第381話 名家と言えば定番の

「……見事な連携だった。暴れる竜までも助けてみせたその力、良いものを見せてもらったよ」


 教授の首根っこをつかんだ教授の先生は、そう言って深くうなずいた。


「これは礼だ、君なら使いこなせるだろう」



【呼び寄せの号令】:付近にいる動物や魔獣が助けてくれる。その数や種類は使用者の『資質』による。



 手渡されたのは、古びた一冊のスキルブック。


「ありがとうございますっ!」

「今回のクエストみたいなことが、他のマップでも可能になるなら大きいわね」

「楽しみです」


 こうして、魔法動物塔のクエストをミッションまでクリアした三人。


「動物たちと一緒に竜と戦うミッションなんて初めて見たー、うれしい」


 メルーナも、オレンジ色のマフラーの中でニコニコしている。


「もしかしてー、メイは有名な従魔士だったの?」

「少しだけ野性的な一面のある、普通の女の子ですっ!」

「……初めて聞くジョブ」


 そんなメルーナとメイのちょっとズレた会話に笑いながら、連絡通路を進んでいく。


「メイたちはー、魔法薬塔ではどのクエストを受けたの?」

「マンドラゴラをつかまえましたっ!」

「……それは魔法薬塔の高難度ミッションだけどー、それもクリアしたの?」

「ツバメネズミちゃんの【隠密】【紫電】が効いたんだよーっ!」


 たて続けに二つのミッション攻略。

 5年の魔法学校生活でも初めての事態に、メルーナは驚く。


「この先にあるのは何塔なのですか?」

「生徒たちの寮に当たるー、学生寮塔」


 塔が六角形に配置された魔法学校。

 最奥の塔は、生徒たちが寝泊まりする寮になっているようだ。


「学生寮はやっぱり、宿題の手伝いなんかがクエストの中心になってくるのかしら」

「そういうのも多いー。でもー、メインになるクエストの登場人物は教授よりひどいかも」

「教授陣もなかなかだったけど、あれ以上なの?」

「んー、ちょうどいい。こっちに来て」


 メルーナは連絡通路となっている石橋を降り、各塔の合間にある公園のような区画に歩を進めていく。

 そこでは、プレイヤーたちが熱狂の声を上げていた。

 何やらレースのようなものが行われているようだ。


「行け行けー! お前ならいけるぞーっ!」


 見れば小型の竜種に乗った従魔士が、魔法学校の塔から塔へと猛スピードで飛んで行く。

 魔法薬塔から中央塔に進み上階の鐘にタッチ、六角形の魔法学校を反時計回りで戻ってくる。

 集まったプレイヤーたちは、従魔士に熱い歓声を向ける。しかし。

 背後からやって来たホウキ乗りの生徒が、中央塔を超えたところで急加速。

 あっという間に従魔士を追い抜き、学生塔まで戻ってくると上階壁際のガーゴイル像に触れて急降下。

 そのまま最後の直線を一気に進んで、輪っかのオブジェをくぐってゴール。


「「「ダメかああああ――っ!!」」」


 ホウキの生徒に遅れること数秒、小型竜に乗った従魔士が戻ってきた。

 応援していたプレイヤーたちは、悔しそうに肩を落とす。


「だから言って差し上げたでしょう? 貴方たち程度では勝負にならないと。魔法名家生まれの私とはそもそもの才能が違います」


 高級そうなホウキを片手にやって来たのは、レースに勝利したNPCのお嬢様。

 三つ編みにした白金髪を頭に巻き、そこに青いバラの飾りを四つほど着けた、見るからに高慢そうな女子生徒だ。


「悔しければいつでも挑戦してもらって構いません。ただ、いつまでも勝てない相手だからこそ、名家なのですが」


 お嬢様NPCが挑戦プレイヤーを小ばかにするように笑うと、その左右にいたお嬢様仲間たちも「まったくです」「身の程を知ってもらわないと」と笑い出す。


「ああー! 腹立つーっ!」

「うっぜえなぁ本当にーっ!」


 その見事な挑発ぶりに、頭をかきむしる挑戦者たち。


「この光景がー、もう7年続いてるんだ」

「なるほど、定番ねぇ……」


 どうやら学生寮塔のメインとなるのは、名家の子であることを振りかざしてくるタイプのお嬢様NPCのようだ。


「ここのクエストは、どういったものなのですか?」

「んー、ホウキに乗って六つの塔のチェックポイントに触れて戻ってくるレースって感じー。あのNPCたち三人に勝てばクリアになるんだ」

「なるほど。各チェックポイントに触れさえすれば通過扱いになるから、ホウキに乗らずに飛行系の従魔を使って勝負することもできるのね」

「ただー……」

「こいつら速すぎなんだよ! 特に最後の青バラお嬢がマジでヤバイ!」

「今回は速度重視のハイレベル従魔士に来てもらっての挑戦なのに……それでも5秒差って……っ!」


 地面を叩いて悔しがる、魔法学校の住人たち。


「ホウキ乗りレースは三人のお嬢様に勝てばいいんだけどー、まだ勝ち抜いたプレイヤーはいないんだ」

「そのうえ、これでもかってくらいの煽り様なのね……」

「教授よりタチが悪いと言っていた理由が分かりました」

「誰でもホウキに乗って飛べるのは、魔法学校だけのアトラクションクエストって感じなのにー、これだからあまり広まってないんだ」


 ジョブを問わずに『杖』で動物を使役できる魔法動物塔のクエスト同様、ここでのホウキレースも誰にでも参加できるクエストのようだ。


「……せっかくだし、やってみましょうか」

「賛成ですっ!」

「はい、楽しそうです」

「ただ、ホウキの飛行速度は魔力に依るからー、基本【知力】の勝負になる。あとホウキの操作は【技量】に関わってくるからー、そこが低くても難しいんだ」

「なるほどね。それなら私はホウキに乗って、メイとツバメは……いつもの感じでいくのも面白そうじゃない?」

「いいとおもいますっ!」

「はい、楽しくなりそうです」


 早くもやる気十分なメイたち。

 レンはホウキに乗り、メイたちはそれ以外のやり方で勝負する。

 従魔士でないメイが空をいく方法が思いつかず、小さく首を傾げるメルーナ。

 そして負けた魔法学校住人たちは、「こんなのどうやって勝てって言うんだよ―」と寝転びながら声を上げるのだった。

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