第380話 ミッションが始まります!

「あら、バジリスクじゃない」

「王都ではお世話になりました」


 三つ全ての宝珠を集めたメイと共に洞窟を出てきたのは、トサカを持つトカゲの様な魔獣。


「この子が最後に味方になってくれたんだよー! 最後のボスみたいな感じだったのに!」


 王都以来の再会に、うれしそうなメイ。


「ここのクエストって、魔力と動物値次第では教授の魔法で動物に裏切られるパターンも用意されてたんじゃないかしら」

「そのシステムのせいで、今回は教授が裏切られる形になってしまったということでしょうか」


 今回起きたことを、見事に言い当てるレンとツバメ。

 魔法によってプレイヤーサイドの動物を裏切らせて、高笑いする。

 それがこのクエスト、教授の評判が悪い最大の要因だ。

 しかしメイの高すぎる動物値と王都での出会いによって、想定外の結果が生まれてしまった。

 対決はメイの圧勝。

 短い時間で、全ての宝珠を手に入れてみせた。


「みんなありがとー!」


 森の出入り口に戻ってきたところで、さっそく動物たちと戯れるメイ。


「この私が、完敗だと……」


 一方教授は、ヒザを突いてうなだれていた。


「……なあ、あの動物の集まりはなんだ?」

「見ろ、あのウザい教授が落ち込んでるぞ」


 魔法動物塔で繰り広げられている光景に、通りすがりの魔法学校住人たちがざわつき出す。


「あれはー……なに?」


 魔法学校を楽しんでるメイたちが見たくてやってきたメルーナも、初めて見る展開に驚きの声を上げた。


「……ど、どうやらそれなりにやるようだな。特別にワタシの弟子にしてやってもいい」


 やがてフラフラと立ち上がった教授は、引きつりながら口を開く。すると。


「た、大変だぁぁぁぁーっ!」


 聞こえてきた悲鳴。


「竜が、竜が逃げ出したぁぁぁぁ!」


 叫び声をあげたのは、魔法動物塔の職員NPCだ。


「使い魔用に捕まえてきた竜が逃げただと!? 無能な職員どもめ! お、おい、お前たち、あいつを止めるんだっ!」


 そう言って、慌てて木の陰に隠れる教授。

 竜はこちらに向かって、怒りの咆哮をあげながら駆けて来る。

 そして現れるHPゲージ。


「ミッションなんてー……初めて見た」


 始まった騒ぎに、メルーナを始めとした魔法学校住人が集まり出す。


「メイ、硬直しちゃってる動物たちは私たちが保護するわ! それと、捕まっていた動物魔獣が暴れてる時は――!」

「はいっ! りょうかいですっ!」


 その一言で意図を理解したメイは、竜目がけて走り出す。

 まずは振り降ろされる爪の一撃を回避しながら、ターゲットを奪う。


「【加速】! 【リブースト】!」


 その隙に、硬直してしまっていたウサギを抱えてツバメが退避。

 レンも、近くの猫たちを抱えて宙を舞う。

 ツバメはもちろん、かつて猫に「……お前も一人なの?」とか話しかけていたレンも、動物値は十分高い。

 動物たちは大人しく、二人の誘導に従う。


「【アクロバット】!」


 猛烈な腕の振り降ろし。

 これをメイがかわすと、駆け込んできた狼たちが立て続けに竜に噛みつきダメージを奪った。

 反撃は長い尾の振り回し。


「もう一回【アクロバット】!」


 これをメイと狼たちは、一緒に跳躍して回避。

 すると竜は、動物たち目掛けて大きく息を吸い込んだ

 口元に閃く炎。

 放たれるのは猛烈なブレスだ。


「させませんっ! 【バンビステップ】! 【装備変更】!」


 放たれた炎は【王者のマント】に防がれる。

 仁王立ちのメイのもと、即座に始まる反撃。

 猿の投じた木の実が竜の頭部に当たり、視線を奪ったところで猪の突撃が体勢を崩す。

 そこに並んで駆けてきたのは、バジリスク。

 放つ光線が竜の足に当たり石化。見事にその動きを止めた。


「ありがとうっ! 【バンビステップ】!」


 もちろんこの隙をメイは逃さない。

 剣をしまい、素手のまま竜の懐に潜り込む。


「【キャットパンチ】! パンチパンチパンチ!」


 足の石化によって暴れ回ることもできない竜は、ほとんど叩き放題。

 その高いHPを、メイは連打で削っていく。


「パンチパンチパンチ! 最後にもう一回【キャットパンチ】だーっ!」


 そして残りHPが1割になったところでストップ。


「下がりますっ!」


 メイがそう言って距離を取ると、動物たちもあとに続く。

 すると予想通り、竜のHPゲージが消えた。

 戦いの終了。どうやら『HPを残しての無力化』という選択は、正解だったようだ。

 動物たちは欠けるどころかダメージを受けることすらなく、竜のHPまで残しての勝利。

 ミッションを完璧な形でクリアしてみせた。


「みんなありがとー!」


 戦いが終わると、石化の解けた竜も静かにメイのもとにやって来る。

 その様子はもはや、動物と魔獣のパ-ティみたいな状態だ。


「バジリスクさんは相変わらず優秀ですね」


 感心するツバメに、バジリスクも得意げに胸を張る。


「ま、まったく、驚かせおって……」


 そんな中、まさかの事態が無事に解決して教授は安堵の息をつく。


「おい! これは一体どういうつもりだ!」


 そして職員に文句を言ってやろうと、勢いよく歩き出したところで――。


「……お前は食糧と魔法だけで、動物たちを支配したつもりでいるのか?」

「せ、先生っ!?」


 背後に現れた、教授のさらに先生NPCに首根っこをつかまれた。


「お前は昔からそうだ! 【使い魔】の魔法一つで調子に乗りおって! 竜は賢く、その扱いを人任せにするような者に従事してくれるほど甘くないと言っておいたであろう! 来い! お前にはまた一から厳しく教えてやる!」

「ひ、ひいいいいい――っ! す、すいませんでしたぁぁぁぁ――っ!!」」


 そう言ってさっそく、白目の教授に強めのお説教を始める。


「ここのクエストは、完全にメイの独壇場だったわねぇ」

「本当ですね。最後の避難だけですが、少しでも役に立てて良かったです」


 聞こえてくる教授の悲鳴の中、レンとツバメはあらためて驚きの声を上げる。


「……魔法塔のミッションを、クリアしちまった」

「竜を相手に、動物たちとあんな戦い方ができるのか……」


 一方、見学していた魔法学校住人たちはざわめいていた。

 メイはその中に、立ち尽くしている一人の少女を見つける。


「メルーナちゃん!」

「これー、届けにきたんだけど……」


 非常に難易度の高い、動物塔のクエスト。

 メルーナは「メイたちの役に立つはず」と、動物値上げ用の食糧アイテムを届けにきたようだ。


「わあ! ありがとう!」


 メイはそれを受け取ると、さっそく集まっている動物たちに与え始める。


「みんな手伝ってくれてありがとー!」

「順番がー、逆……」


 このアイテムは、クエスト前に与えておくことで動物値を稼ぐというもの。

 ミッションまで全てを片付けた後で、お礼として振る舞うメイに、メルーナはポカンとする。


「ふふふ、メイらしい光景ね」

「本当です。何時間でも見ていられます」

「こんなの初めて見たー、すごい……」


 魔法学校の住人となって早5年。

 高難易度クエストの完全クリアから、ミッションのノーダメージ攻略という奇跡。

 動物たちに埋め尽くされて笑うメイに、いよいよメルーナは呆気に取られてしまうのだった。

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