第422話 雨の降るジャングル
『花』『根』『ツル』の三位一体攻撃を武器とする、植物型モンスターの道。
見事に切り抜けたメイたちは、『除草薬』を手にその親株となる個体のもとへ向かう。
「すごい雨だねー」
ジャングルの天気自体は変わらず晴れ。
しかしメイたちがたどり着いたその場所には、局地的な雨が降り始めていた。
「かなり強いわね」
「豪雨です」
雨はドンドン強くなり、もはや豪雨と呼べるレベルに。
そんな中たどり着いた『除草薬』の散布場所には、怪しい赤紫の花を付けた大きな低木の姿があった。
これが付近一帯に危険植物を広げている根源だ。
クエストボスはこちらの姿を認識すると、すぐに捕獲のための根を伸ばして攻撃を開始した。
「【バンビステップ】!」
「【加速】!」
雨の中さっそく前衛二人は動き出し、直線的な根の接近を横の動きで回避。
叩きつけにきたツルを、前方への移動で避ける。
「メイ、少し試したいことがあるの。回避中心でお願いしてもいい?」
「りょうかいですっ! 【ラビットジャンプ】!」
「【リブースト】!」
「それじゃさっそく! 【フレアバースト】!」
前衛二人の回避によってできた余裕を使い、レンは爆炎を叩き込みにいく。
「……やっぱり、弱い」
しかし降り注ぐ強烈な雨が、炎を大きく弱化。
上級魔法かつ敵の弱点属性であるにも関わらず、大したダメージを与えられない。
「【連続魔法】【ファイアボルト】!」
続けざまに放った炎弾に至っては、ごく微量のダメージにしかならなかった。
「それならこれはどう!? 【ブリザード】!」
レンはすぐさま使用魔法の属性を切り替える。
迫る根を引き付けて放つのは、氷嵐の壁。
するとすでに濡れていた根の全てが一斉に凍結し、動きを止めた。
「なるほどね」
「おおーっ! すごーい!」
メイも迫る根を尻尾ではたきながら、感嘆の声を上げる。
「【四連剣舞】!」
この隙にツバメが、凍り付いた根を叩き切る。
「【連続魔法】【フリーズボルト】!」
ここでレンは、敵本体目がけて氷弾を放つ。
やはり氷結魔法であれば問題なし。
その効果に変化はなく、ボスの身体にヒットする。
しかし枝々を組むことによる防御で、ダメージ自体は減少。
どうやらこのボスは、守りも固めてくるようだ。
「これがこのジャングルの特性なのかしら。もう水濡れ状態の私たちも、氷結の範囲攻撃を喰らえば同じようになってしまうのは確実ね」
「環境効果が強めのマップ……特殊ですね」
「ツバメ、この感覚をつかんでおくことは新マップで結構大事かもしれないわ。【紫電】も使ってみて」
「はいっ」
「【連続魔法】【フリーズボルト】!」
レンはそう言って魔法を放ち、危険植物をけん制。
「【ラビットジャンプ】!」
花々が一斉に放出した種をメイが真上への跳躍でかわしたところで、ツバメが走り出す。
「【加速】【リブースト】!」
迫るツルと根の間を一気に駆け抜けて、敵本体のもとへ。
「【紫電】! ッ!?」
バチバチッ! という大きな炸裂音。
放った雷光は、その効果範囲を大きく広げていた。
「【フリーズストライク】!」
敵の硬直を見たレンは即座に追撃を仕掛け、HPを3割ほど削り取った。
「基本的に雷と氷属性の強化は間違いなさそうね。ただ雷は範囲内に水濡れの味方がいると感電しそう」
「注意が必要ですね」
このままダメ押しに向かおうとするレンとツバメ。
しかし吹き付けてきた強風によって、ものすごい勢いでメイたちに雨水が降りかかる。
「風向き次第では、歩くのも厳しくなるのね……っ!」
「前がよく見えません……!」
雨によって引き起こされるもう一つの環境効果。
急激な視界の悪化に、レンとツバメの足が止まる。
「レンちゃんツバメちゃん気を付けて! 根は雨でも普通に捕まえに来てるよ!」
この状況下でも、足元をはい寄って来る根は健在。
視界の悪化も、植物型モンスターには大した問題はないようだ。
「いいわ、そういう事なら一番見たかった攻撃で勝負を付けさせてもらいましょう。メイ、最後はお願いっ!」
「おまかせくださいっ!」
レンの最後の確認は、この環境下でのメイの一撃。
「【バンビステップ】【ラビットジャンプ】」
メイは走り出し、迫る無数のツルと根を目を凝らして見事に回避。
そのまま跳躍して、雨の中を【アクロバット】で一回転。
危険植物の本体に、手にした剣を叩き込む。
「【ソードバッシュ】だーっ!」
吹き荒れる衝撃波が、雨を一気に吹き飛ばす。
その勢いはすさまじく、危険植物に打ち付けられる大量の雨粒は、台風の雨が窓に当たる瞬間を思い起こさせるほどの轟音を響かせた。
そして雨が吹き飛ばされたことで、差し込んでくる陽光。
視界は完全にクリアになった。
「雨自体は風の魔法とか衝撃波によって吹き飛ばすことができそうね。これはこれでまた面白そうだわ」
【ソードバッシュ】の衝撃波をまともに喰らった危険植物モンスターは、HP全損。
レンは進み、枝をだらりと垂らしたボスの本体に『除草薬』をまく。
するとボスモンスターは、あっという間に枯れて消え去った。
それに感染するかのように、付近一帯の分枝たちも消えていく。
「これで目標達成ね」
「おつかれさまでしたっ」
犬のように身体をブルブルさせて水を飛ばすメイを見て、思わず「かわいい」とつぶやくツバメ。
雨が止んだことで自然と服も乾き出し、三人はいつも通りの姿になった。
「環境効果で色々と試すこともできたし、結構いいクエストになったわね。それじゃ戻りましょうか――――きゃっ」
振り返ったレン、水濡れが残っていた木の根を踏んですっ転ぶ。
「ス、スリップからの転倒もありなのね……」
「レンちゃん、大丈夫?」
「あ、ありがと」
思いっきり尻もちをついたレンは、差し出されたメイの手を引きながら恥ずかしそうに立ち上がる。
やはりこのマップは、環境効果を上手に使いこなす必要がありそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます