第425話 久しぶりの釣りを楽しみます!

 小さな集落で釣りとワニ退治を依頼されたメイたちは、湖に向けて歩き出した。

 ジャングルには動物も多く、メイが歩くとちょくちょく顔を出してくる。


「これはまた広い湖ですね」


 そんな動物たちと触れ合いながらたどり着いたのは、澄んだ水の大きな湖。

 メイたちは川との合流地点に近いところの桟橋に、並んで腰を下ろすことにした。


「必要なのは『大きな魚』一匹と『小さな魚』をたくさん。竿によって釣れる魚が違うのね」


 レンがアイテムを確認すると、切り替えで大中小と三種類の竿を使い分けることができる。


「なるほど、前回とは少し仕様が違うみたい」

「そうなのですか?」

「小さな魚を釣るには小さな釣り竿で、【技量】が高い方がいい。大きな魚を釣るには大きな釣り竿で、【腕力】があるといいんだって。必要な魚はこの二つで足りるみたいよ」

「それでしたら、まずは私とレンさんで数が必要な小さな魚を狙う形でしょうか」

「メイに大きな魚を任せる感じね」

「おまかせくださいっ!」


 こうして自然とメイは大きな竿、ツバメとレンは小さな竿で釣りが始まった。


「やっぱり……こういうクエストもいいわよねぇ」

「本当だねぇ」

「本当ですねぇ」


 のほほんとする三人。

 日の光を浴びながら、一緒に湖を眺める。

 のんびりと揺れるメイの尻尾を、興味深そうに見つめる鳥たち。

 澄んだ水は見ているだけでも心地よく、穏やかな時間が流れていく。


「やっぱり、仕様が変わってるわね」


 そう言ってレンは、小さな魚を釣り上げてみせた。


「竿が引いたら四種類くらいの『手ごたえ』から判断して、釣りあげるかどうかを選択。手ごたえを間違えたらリセット、合ってるのにモタモタしてたらエサを取られてタイムロスになるって形ね。ツバメ、『くぃっ』と短い正直な引きが釣るための手ごたえよ」

「分かりました」


 この感覚に気づき、慣れるまでは、ある程度の苦戦を強いられるはずのクエスト。

 レンは手の感覚で針が『流されているだけ』なのか『ヒットしている』かを判断して、目的の小さな赤い魚を次々に釣りあげていく。

 さらにその話を聞いたツバメも、ペースを上げ始めた。


「レンちゃんすごーい……」

「釣りは色んなゲームに実装されてるし、ついつい無心で遊んじゃうから結構好きなのよ……よっと」

「なるほど、やはり手ごたえが鍵ですね」


 そう言ってツバメが、赤い小魚を釣り上げる。


「そういえば、メイに教えてもらったクッキーおいしかったわよ。チョコレート風味なんだけど、後味はふわっとバニラみたいな感じがするのよね」

「うんっ! チョコの味が強すぎないのがお勧めポイントですっ!」

「ブラックムーンという商品ですね。私も明日、ついに食べることができます」

「明日……なんで?」

「はい、ようやく誓約が解除されるのです」

「誓約……? もしかしてクインフォードで【スティール】を使った時にしてた、お菓子一週間我慢のやつ!? 本当にやってたの!?」

「はい」


 赤い小魚を次々に釣り上げながら、驚きの声を上げるレン。


「あっ! きたかもっ!」


 するとメイの大きな釣り竿にも、ヒットの気配。

 レンが言った通りのしっかりとした引きの感覚に、メイは大物を確信。

 さっそく力をこめる。


「この引きの強さは間違いなさそうね! メイ、その糸の震え方は『切れる』前兆っぽいから、その都度力を緩めて! 力任せに引っ張り続けると逃げられる可能性が高いわ!」

「はいっ!」


 難易度を上げた釣りクエスト。

 巨大魚は大暴れしながら、釣り糸を切りに来る。

 それどころか、強い挙動でメイを湖に引き込まんとする勢いだ。

 しかし、全然動かない。


「……なるほどね。本来なら力強い魚の動きに振り回されながら押し引きをしなくちゃいけないけど、メイの【腕力】なら動かされることはないってわけね」


 こうなればメイは、糸の震えにだけ気を付ければいい。


「緩めて……引っ張る! 緩めて……引っ張る!」


 切れそうになる度にわずかに力を緩め、少しずつ自分の方に魚を引き寄せていく。

 その見事な駆け引きぶりに、レンも思わずテンションが上がる。

 力を緩めた時にくたっと緩み、引いた時にピン! となるメイの尻尾にツバメも夢中だ。


「この距離ならいけるわ! 最後は手加減なしで、思いっきり釣り上げちゃって!」

「りょうかいですっ! それええええええ――――っ!!」


 陽光に照らされる水しぶき。

 空を舞うのは、まごうことなき巨大魚。

 見事メイは、クエスト条件である大型魚の釣り上げに成功した。


「やるじゃない!」

「レンちゃんのアドバイスのおかげだよーっ!」


 釣れる魚の大きさは【腕力】値にも多少関わっているのか、『ヌシ』級だ。

 キャッキャと盛り上がる二人に、ツバメも大きくうなずく。


「こちらも、指定の数を超える量を釣ることができました」


 赤い小さな魚も、『コツ』をつかんだ二人は失敗もなく釣り上げ続け、指定量を超過。

 クエスト達成に必要な魚を、問題なく揃えてみせた。


「結構あっさり達成できたわね」


 気持ち良く魚を釣り上げたメイたちは、満足げに息をつく。


「そういえば、中くらいの竿は何に使うのー?」

「これはちょくちょく小さな魚が釣れて、運が良ければ特別な金の魚が釣れるって感じみたい。まあ、オマケの要素ってところね」

「せっかくだし、少し挑戦してみようよ!」

「クエスト自体は良いペースでクリアできたし、金の魚は必須アイテムでもない。ちょっとだけ遊んでみてもいいかもね」

「いいですね」


 三人はそのまま並んで、中くらいの竿を手に桟橋に腰を下ろす。


「金の魚を釣るのって、やっぱり難しいのかな?」

「オマケの要素だし、確率はかなり低いと思うわ。引き際を考えないと、最悪イベントが釣りだけで終わる可能性も出てくるわよ」

「ええっ!?」


 レンの予想は正しく、確率はかなり低い。

 とはいえ釣れなくて当たり前の『オマケの要素』、三人は楽な気持ちで釣り針を投じる。


「ふふふ。こういうのは悪いハマり方をしちゃうと、何千回やっても釣れないなんてこともあるのよ」

「そうなんだぁ、それは怖いねぇ」

「ですが、何の重責もかかっていないオマケ要素と考えると……本当に気が楽です」


 そう言って穏やかな気分で、竿を引いたツバメの表情が固まる。


「……釣れました」


 ツバメの釣り上げた小さな魚に、目を奪われるメイとレン。

 それはまさに、金色の魚。


「ツバメちゃんすごーい!」


 輝く黄金魚に、目を輝かせるメイ。

 一方レン「こういうところで、いざという時の幸運と不運のつじつまを合わせてしまってるのでは……」とは、言えない。

 頭の中であれこれと思考を重ねた結果。


「や、やるじゃない! ツ、ツバメの運も良い時は良いのよ、やっぱり!」


 できるかぎりの笑顔で、できるだけ良い様に言うのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る