第373話 入校試験です!
クインフォード魔法学校へとやって来たメイたちは、ホール奥の受付へと向かう。
そこには、黒のローブをまとった壮年の男が立っていた。
「はじめまして!」
メイが元気よく頭を下げると、緩いオールバックの男はメガネの位置を直しながら語り出す。
「私はクインフォード魔法学校の試験官。本校は才能あるすべての者に門戸を開いています。ですが、入校には試験が必要となります」
「試験……?」
メイは首と尻尾を傾げる。
「合格者のみ入校が許可されるということです。合格のあかつきには、誉れ高きクインフォード魔法学校の制服を授与しましょう」
「わあっ! レンちゃんツバメちゃん制服だって!」
「はい、これですね!」
「それでは付いて来てください。貴方たちには……そうですね」
受付の試験官NPCは、試験内容を考えながら歩き出す。
どうやら、いくつかのパターンがあるようだ。
そのまま中庭へと進んで行くメイたち。
そこには、木製の的が並んでいた。
「ここからあの的を撃ち抜くことができれば、クインフォード魔法学校への入校を許可しましょう」
「放れた場所にある的を撃て……やっぱり魔法が基本になるクエストなのね。そしてこの位置からということは……」
どうやら魔法スキルの威力に関わる【知力】や、的に当てる能力に関わる【技量】を測るもののようだ。
この試験をクリアしなければ生徒になれず、立ち入り箇所も制限され、受けられるクエストも激減。
もちろん、制服ももらえない。
「ここは誇り高き魔法学校。君たちの力、しっかりと見せてもらいますよ」
そう言って、厳しい目を向ける試験官。
「まずは私からいくわね」
杖を伸ばして的に向ける。
当然、今のレンにとっては余裕が過ぎるクエストだ。
「【ファイアボルト】」
狙いを正確にする【技量】もあり、威力を決める【知能】も高い。
放った炎の弾丸は、難なく的を打ち破った。
「……見事だ」
その結果に、深くうなずく試験官。
「さあ、次は君の番だ」
「魔法……ですか……」
当然、ツバメは悩む。
【紫電】などは魔法系に属しはするが、攻撃力はなく範囲も短い。
おそろいの制服を前に、立ちはだかる壁。
「それなんだけどツバメ……【投擲】を使ってみて」
「大丈夫でしょうか?」
「魔法学校の入学自体は、魔導士でないと不可能ってことにはしていないと思うの。そう考えると魔法以外のスキルも有効なはずだから」
言われてみれば、試験官は『魔法で打ち抜け』とは言っていなかった。
攻撃魔法を持たないツバメは、レンの言う通り【投擲】で的を狙うことにする。
「それではいきます! 【投擲】!」
ある程度の【腕力】と【技量】があるため、投じられたブレードはしっかりと的を捉えた。
試験官の反応を、緊張と共に注目するツバメたち。
「……見事だ」
試験官は、再び深くうなずいた。
思わずレンとツバメは「やった!」とハイタッチ。
どうやら、『的をしっかり撃つ』ことができれば問題ないようだ。
「魔法が有利なのは間違いないけど、物理スキルでも問題はないみたいね。こうなったらもう……楽勝よ!」
「そうですね!」
「さあ、次は君の番だ」
「はいっ!」
そして最後はメイ。
元気に応えると、気合を入れて的に向き合う。
「どうせなら最後は派手に決めちゃって!」
「おねがいします!」
もちろん使用するのは、得意の遠距離攻撃スキルだ。
「おまかせくださいっ! いきます! 【投石】だぁぁぁぁーっ!」
メイが投じた石は、暴風を巻き起こしながら中庭を猛進。
グシャアアアア!! と豪快な破砕音を鳴らして的を消し飛ばし、そのまま背後の石壁にぶつかって粉々に弾け飛んだ。
吹き荒れる風にローブを派手にバサバサさせている試験官を、三人はじっと見つめる。
「……見事だ」
「やったー!」
もはや魔法どころか、技術とすら言えない原始的な攻撃法。
それにもかかわらず、大きくめくれあがったローブと乱れた髪のまま深くうなずく試験官の姿に、レンは思わず笑ってしまう。
「君たちにクインフォード魔法学校への入校を許可しよう。これからは誇り高く自覚を持って勤しむように」
「ありがとうございますっ!」
うれしそうに頭を下げるメイ。
「……なるほどね、完全に理解したわ」
魔法と【知力】が全てのはずの魔法学校マップ。
ここでの活動は、遊びや見学が中心になるのでないかと思っていた。
しかし『求められる結果を出しさえすれば、手段は問われない』ようだ。
早くも漂い出している『最強野生児in魔法学校』の気配に、レンは口元を緩ませる。
【クインフォード魔法学校制服】:名門魔法学校の制服。魔法系スキルの威力を微増する。耐久5 知力5
「やったー! これで皆おそろいだねっ!」
「いいですね!」
手に入れた制服は、決して性能の高い装備品ではない。だが。
メイはさっそく装備を換えて、ツバメと手を握り合ってぴょんぴょんする。
そのうれしそうな笑顔だけで、もう十分だ。
レンもすぐに制服に着替えると、希望通り三人おそろいの装備になった。
「わあ! レンちゃん雰囲気がいつもと違うね。すっごく頭の良い、きれいな先輩って感じ!」
「はい、間違いなく優等生ですね」
「優等生感なら、ツバメも結構なものじゃない?」
「うんうん、わかりますっ!」
ツバメはおとなしく読書好きな生徒といった感じだ。そして。
「どうですか? ご感想ください!」とばかりにポーズを決めるメイ。
「もちろん、とてもかわいいです……っ!」
「少し、知的な感じになったんじゃない?」
「えへへへへ」
尻尾をブンブン、うれしそうに笑うメイ。
耳と尻尾があるせいか、若干『魔法学校に潜り込んできた化け猫』感はあるが、それはご愛敬だ。
「この制服を着ている時は、私も中二病から解き放たれてるのよね……」
ゲームをする以上『いつ敵が出てきてもいいように強い装備をしておく』のが信条のレン。
しかし今回は、みんなで同じ衣装を着ることも楽しみの一つ。
それなら衣装チェンジも問題なしだ。
久しぶりに普通の魔導士になっている自分を見て、レンは思わず歓喜の笑みを浮かべたのだった。
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