第378話 魔法動物塔に挑戦します!
「あっ! メルーナちゃーん!」
メイがブンブンと手と尻尾を振る。
視線の先には、相変わらずふらふらと魔法学校を散歩するメルーナの姿。
クルクルの長い白金髪と、口元の隠れるオレンジのマフラーが目印だ。
「魔法薬のクエスト、すっごく楽しかったよー!」
「おおー、それはよかったー」
「教えてくれてありがとーっ!」
「本当に面白かったわ。爆発髪の演出なんて初めて見たもの」
「私もネズミになりました」
「それは運がいいー。最悪はミミズになる。しかも魔法学校内のフクロウに突かれるんだ」
「そ、それは……」
まさかの情報に、さすがにツバメも息を飲む。
メルーナは、メイたちが魔法学校クエストを楽しんでいる様子を見てうれしそうだ。
「この先には何があるの?」
「魔法動物塔があるー」
「それならこのまま向かってみましょうか」
レンがそう言うと、メルーナは「んー」と思案する。
「動物塔のクエストはー、少し難しいかもしれない……」
「そうなのですか?」
「【知力】だけでなく動物との相性が大事になるからー、難易度が結構高いんだ。それにー…………教授の感じが悪い」
どうやら、あまり評判は良くないようだ。
「動物との相性……何かが起きそうな予感しかしないんだけど」
「私もそう思います」
しかしその難易度を上げている要素に、レンとツバメはむしろ期待をし始める。
「動物たちが可愛いからー、その点では楽しいと思う」
「そういうことなら行くだけ行ってみましょうか。ダメならその時はまた違うクエストを探しましょう」
「うんっ、それではいってまいりますっ!」
手を振りながら魔法動物塔へと向かうメイたち。
「おー、楽しんでおいでー」
メルーナはまた、学校内の散歩に戻っていくのだった。
「わあ……っ」
「かわいいです……」
魔法動物塔に踏み込むと、視界に動物たちの姿が入ってきた。
鳥が飛び交い、ソファーが並んだ絨毯敷きのホールには犬や猫、狼などがのんびりしている。
寄ってきた動物たちをなでながら、三人は『魔法と動物の研究室』と書かれた部屋へ向かう。
「ここも動物でいっぱいねぇ」
研究室にも、たくさんの動物たちがくつろいでいた。
メイたちはそのまま教授のもとへ。
「……なんだね、君たちは」
使い魔なのだろうフクロウを肩に留めた中年の男は、居丈高な視線を向けてくる。
「さては、我が高貴なる教えを受けにきたのだな」
「はいっ! よろしくお願いしますっ!」
メイは元気よく頭を下げる。
「ふん。まあ君ら程度の能力では、たかが知れていると思うが……特別に許可してやろう」
そう言って、瀟洒なデスクチェアにもたれる教授。
緩いオールバックに、一際高級そうな黒のマント。
余裕をかましてみせる姿は、メルーナの言う通りなかなか曲者のようだ。
「まずは最初の課題だ。この部屋にいる動物を一匹でいい、自分のもとに呼びつけてみろ。それにすら応えてもらえないようであれば、我が教えを受ける資格などない」
そう言って「ふん」と笑う教授。
「もうとっくに懐いてるのよねぇ……」
メイはすでに、動物たちに囲まれていた。
犬や猫たちが足もとに集まり、肩には何羽もの鳥が乗っている。
「……どうやら、最低限の素養は持ち合わせているようだな」
NPC特有の切り替えの早さで、最初の課題に合格。
「ならば次だ。我が指示に見合う動物を選んでこなしてみせろ。だが動物たちは君の才能や愛情の深さを瞬時に見抜く。力なき者の言葉になど応えはしないぞ」
そう言って教授は、指揮棒を一回り短くしたような【使い魔の杖】を振るってみせた。
「魔法辞典を取ってこい」
すると近くにいた白黒の小猿が歩き出し、魔法辞典を取って教授のもとに戻っていく。
「この通り、次は君の番だ」
教授はそう言って【使い魔の杖】を差し出した。
これで【指示】というスキルを使用して動物を動かすのが、ここ『魔法動物塔』特有のシステムだ。
「くっくっく、気を付けるんだな。力なき者の言葉は容赦なく無視される。惨めな思いをすることになるぞ」
「動物が動いてくれるかどうかは、【知力】と【動物値】次第ってところかしら」
恐らくその二つを足したものが、ここでは大事になってくるのだろうと予想。
そしてその予想は正解だ。
「指示……?」
ところがメイは、杖を使って【指示】を出すという方法がいまいち分からない。
近くの犬にほほ笑みかけると、杖を使わず単純に『お願い』することにした。
「そいつはプライドが高い。早々簡単には言う事を聞いてもらえぬぞ。いいのか?」
どうやら、個体によって動いてもらうための『数値』は違うようだ。
「魔法辞典を取ってきてくれる?」
しかしメイがそう言うと、犬はすぐさま走り出し辞典をくわえる。
尻尾を左右に振りながら戻ってくると、そのままメイに飛びついた。
「ありがとーっ!」
頭をわしゃわしゃとなでられる犬と、メイは笑い合う。
「ふん……我が教えを受けるなら、このくらいはできてもらわなくては困る」
難なく二つ目の課題もクリア。
それを見た教授はわざとらしく鼻を鳴らすと、あらためて一枚の封書を取り出した。
「最後は、手紙の受け渡しだ」
三つ目の課題が山場。
魔導士はもちろん、従魔士も多くのプレイヤーが失格となる関門だ。
「この手紙を中央塔の教務課に運ばせて、返事をもらってこい」
差し出された手紙を受け取ったメイは、居並ぶ動物たちの中から適任者を探す。
選んだ個体やプレイヤーのステータス次第では、手紙を持ったまま動物がどこかへ行ってしまうというこのクエスト。
「お手紙を運ぶのなら、この子にお願いします!」
メイが選んだのは、一羽の隼だった。
「くくく、やはりまったく分かっていないようだな。そいつはここの動物たちの中でも特別気難しい。若輩者に力を貸すほど甘くはないぞ。一生徒の言葉など、冷たく突き放すだろう」
そう言って、あざ笑う教授。
「それでは、よろしくお願いしますっ!」
しかしメイが手紙を差し出すと、隼はそれをくわえて窓から飛び立った。
そのまま見事な速度で、教務課へ向けて飛んで行く。
「……一応は指示を聞き入れてもらえたようだな。だが半端者の命令では、戻ってくるのに何時間かかるか分からないぞ。いや、戻ってすらこないかもなぁ」
短い杖をプラプラ振りながら、これみよがしな笑みを浮かべる教授。
だが早々に返事を受け取った隼は、真っ直ぐメイのもとに戻ってきた。
「はやーい! ありがとーっ!」
メイの腕に止まると、褒められた隼は得意げにしてみせる。
「…………どうやら、筋は悪くないようだ」
メイと動物たちの見事な連携。
「最高の光景です」
「私たちにはいつもの感じに見えるけど、普通にやったら難しいんでしょうねぇ」
メイと隼の仲良しぶりにツバメは歓喜の息をつき、レンはそのコンビネーションに感嘆しきりだ。
三つの課題を見事、最短最速でクリアしたメイ。
教授は、静かに立ち上がった。
「だがここまではあくまで基礎だ。付いてくるがいい。ここからは私が直々に、魔法と動物とはどういうものかを教えてやろう」
そう言って教授は教務室を出ると、そのまま通用階段を降りて魔法学校の裏手へ。
そこには、森が広がっていた。
「次の舞台はここだ。魔獣も棲むこの森で、果たしてこの私に付いてくることができるかな?」
そう言って教授は、勝ち誇った笑みを浮かべた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます