第376話 製薬クエストを攻略します!

「【加速】」


 デスクの上を二足で駆け回るネズミに、メイは尻尾をブンブン振って歓喜する。

 どうやら、一部のスキルはネズミ状態でも使用可能のようだ。


「移動系は問題なしですね」

「わあー! ツバメちゃんすごーい!」


 爆発頭のメイはニコニコしながら、指でツバメの頭をなでる。


「……なんだかほほ笑ましいわねぇ」


 ネズミ姿で普通に話すツバメと尻尾を振ってよろこぶメイに、笑みがこぼれる緑顔レン。


「ねえ、次はこの『星6』レベルの調合をやってみましょう」

「『竜化薬』……最高難易度ですか?」


 デスクに後ろ足で立って本をのぞき込むツバメネズミに、ほのぼのしながら提案する。

 それはまさに、ハイレベルの魔導士たちが挑戦しては破れていった難関クエストだ。


「ちょっとシステムが見えてきたのよ。このクエストは『粉末をサジで上手にすくって入れる』『火力を調整する』『複数ある素材から正しいものを選ぶ』っていう要素でできてるみたいなの。そこに制限時間をつけることで難易度が作られてる」

「確かにそうですね」

「ここまでの流れを見てると、材料をサジで計って入れるのには【技量】が関わる。魔法石の火力を操るのには魔力、要は【知力】が関わってる。最後は単純にデスク上から慌てず各素材を見つける『集中力』ね」


 三度の失敗で、しっかりとクエストのやり方を把握したレン。

 ここで一つの対抗策を発案。


「サジを使って粉末を入れる役をメイ、火力の調整は私、そしてツバメが材料を探しておくっていう分業制なら、面白くなるんじゃないかしら」

「おおー! いいと思いますっ!」

「それならネズミのままでも参加できそうです」


『竜化薬』を選んで調合を開始すると、デスク上にたくさんの素材が並んだ。


「それじゃいきましょうか! まずは【高山草液】と【竜の爪】!」


 するとすでに素材の把握を開始していたツバメが走り出す。


「これと……これですっ!」


 ツバメネズミはデスク上を駆け回り、素材を抱えて戻ってきた。

 大鍋に放り込むと、すぐに三種類の粉末の投入指示が出る。


「メイ、お願いね」

「おまかせくださいっ!」


 赤、青、黄色の三種類の粉末をサジですくう。

 メイの高い【技量】なら問題なしだ。

 しっかり集中して、三種の粉末をすべて一発で大鍋に入れることに成功。


「ここからは私の番ね。まず中火でしっかり煮て……吹き出しそうになったら弱火に」


 高い【知力】でも、余裕とまではいかない火力調整。

 それでもレンは、しっかりと集中して調整に成功。


「最後は強火にしてひと煮立ち……これでよし!」


 続く指示は『飛竜の翼膜』と『火炎花』の投入。

 素材の山に駆けこんで行ったツバメは、すぐに二つの素材を取って戻ってきた。


「ツバメちゃんが可愛くて、見惚れちゃうねぇ」

「このクエスト、魔法世界の感じもあって本当に楽しいわ」


 素材を投入して再加熱。


「弱火から一瞬強火にして中火で安定!? なんてやっかいな……」


 レンはここで【知力】上げの【リンゴ】を三つ使用。

 火柱が上がらないギリギリの強火にした後――。


「ここっ!」


 見事に中火で安定させた。


「よしっ! メイもここで使っちゃっていいと思うわ!」


 続く指示は、粉末を五連続で投入せよというもの。これまた高難易度だ。


「りょうかいですっ! 【蓄食】!」


 しかしここでメイは一気に10個のグレープを使い、【技量】を急上昇。

 前回よりさらにスムーズに、粉末の投入を成功させた。


「さあ次で最後よ! これなら全員で探せるわ!」


 最後の指示は、『お化け草』と『変化草』を見つけて投入しろというもの。

 三人がかりで素材の山を見渡していくが――。


「これ……似た草が多すぎでしょ! こんなのほとんど同じじゃないっ!!」


 目的の素材が置かれた一帯は、ビンに差した似たような草がひたすら並んでいる。


「これとこれ、どこが違うのよ……?」

「……レンちゃん! お化け草はこれだよっ!」


 しかしメイが流れを変える。

 本に描かれた『柑橘系の香りがする』という一文から、【嗅覚向上】で『お化け草』を発見してみせた。


「なるほど、匂いがあればメイには楽勝ね!」


 これで残りは一つだけ、時間はもうわずかだ。


「ッ!」


 するとデスクを駆け回っていたツバメネズミが急停止。


「この二つ……根の広がり方が少し違います!」


 それは意外にも、目線が低かったことで気づいた差異。

 ツバメは根の広がっている方を抱えて走り出す。

 しかし小さなツバメネズミ。

 このままでは、わずかに時間が足りない。


「【加速】【リブースト】【跳躍】!」


 ここでスキルを使い、二足歩行状態で猛ダッシュ。

 さらにぴょーんと大きな跳躍で大鍋の縁に飛び乗ると、そのまま『変化草』らしきものを放り込んだ。

 制限時間ゲージは、ちょうどゼロ。

 最後の二つの『草』は、その違いを見分けるのが難しい。

 要は『難関クエストの最後の砦』として立ちはだかる素材たちだ。

 思わず息を飲む三人。

 ボン! と煙が上がり、三人の視界に飛び込んできた文字は――。


『――――調合成功!』


「できたーっ!!」

「やったわね!」


 メイとレンはハイタッチして、最後にツバメに指を近づけていく。

 するとツバメネズミも、その小さな手でハイタッチを決めた。


「……ほう、『竜化薬』を完成させるとは……なかなか筋がいいようだ……」


 するとボロボロの黒ローブをまとったオーブル教授がやって来て、わずかに驚きの表情を見せた。

 最後の素材選びは本来、何十回も挑戦してようやく気づけるレベルの差異。

 一発攻略など当然、『星屑』開始以来の快挙だ。


「まぁ、筋はいいかもしれないけど。爆発頭、緑顔、そしてネズミっていう地獄のパーティよ」


 三人はまた顔を見合わせて、くすくすと笑う。


「オマエたちに、新たな仕事を任せよう」


 するとオーブルは、そう言って新たなクエストを提案してきた。


「続きものが解禁したって感じかしら……それともミッション?」

「オマエたちには、魔法薬塔の素材畑に生えているマンドラゴラを採ってきてもらいたい」

「マンドラゴラだって……なんだか本格的ね」

「そうなの?」


 メイが首と尻尾を傾げる。


「ファンタジーでは定番の植物で、薬を作ったりする時に何かと出てくる伝説の素材ね」

「そうなんだー……楽しみだね!」

「それじゃさっそく、行ってみましょうか!」

「りょうかいですっ!」


 そう言ってメイはツバメネズミを頭に乗せると、意気揚々と歩き出す。


「……え、このまま行くのですか?」


 そしておかしな格好のまま歩き出すメイとレンに、さすがにツッコミを入れるツバメなのだった。

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