第374話 魔法学校の住人
「おっそろい、おっそろい」
入校試験クエストを【投石】でクリアしたメイは、三人おそろいのローブを着てご機嫌だ。
レンとツバメの手を取り、飛び跳ねるような歩調でクインフォード魔法学校を見て回る。
もちろん尻尾もブンブン。
大きな窓に映った自分たちの姿に、思わず笑みがこぼれる。
「本当に三人一緒に遊びに来たみたいだね!」
「こういうのもたまにはいいわね」
「はい、同じ格好でアトラクションのような世界を見て回る……こんな日が来るとは思いませんでした」
しみじみとつぶやくツバメ。
クインフォードの内部はどこも徹底的に作り込まれており、メインとなる通路には、ホテルのような絨毯がどこまでも敷かれている。
魔法石で造られた灯火が並び、橙色の照明の下、制服姿のNPCたちが本を手に談笑している姿も世界観をよく表現している。
三人が各塔をつなぐ石造りの橋を渡って行くと、魔法薬塔にたどり着いた。
「ここはなんか少し匂いが違うね」
鼻を鳴らすメイに、ツバメやレンも「言われてみれば」とうなずく。
そこには、研究用と称した『プレイヤー向け』の薬や素材を売る店が設置されていた。
店主が黒のローブをはおった老婆なのも、かなり雰囲気が出ている。
「えへへ。なんだか必要のないものまで買っちゃいそうだよー」
ニコニコしながら店を眺めるメイ。
「なんか、こういうショッピングをアイテム店でしてるのが私たちっぽいわねぇ」
「本当ですね」
しかし、やはりその並びは面白い。
ハーブや香辛料を扱う古い店のようなショップを、三人興味深そうに見つめる。
「……何を探してるのー」
するとクインフォード制服姿の少女が、ぬっと物陰から現れた。
クルクルの長く淡い金髪。ぴょこんと出たアホ毛がなんだか可愛らしい。
その顔を半分近くまで橙のマフラーにうずめた、マイペースな雰囲気の少女だ。
「しいて言うなら、使えそうな植物とかかしら?」
「ここの商品は毒とー、食プレイヤー植物が多いかなー」
「そうなんですか……魔法世界らしいですね」
食プレイヤー植物という聞きなれない言葉に、驚くツバメ。
「んー、三人はクインフォード初見なのー?」
「はいっ」
「そうだと思った。もしクエストを受けるんだったらー、ここ魔法薬塔からにするといい」
「それはまたどうして?」
「クインフォードは難易度の高いクエストが多くてー、諦めちゃう人が多いんだ」
どうやら魔法学校はその高い難易度ゆえに、新規の挑戦プレイヤーが減っているようだ。
「魔法とか【知力】がないと厳しいクエストが多いのにー、それ以外のステータスとかスキルまで求められるものもよくある。ハイレベルの魔導士でも普通に苦戦するしー、放置状態の難関クエストも結構ある」
そのため魔導士以外のプレイヤーは雰囲気を味わいに来たり、欲しいアイテムを取りに来るだけのマップになってしまっているらしい。
「だから楽しめそうなクエストを教えてくれてるんだねっ!」
少女はこくこくとうなずく。
「求められる要素が各所で全然違うからー、うまくいかないことが多いの。トップレベル級の魔導士も数人来たけどー、諦めて帰っちゃった。最近は魔法学校の住人とー、観光で来るプレイヤーくらいしかいないんだ」
「魔法学校ってそんなことになってたのね……」
「せっかくだからー、クインフォードの楽しさを知ってもらいたい」
「かなり広いマップみたいだけど、結構詳しいの?」
「もう5年、クインフォードを拠点に遊んでるー」
どうやら少女がメイたちに気づいたのは、『見かけない顔』=『初見』だと分かるほどクインフォードに常駐しているからのようだ。
「長いわねぇ」
「んー。ここは雰囲気がすごく好きでー、いるだけでも楽しいから」
「確かに、魔法学校の世界観は目を見張るものがあります」
「いつか、クインフォードの大きなクエストとかを見てみたいんだ。今はもうトップの人たちが集まるような場所ではないけどー、そのうち見つかるって信じてる」
その難易度ゆえに、トップレベルの魔導士でも攻略を諦めているクインフォード魔法学校。
どうやら隠された大きなクエストを目撃するのが、彼女の目標のようだ。
「私はメルーナ・ラブウェル……よろしくー」
「メイですっ!」
「レンよ」
「ツバメです」
「クインフォードの楽しさを知ってー、好きになってくれるとうれしい。それじゃーまた、何かあったら聞いてね」
そう言い残してメルーナは、足音もさせず影のようにスーっと立ち去って行った。
「面白い子だったわねぇ」
「うんっ! いい話が聞けて良かったね!」
「そういう事なら、せっかくだし魔法薬のクエストから狙ってみましょうか」
「りょうかいですっ!」
「はいっ」
クインフォード大好き少女との出会いと、お勧めクエスト。
こうして三人は、魔法薬系クエスト目指して動き出したのだった。
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