第421話 最初のクエストです!
「どうしたのー?」
新大陸で最初に出会ったのは、白の短いワンピースに色とりどりの羽飾りを付けた、活発な雰囲気の黒髪少女。
メイはさっそく、尻尾をゆらゆらさせながらたずねた。
「……家に帰りたいんだけど、いつの間にかモンスターに道を塞がれてしまっていたの」
少女が指さした先には、バレーボール大の花を付けた植物が並ぶ道。
「監視役の花が爆発する種で音を鳴らして、根で身体をつかむ。それからツルを打ち付けて攻撃。そんな危ない樹がたくさん集まってて通れないの。でもここを使わないとすごく遠回りになっちゃうし、危険も多いから……」
少女はそう言ってため息を吐く。
敵は『鳴らして』『捕えて』『攻撃する』タイプのようだ。
「見つかって音を出されると一気に大変になる感じのクエストね。目代わりの花に見つかったり、根に捕まったりしたら、周りの木々にも気づかれるって感じかしら」
「こちらからの攻撃はどうなのですか?」
「大丈夫だよ。でも音がうるさいのとか、派手なものはバレちゃうと思う」
「なるほどー」
「隠れて静かに進んで、音のしないスキルで花や根を黙らせる。スニーキング系のクエストで間違いなさそうね」
「あと、数が多いし倒してもドンドン復活するの。全部相手していたらどうしようもなくなっちゃう」
「戦いは続けても意味がないと」
どうやらこのクエストは、下手に戦い始めると敵側の物量がとんでもないことになって手が回らなくなるようだ。
「倒して進むという形式でないのであれば、何をすればいいのでしょうか」
「親株のところまで行って、この【除草薬】を使ってほしいの」
「思ったより強烈なクエストね」
朗らかな少女がハードなことを求めてくるクエストに、レンは薄く苦笑い。
「それじゃ、行ってみましょうか」
「見つからないよう、花の向きには気を付けてね」
「りょうかいですっ!」
三人は足音に気を付けながら、静かに危険植物の間を進んで行く。
「敵に囲まれていると緊張しますね」
花が向きを変えながら付近の監視をしているという気味の悪い状況の中、進める足。
「なんかメイ、やけに静かじゃない?」
足元には倒木や枝に加えて草も生えていて、どうしても音が立ってしまう。
そんな中でもメイは速く、それでいて静かだ。
「すり足がおすすめだよ」
そう言いながら、スイスイと進んで行く。
「「なるほど」」
「あと体重は後ろ足にかけて、先についた足が安全だったら体重を移動する感じかなっ。足の小指側から地面に下ろすともっと静かになるよっ」
「「…………」」
当たり前のようにそれを実行しているメイに、言葉を失うレンとツバメ。
「音を立てると寄ってくるモンスターもいたから、気を付けてたんだ」
「あらためて、メイのジャングル時代ってとんでもなかったのね……」
メイの歩き方をマネしながら進んでみるレンとツバメ。
すると危険植物の目に気づかれないまま、あっさりと中央地点までたどり着いた。
そしてここにも、たくさんの花。
その向きに注意しながら進んで行くと――。
「「「ッ!?」」」
不意にいくつかの花たちが、こちらに振り向いた。
「うまく進んでも気づかれはするのね! ここは対応力でどうにかしろってことかしら!」
花はつぼみに戻るかのように大きく膨らみ、『炸裂する実』を吐き出そうとする。
それは避けても音が鳴り、付近の木々に合図を送るという嫌らしい攻撃だ。
「【投石】!」
これに即座に反応したのはメイ。
「【投石】【投石】【投石】からの【投石】だーっ!」
見事なコントロールは、的を外さない。
素早く放つ石が、こちらに気づいた花を次々に落としていく。
するとそこに、付近を徘徊していた根が伸び襲い掛かってきた。
派手な回避行動、または戦闘をさせることで大きな音を出させようという狙いだろう。しかし。
「【浮遊】【魔力剣】!」
これをレンが魔力の剣で斬り払っていく。
【夜風のマント】によって姿勢制御力を上げた今のレンになら問題なし。
『捕獲』など許さない。
「ツバメ」
「はいっ」
レンの声に、すぐさま応えるツバメ。
メイの位置からは見えない草の影に、こちらに気づいた一輪の花を発見。
炸裂音を鳴らす実が、発射される。
「【電光石火】【投擲】っ」
「炸裂する前に切って落とすって、やるじゃない……!」
ツバメは発射された実を切り落とし、さらに花をブレードで落としてみせた。
あまりに見事な連携で、危険植物に対応してみせた三人。
「【投石】!」
「【フリーズボルト】!」
「【投擲】!」
新たにこちらに向いた花へ、間髪入れずに攻撃を放つ。
対応はまさに完璧だ。
ところが、ここで不運。
三人は同時に攻撃を放ったが、落とさなくてはいけない花は一つだけ。
落ちた花をすり抜けて飛んで行った氷結魔法とブレードが、その奥にあった危険植物に直撃。
すぐに花たちがこちらを向いて、ツルを伸ばす。
するとそれに合わせて、付近の危険植物たちも一斉に動き出した。
三人は思わず顔を見合わせて笑う。
「それなら今度は、直接相手する?」
「おまかせくださいっ!」
「お相手しましょう」
十体に及ぶ危険植物たちの捕獲根と攻撃ツルが、メイたちに向かって伸びてくる。
襲い掛かる乱舞。
メイは『もうその攻撃は知ってます!』とばかりに、足を置き直すだけでこれを回避。
ツバメも的確な動きで続き、レンも【浮遊】を交えて必死に避けていく。
「根は基本真っ直ぐ捕まえにきて、ツルはほとんど斜めか縦で叩きにくるから、よく見ると結構簡単だよ!」
始まるジャングル回避講座。
レンもこれには「なるほどね」と感心。
「攻撃の軌道が分かっていると、回避が楽ですね」
「これなら移動系スキルがなくても、結構上手に戦えそうだわ」
「うんうん、レンちゃんも上手ーっ!」
メイのアドバイスにレンまで見事な回避を見せ始め、ツバメに至っては動きに合わせて反撃まで狙い出す。
「これなら結構余裕ができるわね……って、なにこれ」
大縄跳びをしているかのような雰囲気に、すっかり楽しくなってしまっていたメイたち。
気づけば大量の危険植物に、付近を包囲されていた。
「そういえばこれ、隠れて進むのが基本だったわね……こうなったら仕方ないわ。メイ、道を作って!」
「おまかせくださいっ!」
メイは手をビシッと額に当てて敬礼。
ただ避けるだけでなく、しっかりと危険植物たちの根やツルを引き付けたところで――。
「【ソードバッシュ!】 」
駆け抜ける衝撃波でまとめて消し飛ばす。
その想定以上の高威力、広範囲攻撃には繁殖再生も追い付かない。
「もう一回【ソードバッシュ】! からの……【ソードバッシュ】だああああーっ!」
この手のクエスト定番、物量攻めはむしろアダとなる。
危険植物の群生地は、圧倒的高威力の範囲攻撃によって『草刈り後』みたいな光景になってしまった。
「すごく、さっぱりしましたね」
「いっそ歩いて行く?」
「賛成ですっ!」
そう言ってさっそく、レンとツバメの腕を取るメイ。
野生の王者メイ、やっかいなスニークミッションは【腕力】で押しのける。
「ふふ。なんだか自作自演のピンチを切り抜けた感じになっちゃったわね」
くすくすと、笑いながら歩を進めるレン。すると。
「あら、また雨?」
危険植物たちの親株を前に降り出す雨。
その勢いは強く、あっという間に豪雨と呼べるレベルになった。
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