第427話 金の魚と新たな依頼

「……見事だ。どれだけワニを叩いても、最後に控えた大型がいる限りどうしようもなくてな……苦慮していたところなんだ」

「すごいね、おねえちゃんたち!」


 白ワンピースに羽飾りの少女が、うれしそうに飛び跳ねる。

 そんな少女の笑顔に、メイもニコニコだ。


「これで湖にも平穏がおとずれるだろう」


 不精ひげの男と少女に感謝されながら、村に戻ってきたメイたち。


「ありがとう、助かった。湖はこの密林の大切な場所であり、我々の住居を変えるというわけにもいかなくてな。本当に困っていたんだ」


 そういうと男は自分の家に戻り、すぐにまたメイたちのもとに戻ってきた。


「君たちに、感謝の気持ちを贈らせてくれ」


 不精ひげの男はそう言って、古びた巻物を取り出した。



【罠の心得】:罠に属するスキルの使用時に、二面同時の設置が可能になる。二つ目の罠を張る際のMP消費は2倍。



「弓術師とか従魔士なら罠のスキルを持っているでしょうし、これも活きると思いますが……どういうことでしょうか」


 報酬がパーティメンバーに合わないものが出てくることもある。

 しかしその外れ方に、わずかに面食らうツバメ。


「……もしかして。ちょっと待ってて」


 レンはそう言って【設置魔法】のスキル説明を確認してさっそく使用。

 状況を確かめる。


「……いける。このスキル、【設置魔法】を二面で張ることができるようになるみたいだわ。これは何気に大きいわね……」


 その上、同じ魔法だけでなく違う魔法を一つずつという形式も可能だ。

 そこまで確かめたところで、使用をキャンセル。


「設置魔法も踏んだら発動する罠っていう扱いなのね。そう考えると、他にも罠系のスキルで【設置魔法】の効果に影響するものもあるかもしれない」


 意外な展開に「興味深いわ」と考え始めるレン。


「イベントの対戦が始まると、効果が活きそうですね」

「ええ。今から楽しみだわ」


 そう言って思わずうれしそうに笑うレンを、見つめるメイとツバメ。

 ゲームにおける強化時などに見せる目の輝きと素直な笑い方は、二人のお気に入りだ。


「君たちが、湖のモンスターたちを片付けてくれたという冒険者かね?」


 そこにやって来たのは、どこか頑固そうな雰囲気をした老人。

 不精ひげの男と同様に、腰に帆布のようなものを巻いた精悍な顔つきの男だ。


「そうだよ! 私を助けてくれた上に湖まで守ってくれたの!」

「長老、身体は大丈夫なのか?」

「君たちが届けてくれた金の魚はやはり、万病に効くようだ。今までにないほど身体の調子がいい」


 ツバメ、あらためてうれしそう。


「ずいぶんと世話になってしまったようだな。我々はこの密林と共に生きるが定め。今回のことには深い礼をもって応えねばならない」


 そう言って長老は、【雷ブレード】を5つほどくれた。


「今はこれだけしかないのだが、魔法石さえあればいくらでも加工することができる。属性を秘めたブレードが必要な時はいつでも声をかけるがいい」

「おお、さすが長老だ。仕事が速い」

「これは……思わぬ副産物が手に入ったわね。金の魚はミッション的な扱いで、釣っておくとこういう形で属性ブレードを特別に作ってもらえるようになるのね」

「長老さんは、属性ブレード作りの職人さんだったのですか」


 ただの【投擲】に、属性効果も乗せられるようになる。

 まさにその効果が活きそうな場所で得た新たな武器に、ツバメも歓喜する。


「時に君たちは、どうしてこの島におとずれたのかね?」

「冒険ですっ!」

「なるほど……ならば気を付けてほしい。実はこの島には大きな村があってな。その動きが怪しいのだ」

「動きが怪しい?」


 メイは首と尻尾を傾げる。


「どうもヤツらはこの島に眠る守り神たちを利用しようとしているようだ。だがそれだけではない。新たな火種の気配も感じさせている」


 長老の言葉に、色とりどりの羽飾りを付けた少女がこくりとうなずく。


「私の占いでは、危機をもたらす欲深き者たちが争いを始めるって出てたの」

「我らはこの島と共に生き、その守護者の一族として過ごしてきた。だが今は、良からぬ気配に脅威を覚えている」

「良からぬ気配……それが戦いにつながっていくのかしら」

「対戦イベントの始まり方としては、王道ですね」


 どうやら占い師だったらしい少女と、長老の話を聞いて考え込むレンたち。


「そこでなのだが……来るべき時に備えて、我らが守り神の一柱を探してきて欲しいのだ」

「守り神?」

「どうもここしばらく姿が見えていなくてな……いざという時は、その力を貸してくれることになっているのだが……」

「次は探し物になるのかしら?」

「そういうことなら、おまかせくださいっ!」

「かの守り神は水場にいることが多いのだが……それ以外の時は、密林の東部で常にゆっくりとその居場所を移していた」

「常にゆっくりと居場所を変える守り神……?」

「想像がつきませんね。どのような姿をしているのでしょうか」


 ツバメがそう言葉にすると、不精ひげの男が地面に絵を描き出した。

 大雑把ながらも、特徴をつかんだその形状。

 地面に描き出された、守り神とは――。


「これって……亀だーっ!」


 どうやら探すべき守り神は、かなりの大きさを誇る陸ガメのようだ。

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