第375話 楽しい魔法薬作りです!
クインフォード魔法学校の住人、メルーナ・ラブウェル。
お勧めの魔法薬塔クエストを目指して、メイたちは『研究室』の看板が掛けられた部屋に向かった。
「まさに魔法世界という感じですね……」
ツバメが感嘆の声を上げる。
そこには大鍋で、何かをぐつぐつと煮込んでいるボロボロ黒ローブの男。
メルーナいわく、「教授や生徒NPCは癖が強い」らしい。
「……オマエたち、私の仕事を手伝っていけ」
影のある青年魔導士は、低い声でメイたちを呼び止めた。
「ワタシは薬学教授オーブル。今、魔法薬作りの仕事がたてこんでいてな」
薬学教授はそう言って、室内のデスクの一つを指さした。
そこには黒革の本が一冊置かれている。
「オマエたちのようなヒヨッコにもできる仕事がある。魔法薬を完成させてワタシのところに持ってくることだ」
どうやら魔法薬を調合し、教授に納品するというクエストのようだ。
「面白そうね。まずは結果より、軽く遊んでみる感じでやってみましょうか」
「うんっ、楽しそう!」
デスクを囲むように集まったメイたちは、黒革の本をペラペラとめくってみる。
そこには『星1』から『星6』まで、難易度ごとに様々な魔法薬の調合クエストが並んでいた。
「調合は素材の量と投入のタイミング、魔法石の火力調整で行う。時間内にサジで適量を入れ、程よい火力で煮ること……ですって」
デスクに並んだ素材の中から正しいものを選び、大鍋に入れて煮るという形でクエストが進むようだ。
「わたしはこれにしようかなっ」
そう言ってメイが選らんだのは、『星2』の『目覚め薬』
するとデスク上に、いくつかの素材が現れた。
その中から二つの薬草を選び出し、すでにぐつぐつと謎の液体が煮立っている大鍋に投入。
「ここから、粉末を2杯だね」
「制限時間ゲージが出ていますね。このタイミングを逃してしまうと失敗という事ですか」
メイは手にしたサジに指定通りの量を二度、どちらも一発で取って大鍋に投入。
「そろそろ火力を上げるタイミングよ」
「りょうかいですっ!」
デスクに埋め込まれた魔法石に手をかけ、右に回転。
弱火から中火に火力を上げようとして――――。
「ちょっと強いかな……もう少し……わあっ、今度は弱すぎるかもっ! もう少しだけ強く……うわわわわっ! 今度は強すぎるよーっ!」
まるで中火の『幅』がものすごく少ないコンロで、ツマミを調整しながら料理しているかのような状況。
メイは必死に火力を調整するも、ついに全開に。
「わあああっ!」
火の柱が上がり、大鍋からボン! と煙が広がる。
現れる『――――調合失敗!』の文字。
煙が晴れると、メイの髪は『実験失敗直後の博士』のようにめちゃくちゃになっていた。
「ああーっ! 失敗じゃー!」
煤だらけになったメイの言葉に、レンとツバメは笑い出す。
「ふふふ、失敗するとこういう罰があるのね」
「てへへ、火力の調整がすごく難しかったよー」
「体力は大丈夫ですか?」
「問題ありませんっ」
小さな爆発にダメージはないようで、HPに減少はなし。
「次は私がいくわ……思い切って上級がどれくらい難しいのか挑戦してみるのもいいわね」
こうしてレンは『星5』の『記憶力向上薬』を選択。
「ええと……まず大鍋に入れるのは……これとこれね」
小さなニンジンのような植物を三つ入れ、続けて黄色の薬剤を投入。
それからサジを手に取って、粉末の量を計るが――。
「なかなか思った量にならないわね……」
メイの時のように、一発ですくうことができない。
「レンさん、ゲージがもう少ししかありません」
「こ、これなら大丈夫!」
レンは急いで粉末を投入。
ギリギリ間に合ったところで、さっそく魔法石で火力の調整を始める。
「まずは弱火から。その後大鍋のあぶくが落ち着いてきたら……中火に」
「レンちゃんすごーい……」
その見事な火力さばきに、メイは感嘆する。
「ここから青色粉末と紫粉末を一杯ずつ……一杯ずつ……ここ難しいわねっ!」
減っていくゲージに慌てるレン。
どうにか青色粉末は大鍋に入れたものの、紫色の方が上手く適量にならない。
「レンさん、時間がありません」
「ああもうっ! これで勝負っ!」
レンは勢いに任せて紫の粉末を大鍋に放り込んだ。すると。
「きゃあっ!」
『――――調合失敗!』の文字と共に、煙が吹き上がった。
「わあ! レンちゃんの顔が緑色にっ!」
「ゾンビより顔色が悪いです……」
レンは毒をくらい、顔が濃い緑色になっていた。
新たな犠牲者の誕生に、また三人一緒に笑い出す。
「ふふふふ、くだらない罰ねぇ……でも、こういうのも楽しいわ」
「あははは、本当だねっ!」
戦闘中でない毒に、脅威はなし。
どこかアトラクションめいたクエストに、笑い合う爆発髪と緑顔。
「では、最後は私ですね」
ツバメも『星2』の『解呪薬』を選択。
意外と数が多い素材の中から、植物二つと薬剤を取り出して煮込み始める。
「まずは粉末ですね……」
集中してサジを使い、瓶に入った粉末をすくい上げる。
これは二度目で成功。
続けて火力の調整に入る。
「確かに……難しいです」
魔法石による火力調整はつばめにも難しいらしく、しきりに右に左に魔法石を回しながら火を弱火から中火へ。
「う、うまくいきました……っ」
すかさず拍手のメイ。
「ここで薬草を二つ入れて、あとは強火にするだけですね」
安堵の息をついたツバメは、並んだ薬草の中から次に投入するものを探し始める。
しかし今回デスク上の薬草類は数も多く、似たようなものが多い。
「これは少し違いますね……こっちは……これも違います」
減っていくゲージに、焦り出すツバメ。
残り時間はもうわずか。
「これとこれにします!」
ツバメは覚悟を決めるようにうなずき、二つの薬草をつかんで大鍋に放り込んだ。
「……ッ!」
すると、少しの間をおいて小爆発。
調合失敗。
どうやら、慌てて投入した草が本に記載されているものと違っていたようだ。
もくもくと上がる煙と共に、ツバメの姿が消える。
「あれ? ツバメは?」
「ツバメちゃん?」
「……ここです」
「え、どこにいるの?」
「ここです」
声の出どころに目を向けて、驚くレン。
「もしかして……この子!?」
目の前にいたのは、一匹の白ネズミ。
「ツバメが……ネズミになった!?」
「ツバメちゃん、かわいいーっ!」
後ろ足でデスクに立つネズミの姿を見て、思わず声を上げるメイ。
「なにこれ……可愛いじゃない」
レンは、指先でツバメの後頭部をなでてみる。
毛並みはふわふわで、とても心地よい。
「私としては、メイさんのネズミ姿が見たかったですが……」
相変わらずのツバメに両手を出すと、手の上に飛び乗った。
そのままメイは、ツバメネズミに「かわいいー」と頬ずりする。
「これはこれで……ありかもしれません」
「ふふ、うれしそうねぇ。メルーナがここから始めるといいって言ってた理由が分かるわ」
「うんっ! 本当だね!」
「はい。ペナルティを含めて、とても楽しいクエストです」
レベルが選べる上に、ペナルティも含めて楽しく挑戦できるアトラクションのようなクエスト。
練習すればある程度上手くなるだろうし、仲間とやれば皆で遊ぶことができる。
そんな意図でメルーナは、この魔法薬クエストを提案したようだ。
「……それに」
ここでレンは、『理解した』とばかりに笑みを浮かべる。
「このクエストは……パーティで挑めるっていうのがいいところね」
どうやら早くも、調合クエストの上手な進め方を思いついたようだ。
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