第420話 たどり着きました新大陸!

 フロンテラ王国、大調査船団の一行がたどり着いたのは巨大な島。

 大きな帆船が、その砂浜の一角に並んで停泊する。

 さっそく船の縁に立ったメイは手をおでこに当てて島を見回すと、感嘆の息を突く。


「ジャ、ジャングルだあ……っ」

「この自然が広がる感じは久しぶりですね」


 木々に深く覆われたその島は、メイが最初に参加したイベントで遊んだテーブルマウンテンやエンジェルフォールがあるような雰囲気ではない。

 とんでもない高さを誇る巨木同士がツタのような木々に絡みつかれている様子などを見ると、また少し趣を変えてきているようだ。


「ついに我々はこの地にたどり着いた! これからフロンテラ調査船団は新大陸の探索を開始する!」


 上陸し、声を上げたのは王国軍所属の船団長。

 特製の紺色制服に軽鎧、サーベルのような剣を提げている。


「我々調査団の本拠地はこのサンタ・マリーナ号となる! この新たな大陸に何があるのか、どんな魔物が住むのか、気候すらも分からない! 何が起こるか予想もつかないが、冒険者諸君はその技能をもってフロンテラ王国発展のために尽力して欲しい! 以上!」


 そう言って調査団長が手を上げると、本拠地船に乗せられた鐘が大きく鳴り響く。


「新大陸探査……スタートだ!」

「行くぞー!」

「「「うおおおおおお――――っ!!」」」


 ここからは自由行動。

 気合の入ったプレイヤーたちは、歓声と共に走り出す。


「メイちゃん! また会えるといいね!」

「はいっ!」


 船で一緒だった黒髪お団子少女は、メイの脇から小動物のようにスルッと出てきて笑みを見せた。

 続けてレンやツバメにほほ笑みかけると、手を振りながら駆けていく。


「まったねーっ!」


 そんなお団子少女に、手を振り返すメイたち。

 当然ここにはまだ見ぬモンスターやクエスト、素材やアイテムもあるだろう。

 そうなれば早い者勝ちだ。

 そして運営の広報では、イベント自体が対戦型とのこと。

 どこからどういう形で移行するのかは分からないが、手に入れた新たな戦力はそのまま自分を有利に立たせてくれるはずだ。

 はやる気持ちに引かれるように、プレイヤーたちは我先にと密林の中へ消えていく。


「この瞬間はやっぱりドキドキしちゃうわね」

「本当だねっ」

「でも、気候も分からないって言葉が少し気になるわね……」

「どうしてですか?」

「わざわざ『気候』って言葉をNPCが言うのは妙だなと思って。どんなモンスター居るが分からないとか、どんな危険があるか分からないだけで十分じゃない?」

「確かにそうですね……」


 しかしそんなことは、今は後回し。


「とりあえず私たちも、たまには思いっきり飛ばしてみる?」

「いいと思いますっ!」

「いいですね」

「それじゃいきましょうか!」

「はい」

「よーい、どんっ!」


 メイの合図で、さっそく走り出す三人。

 レンは【夜風のローブ】によって空中姿勢を取りやすくなった【浮遊】を織り交ぜ、前衛二人に続く。


「でも、見れば見るほどジャングルねぇ」

「本当だね」


 メイは現地に住んでいる動物かのように、柔らかく自然な足取りで駆けていく。


「……もしあのお姉さんが来てくれなかったら、今も村を守るためにトカゲと戦ってたのかなぁ」


 そして不意に、上陸者のいない島で一人ひたすらトカゲ狩りをしていた時のことを思い出してため息をついた。

 あの日、運良く新しいマップへ乗り込むことに成功した女性プレイヤーは、偶然メイに助けられた。

 それによって一転、メイの長いジャングル生活は終わりを迎えたのだ。


「得意なマップだけど、複雑なのね」

「うん。でもジャングル好きだよ!」

「やはり戦いやすいからですか?」


 メイは首を振る。

 そして共に走るツバメに、視線を向けて笑顔を向けると――。


「ツバメちゃんに出会えたのがジャングルだったから」

「…………っ」


 メイはうれしそうに笑い、ツバメは木の枝に強めに頭をぶつけてわずかに衝突ダメージを取られたが、それにも気づかないくらい顔を赤くする。

 そんな二人に、レンもまた笑う。そして。


「レンちゃんと一緒に滝から飛び降りたのも、すっごく楽しかった!」


 続く流れ弾のような笑顔に、ちょっと照れる。


「うん……?」


 すると走るメイの顔に、何かが当たる感覚。


「雨だーっ!」

「本当ね。天気雨なんて実装されてたんだ」


 これにはレンも、ちょっと楽しそうに空を見上げる。


「スコールのようなものが、突然狭い範囲で起こるんですね」


 降り出した雨は一時的なもので、少し先は晴れのままだ。

 陽光に照らされて輝く水滴はきれいで、思わず目を奪われる。

 木々の合間を駆け、天気雨の区域を抜けて、水を弾きながら先へと進む三人。

 水濡れは、わずかな時間を経て乾いた。

 この辺りのシステムは今まで通りだ。


「何か聞こえる!」


 メイの猫耳が、音のした方向に向きを変える。


「人の話し声みたいだよ」

「第一新大陸民っぽいわね、さっそく行ってみましょうか!」

「りょうかいですっ!」

「これが最初のクエストになるかもしれないわ」

「楽しみです」


 メイの足も、自然と跳ねるようになる。


「【バンビステップ】【ラビットジャンプ】 それーっ!」


 木々を蹴って大きく跳び上がり、【アクロバット】で華麗に空中回転。

 着地した先には、困ったようにしている一人の少女の姿があった。


「これじゃ、帰れないよ……」


 そしてその前に広がるのは、赤紫の花を付けた怪しい植物。

 どうやら早くも、新大陸クエストにたどり着いたようだ。

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