第426話 雷と環境効果
「金の魚がどういう扱いになるのかは分からないけど、無事に進めそうね」
『魚釣り』のクエストは見事クリア。
メイたちが陽光にきらきらと揺れる湖面を眺めていると、不精ひげの男と少女がやって来た。
「おお、見事だ! これはありがたい!」
「すごいねえ!」
「金の魚も釣れたのですが……」
「おおっ! 金の魚は病に効くんだ! 村の長老がずっと不調でなぁ。助かるよ!」
ツバメ、うれしそう。
「君たちのおかげで、食料にはしばらく困らなそうだよ」
「最終的には『当分魚は見たくない……』みたいなことになると思うけどね」
レン、ここでもその漁獲量にツッコミを入れておく。
すると少女が不意に、視線を川の方へと向けた。
「来たよ! 川の方からワニがたくさん集まってくる!」
「来たか……ヤツらがこの川に来てからは湖もヤツらの縄張り状態でな。我々も、ここに住む動物たちも困り果てているんだ」
現れたワニの大群。
その数はなんと200匹に迫る。
「楽しんだ後はモンスター退治の時間ってわけね……でも、ちょっと多くない?」
「ここは私に先行させてもらえないでしょうか」
「いいんじゃない? いきなり大ボスってわけでもないし」
「ツバメちゃんにお願いしますっ!」
「はい!」
短く答えてツバメが先行する。
「それではさっそく! 【跳躍】【投擲】!」
手前ではなく、少し奥のワニを狙って放つのは、不精ひげの男にもらっていた【雷ブレード】
狙いのワニに刺さった瞬間、走り抜ける雷光。
川の水によって広がった電撃は、付近一帯のワニを二十匹ほどまとめて硬直させた。
「おおーっ!」
それを見たメイは即座に剣を掲げ、硬直中のワニたち目がけて振り降ろす。
「【ソードバッシュ】!」
駆けていく衝撃波は水しぶきを跳ね上げながら進み、気持ちいいほどの勢いで硬直ワニたちを消し飛ばした。
すると残ったワニたちは一気に速度を上げ、こちらに向けて突進してくる。
「来たっ! こうなると危険だぞ!」
不精ひげの男が叫ぶ。
180度に近い角度から迫る、体長5メートルにもなる大型のワニたち。
一斉に迫りくる絵は恐ろしく、また体勢が低いために様々なスキルが当たりにくい。
対多数の殲滅力が低ければ、その勢いに呑まれてしまうだろう。しかし。
「【投擲】!」
再びツバメが【雷ブレード】を放ち、動きを止める。
水によってその有効範囲を広げた雷光が、集まって来るワニたちをまとめて感電。
「【ソードバッシュ】!」
単なる的と化したワニの一団に向けてメイが放つ衝撃波が、まとめて吹き飛ばす。
この隙を突いて突撃してきたワニの飛び掛かりを、足の引き一つで回避して【装備変更】
【大地の石斧】をつかんだメイは――。
「それ、それ、それそれそれーっ!」
続くワニたちの行進を、大きな石のハンマーで叩いていく。さらに。
「【フリーズブラスト】!」
炸裂する氷嵐が、深くはない川の上面を凍結。
数十匹のワニたちが動きを止めた。
そしてそんな凍結状態のワニたちの上を乗り越えてくる個体には――。
「【フレアバースト】!」
爆炎でお出迎え。
こうして大量にいたワニの群れを、早くも半分ほどまで減らしてみせた。
「大したものだ……」
不精ひげの男が感嘆の息をつく。
ツバメが【雷ブレード】を選んだ理由は、『水』との組み合わせを考えてのことだった。
環境効果を使った見事な戦いぶりで、敵の数が半分を切ったところで――。
「ギャアアアアアア――――ッ!!」
川の上流から現れたのは、これまでのワニたちを遥かに上回る巨大ワニ。
身体の厚さ自体も数倍になるボスワニの体躯は、大型トラック2台分に至ろうかという長さだ。
あいさつ代わりに放たれるのは、硬質な尾による振り払い。
「【ラビットジャンプ】!」
「【跳躍】!」
前衛二人はこれを真上への跳躍で回避。
すると巨ワニはそのまま一回転して咆哮。
起きる暴風は川の水を弾き、横殴りの水弾となってメイたちを叩く。
そして視界を悪くしたところで狙うのは必殺の【喰らい付き】
「これは絶対に喰らっちゃいけないやつね!」
猛烈な直進からの喰らい付きは、一撃で大ダメージ。
その上あさっての方向へ放り出されてしまうという、面倒な攻撃だ。
それが湖の方なら復帰に時間がかかり、ワニたちの方なら一転最悪の窮地となってしまう。
「【ラビットジャンプ】!」
「【跳躍】!」
「【浮遊】!」
しかしこれをメイとツバメは左右に、レンは後部上方へ飛ぶことで回避。
すると巨ワニは、そこから半回転。
立てた長い尾の叩きつけ、狙いはメイだ。
もちろん早い時点でこの動きに気づいたメイは、【バンビステップ】で後方へ下がっていた。
「――――今です!」
叩く水面、大きく広がる大量の水飛沫。
ツバメはここでレンに目配せした後、巨大ワニの攻撃に対応。
「【投擲】!」
投じた【雷ブレード】は難なく巨大ワニの身体に当たり、雷光を閃かせる。
「「ッ!!」」
舞い上がった大量の水飛沫を駆け抜けていく雷光は、嵐の中で暴れ狂う稲妻を思わせる強烈な光を放ち、同時に雷鳴を響かせた。
「すごーい……」
その衝撃に、呆気にとられるメイ。
バリバリという爆音と共に、付近にいたワニたちもまとめて硬直させる。
「【コンセントレイト】【フリーズブラスト】!」
隙だらけのワニたち。
そこに続くのは、魔力集中によって威力を上げた氷嵐。
倒れるワニたちのいる水面が凍り付いたところで、レンは軽くメイにウィンク。
「最後はまとめてやっちゃって」
「おまかせくださいっ! 【バンビステップ】からの【ラビットジャンプ】!」
雷光からの凍結という、見事な足止め状態にあるワニの一団に向けて空中から迫るメイ。
「ジャンピング【ソードバッシュ】だぁぁぁぁ――っ!!」
猛烈な衝撃波が水面を割る。
水しぶきと共に氷片を巻き上げる一撃は、ワニの一団をそのまま消し飛ばしてしまった。
「おつかれさま! 跳ね上がった飛沫と雷の相乗効果はすごいわね!」
「範囲凍結、お見事でした」
「二人ともすごかったよー!」
三人集まってハイタッチ。
「雷を選んだのは正解だったわね!」
「おそらくこのクエスト自体が、環境効果を利用することへの示唆も含んでいるのではないかと思いました」
これまでにない派手なエフェクトの攻撃に、ツバメ自身も興奮気味。
こうしてメイたちは水場の効果を利用しつつ、見事にクエストを攻略してみせたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます