第379話 森を駆け回ります!
魔法動物塔の裏手に出てきたメイたち。
肩にフクロウを乗せた教授は、森に一歩入ったところでゆっくりと振り返った。
「どうやらそこそこやるようだが、あまり調子に乗らないように。私の力を見てしっかりと学びたまえ」
最初のクエストが好調だったメイに、そう言って余裕の笑みを見せる。
「ここでは動物たちと共に、森の中にある三つの宝珠をいくつ手に入れられるかを競う。入手した数で評価を下してやろう」
そう言って教授は、杖を振り上げた。
「見せてやろう……来い、我が眷族たち!」
すると森の中から、五匹の狼が現れた。
「ワタシにはこれだけの優秀な眷族がいる。さあ次は君が動物たちに呼びかける番だ……せいぜい、恥をかかないようにな」
勝ち誇った顔で告げる教授。
メイは右手を上げて、元気に呼びかける。
「みなさん、お手伝いよろしくお願いしまーすっ!」
「……なにかしら」
「森の雰囲気が、変わりました」
一瞬静かになった森が、わずかに騒がしくなり始める。
すると木々の間から猫、犬、ウサギ、鹿たちが飛び出してきた。
わずかに遅れて狼、狸、狐、リスも続く。
さらに馬や鳥、猿に猪に豹までもが到着。
加えて蛇までもがやってきた。
「す、すごいです……」
あり得ない量の動物たちに囲まれるメイ。
集まった動物たちは、早くもやる気十分だ。
「くくく……果たしてどちらの使い魔が宝珠を見つけられるかな?」
「この状況を見て、よくそんな強気でいられるわね」
この『集合の号令』は、魔力のもととなる【知力】と『動物値』の合計によって結果が変わってくる。
メイは王都のクエストで、さらに動物値を大きく上げた。
そして運営がここまでの戦力差になることを想定できなかったため、教授のリアクションが合っていないのだろうとレンは苦笑い。
「言っておくが、ここには魔獣もいるからな。無様を晒さないよう気をつけてくれたまえよ?」
「はいっ!」
「それでは始めよう。宝珠探し、スタートだ!」
余裕の笑みを残して森へ消えていく教授と、駆け出す狼たち。
メイも動物たちと一緒に走り出す。
「この広い森の中、小さな宝珠を探せっていうのは大変そうだけど……どうなるかしら」
【浮遊】で後を追うレンがつぶやく。
するとさっそく、空を飛んで行ったコマドリが鳴き声を上げた。
【聴覚向上】は、もちろんそれを逃さない。
「【バンビステップ】!」
速度を上げて、メイはすぐさまコマドリのもとに直行。
すると、今まさに宝珠へ向けて駆ける二匹の狼の姿が見えた。
ここは競争だ。
岩の上に置かれた宝珠を【遠視】で見つけたメイの横に、教授の狼が並ぶと――。
「ウォオオオオ――――ッ!!」
「ッ!? 【ラビットジャンプ】!」
まさかの【咆哮】に、メイは慌てて距離を取る。
宝珠は目前。これで狼たちは大きく有利を奪う形になったが――。
「おねがいしますっ!」
メイの声に応えたのは、猪たち。
怒涛の勢いで駆けつけ放つ【突撃】が、教授の狼の横っ腹に突撃。
さらにそこへ駆けこんできたのは、一頭の猫。
転がってきた狼を華麗にかわして宝珠のもとへ。
そのまま口にくわえると、メイのもとにやってくる。
「すごーい! ありがとうー!」
そう言って頭をなでると、猫は得意げに胸を張ってみせる。
「これで一つ目だねっ!」
早くも宝珠を入手。幸先のいいスタートを切った。
すると、喜ぶメイのもとに駆けてきたのはリスを背に乗せた狐と狸。
さっそくリスが指差した方へ走り出すと、迷わないよう樹上の猿が案内してくれる。
進んだ先には小さな湖と、魔の妖精ケルピー。
その足元には、これ見よがしに宝珠が落ちていた。
鈍く光る半透明の白馬は、メイを見つけると強烈な水弾をまき散らす。
「【モンキークライム】!」
これを木々の背後に隠れることでかわしたメイは走り出し、木から木への軽快な連続跳躍でケルピーの注意を奪う。
「よっ! はっ! それーっ!」
するとそれに続くように飛び回り出した猿たちが、さらにケルピーを翻弄。
「いまだっ! 【ラビットジャンプ】!」
樹上を楽しそうに跳び回る猿たちの中、メイは枝を蹴って跳躍。
その着地際を、ケルピーが慌てて水弾の一斉掃射で狙いに来たところで――。
「【ターザンロープ】!」
うっかり「アーアアー」しそうになった自分に苦笑いしながら、着地をズラして回避。
すると【水弾掃射】を放ったことで生まれた隙を突き、駆けつけた犬がしれっと宝珠を回収した。
「お見事ですっ!」
拍手するメイに、尻尾を振って応える犬。
なんとケルピーと戦うことなく最短攻略。宝珠だけ頂くことに成功した。
「動物たちとのコンビネーションが、見事に活きています」
後をついてきたツバメが、感嘆の息をつく。
「どう考えても教授の狼たちがその速さと強さで優位に進めるクエストなのに、メイの仲間が多すぎるわ」
レンは笑ってしまう。
本来は数匹の動物だけが仲間になり、道や方向を教えてくれるはずのクエスト。
動物という動物がこぞってメイのもとに情報を持ってくるために、異常な速度での攻略となってしまっている。さらに。
ガサガサと草をかき分けてきたのは、一頭の馬。
「ついて来て!」とばかりに走り出す。
「これ……教授たちは宝珠にたどり着けるのかしら……」
「もう次が最後の一個です」
メイを休ませないほどの早さで持ち込まれる、新たな情報。
いよいよ教授を心配しながら動き出した三人がたどり着いたのは、小さな岩山に空いた地下空洞。
目印として待っていたのは鹿とウサギ。そして。
「……ほう、どうやらこの場所にたどり着くだけの力は持っていたようだな。だが、ここから先はどうかな?」
何も知らない教授は、「ふん」と余裕の笑みをのぞかせて洞窟内へ。
どうやら最後の宝珠は、奪い合いになりそうだ。
洞窟の内部は思ったよりも広く、そして暗い。
杖の先に小さな明かりを灯した教授は狼たちを連れ、暗闇に強いフクロウを先頭にして進んでいく。
「わたしたちも行きましょう!」
負けじとメイが踏み込むと、足元にやって来た蛇が先導を始めた。
「もしかして……道が分かるの?」
後に続くメイも、【夜目】の効果によって足取りは緩まない。
文字通り競争になった最後の宝珠だが、蛇はまるで順路を知っているかのようにスイスイと進んで行く。そして。
「ッ!?」
わずかな明かりがさし込む洞窟の奥地。
目の前に突然、巨大なモンスターが落ちてきた。
最後の宝珠の守り手は、体高がプレイヤーに迫るほどの大蜘蛛だ。
「がおおおおおお――――っ!!」
即座にメイが、【雄たけび】で動きを止める。
するとこの隙に宝珠を確保した蛇が、メイのもとに戻ってこようとするが――。
「やれっ! 我が眷族たちよ!」
教授が三頭の狼をけしかけてきた。
「ッ!?」
狼は宝珠を奪うため、ヘビを狙う。
その鋭い飛び掛かりに、蛇は身動きを取れずにいたが――。
「ガルルルルー!!」
守りに入ったのは豹。
そのままもみ合うようにして地面を転がり、先頭の狼を引き離した。
「ありがとうっ! あとはわたしがなんとかしますっ!」
メイは大蜘蛛の飛び掛かりをかわし、その足をつかむと――。
「【ゴリラアーム】! せーの! それーっ!」
蜘蛛を放り投げ、続く二頭の狼とまとめて転がした。
「……大したものだな。だが、それでもやはりこの私にはかなわない!」
狼たちを振り払われた教授が、杖を振り上げる。
すると魔法に応えるように、一体の魔獣が現れた。
「さあ、どんな手を使ってもいい! 宝珠を私のもとに持ってくるのだ!」
登場したのは、このクエストのボスといえる存在だ。しかし。
「ああっ! この子はーっ!」
メイの声に、なんと魔獣は動きを止めた。
王都クエストでは、一部の魔獣たちも地下牢から助け出したメイ。
その『動物値』は、従魔士のように魔獣相手にも問題なく効果を発揮する。
再会の魔獣は、教授の言葉に反してメイへの攻撃を行わない。
「なぜだ、なぜ戦わない!? まさかこの私が、生徒ごときに敗れたというのか……っ!?」
魔獣の裏切りによって、全ての手を失った教授はヒザを突く。
「おひさしぶりですっ!」
メイは歓喜の声と共に飛びつく。
宝珠をくわえた蛇と共にメイのもとに駆け寄ってきたのは、共に王都地下から地上を目指した魔獣バジリスクだった。
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