかなり多いようだ。


「かなりの広さを誇るマップだし、簡単には見つからない感じかしら」

「大きな陸ガメ、目立ちそうな感じですけど……【投擲】っ」


 高さのある陸ガメの姿は、動いていればそれなりに目立つはず。


「【跳躍】【電光石火】!」


 ツバメは二人に続きながら、現れた蛇のモンスターを撃破。


「【ゴリラアーム】!」


 現れた奇怪な鳴き声の鳥が吐く酸性の液体をかわしながら、メイは倒木を軽々持ち上げる。


「それっ!」


 そして豪快な振り回し。

 奇怪な鳥は、野球の球のような勢いで飛んで行った。

 三人はこうして、早いペースで捜索を進めていく。


「居場所を変えるって、この密林全体を移動してたりしないわよね?」

「そうなると、探すのが一気に難しくなりますね」

「でも、報告に戻るのに手間がかかりすぎるタイプのクエストとも思えないのよね」


 これまでのゲーム経験から、レンはそんな予想を働かせる。


「普通にあの集落にたどり着いただけでは出てこないレアなクエストですし、何とか見つけたいところですね」

「それなら、もっと高いところから見てみようか!」


 するとメイが、空を指さしてそんな提案をした。


「はい、お願いします」

「それでは――――何卒よろしくお願いいたします!」


 突き上げた右手に輝く【召喚の指輪】

 空に現れた魔法陣を割るようにして出てきたのは、緑からオレンジへと変わる毛並みを持った美しい巨鳥ケツァール。


「それっ」


 メイがその背に飛び乗ると、ツバメとレンもそれに続く。

 するとケツァールはその大きな翼を羽ばたかせて、空へと舞い上がった。

 広くなった視界を存分に利用して、三人はあらためて目を走らせる。


「……いないわね」

「大きな亀がいればすぐに分かりそうなのですが……」


 自然とメイに集まる視線。


「いないなぁ」


 しかし【遠視】をもってしても発見ならず。


「この範囲の探索で見つからないとなると……もっと大きなクエストにつながってて、そこから見つかる感じかしら」

「それなら亀ではなく、きっかけを探す形ですね」


 三人はしばらく付近を見渡した後、見つけた小高い丘に降りることにした。

 メイはまた、右手をおでこに当てて辺りを見回してみる。


「変わったものはないなぁ……お近くにお住みの皆さん、大きな陸ガメさんをご存じないですかー?」


 たずねると、やって来た蛇がメイの隣でくつろぎ出す。

 近くを飛んでいた鳥がやって来て地面をつつき始め、タヌキは木のそばで土を掘り出す。


「この子たちも、知らないのかな」

「そうなると……今いる動物たちが知らない場所という可能性もありますね」

「この子たちが関係ない場所だと……水中とか?」

「水の中はありえるかもっ!」

「でも、陸ガメでしょう?」

「……陸ガメは泳がないの?」


 全員「どうなんだろう」と首を傾げる。


「ですが、泳いで探すという形はありそうですね。陸ガメが水中にいるというのも少し不思議な感じですが……」


 どうにもピンと来ず、他にできそうなことがないから確認しておこうかくらいの感覚。

 どこか釈然としないまま、三人並んで歩き出すと――。


「「「ッ!」」」


 ガサガサと、草の影から慌ただしい音が鳴った。

 三人はとっさに視線を向けて警戒する。すると。

 一匹の小動物がひょこっと顔を出した。


「「かわいい!」」


 思わずメイとツバメの声が重なる。


「イタチかな?」

「フェレット?」

「オコジョ?」


 白い身体に灰色のラインの入った縦長の小動物は、興味深そうにメイのもとに寄ってくる。

 そしてそのままメイの身体を駆け上り、肩の上へ。

 出会った瞬間に懐かれる。

 その動物値の高さは、折り紙付きだ。


「か、かわいいです……っ」


 すぐにその頭を、人差し指でなでるツバメ。

 その毛並みの魅力には逆らえない。

 一方先を越されたレンは、メイの方をなでてみる。

 そして「へへー」と笑うメイに、またレンも笑い返す。


「どうしたのー?」


 メイが首を傾げて問いかけると、そのイタチ科っぽい小動物もまた首を傾げた。

 メイとイタチが同じ角度で首を傾げる絵面に、ツバメはいよいよ「最高です……」と顔を紅潮させる。


「……もしかして、陸ガメさんの居場所を知ってるの?」


 続けて問いかけると、イタチはメイの肩を蹴って空中で華麗に一回転。


「「「ッ!?」」」


 風の刃を、足元に叩き付けた。

 まさかの事態に驚く三人。

 しかしイタチはもう一発、風の刃を地面に叩き込んだ。

 そしてそのまま風刃で生まれたひび割れに爆風を撃ち込むと、土の中から硬質なクリーム色の層が現れた。

 さらにもう一度、続けざまに爆風を撃ち込む。

 いよいよクリーム色の層が広がったところで、揺れ始める地面。


「これって、もしかして……」

「はい。私も同じことを考えていました」


 足元の大きな揺れは続き、小高い丘にひび割れが入り出す。

 揺れはさらに大きくなり、割れた土が崩れ落ち、木々が巻き込まれて滑り落ちていく。


「え、ええっ?」


 崩れた丘から飛び出してきたのは、四枚のヘラのような形をした物体。

 バタバタと動く四枚の何かによって、残っていた土も崩れ落ちていく。


「ええええええええ――――っ!?」


 こうなればさすがに気づく。

 メイたちが一息ついていた小高い丘は、ひっくり返った巨大な亀だったようだ。

 ふわふわと【浮遊】でカメの腹部から降りていくレンと、それに続くメイとツバメ。

 どうやら動物たちが穴を掘ったり、その場から動かなかったのは、まさにメイの足元に目当ての陸ガメがいたからのようだ。

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