第372話 報酬と魔法学校

「今日もがんばってるねぇ」

「はい、変わらず忙しそうです」


 遺跡を守り、植物園復活をなしたプレイヤーであるメイたち。

 管理人ロボットは三人がやって来ると、すぐに近くに寄ってきた。

 いつものようにロボットの頭をなでて、しばらく仕事ぶりを鑑賞。

 軽い息抜きをした後、緑の光を灯した古代ポータルが置かれた中央ホールへ

 そこには、いつものチュートリアルAI【HMX-18b・ベータ】が待ち受けていた。


「皆さま、お待ちしておりました」

「おひさしぶりですっ」


 深々と頭を下げるベータに、メイも元気に頭を下げる。


「皆さまはここ遺跡都市ラプラタにおいても、見事な成果をあげられました。こちらはその報酬となります」


 現れた三つの箱は、ラプラタ特有の金属製。


「今度は何が入ってるのかなぁ……っ」


 さっそく三人は、置かれた箱に手を伸ばす。

 まずはメイ。

 ドキドキしながら箱を開くと――。



【狼耳・尻尾】:【遠吠え】は広範囲の注意を一斉に奪い、モンスターのターゲットも得られる。また夜限定で【腕力】【敏捷】を向上し、常時高速移動を可能にする。耐氷・防水効果あり。



「よかったー! 耳と尻尾だー!」


 野性味という点では耳尻尾装備も決して低くはないが、その可愛さゆえに歓喜の声を上げる。


「カッコ良さもあっていいですね。しかも夜にステータス向上とは……夜を駆けるメイさんを早く見たいです」


 早くもメイの狼装備に期待するツバメ。

 続けて自分の箱を開く。



【剣舞の才】:5~8連の高速剣舞を任意で放つことが可能になる。



「いいじゃない。今回は剣舞の方が強化されたのね」

「任意で攻撃数を選べるのですか……これはどんな武器を持って使うかでも戦いが変わってきそうです」


【アクアエッジ】で8連なら放たれる水量が多くなり、【ヴェノム・エンチャント】なら一発で毒を発症させられる。

 だが当然使用時の隙も大きくなるだろう。

 使い方の判断が必要になりそうだ。

 そして最後はレン。


「今回は三人で同じローブを着て遊ぶ形になりそうだし、おしゃれなアクセサリーとかでもいいわね」


 そう言いながら箱を開く。すると。



【宵闇の包帯】:装備後、指定した初級魔法を使わずにいることで『溜め』状態になり、使用時の魔法効果を変化させるアクセサリー。同系統の装備を重ねることで上位魔法スキルも変化させることが可能となる。



「…………」

「わあ! カッコいい!」

「はい、これはカッコいいです!」


 白目をむくレンに対し、すぐさま絶賛するメイとツバメ。

 銀の紋様が入った包帯は、まさに中二病の象徴。


「つ、ついに……ついに包帯がきてしまったわ……っ! しかも説明文がちょっと使ってみたくなる内容……っ!」


 あまり使い道のない装備品なら、それを理由に放置することもできる。

 だが指定魔法を溜めによって変化させるという内容に、レンは興味を引かれてしまう。


「しかも今回皆で制服を手に入れたとしても、包帯はアクセサリーだから普通に装備できてしまうわ……」


 使わない理由がないことに頭を抱えるレンは、しばらく悩み続けた後――。


「……と、とにかくこれで報酬は無事に受け取ったわね!」


 気を取り直した感じでパン! と手を叩いた。


「それじゃ、クインフォード魔法学校に向かいましょうか!」

「はいっ!」

「行きましょうっ!」


 色々と考えた結果、包帯の件は先延ばしすることに決定。

 こうして三人は魔法学校目指して、ポータル移動を開始したのだった。



   ◆



「すごーい!」


 見上げるほどの大きさを誇る城を見るなり、メイは歓喜の声を上げた。


「圧巻です……」


 まさに『そびえる』という言葉が似合う古い巨城に、ツバメも息をつく。


「こうやって実物を見ると、本当にすごいわねぇ……」


 一面が切り立った岩山に造られたクインフォード魔法学校は、メインとなる中央塔を中心に、石造りの橋でつながったいくつかの塔でできている。

 その中央部分は公園のようになっていて、緑も多い。

 早くもワクワクのメイたちは、正面玄関へと続く大階段をはずむようにして上り、玄関口にたどり着いた。

 エンブレムの飾られた重厚な石作りの門をくぐって中に入り込めば、そこは高い天井を持つクインフォード魔法学校の大ロビー。


「わあ……」

「やっぱり、造り込みがすごいわねぇ」

「これは……見とれてしまいます」


 古い貴族の城を思わせる大ホール。

 そこには橙の炎を灯す大型シャンデリアが鈍く輝き、足元には深紅の絨毯が敷かれている。

 天井に描かれた絵画も程よく風化し、ロビーを行くNPCたちまでローブや杖といった装備品でしっかりと魔法学校の世界観を感じさせている。

 まさに一目でプレイヤーを魅了する、壮観な光景が広がっていた。


「制服はどこで手に入れられるのかな!」


 さっそく辺りをキョロキョロと見回してみるメイ。

 ロビーにも、制服姿のプレイヤーが何人も見受けられる。


「まずはあの受付っぽいNPCに、話を聞いてみましょうか」

「りょうかいですっ! ああー、ワクワクしちゃうね!」

「はい、さっそくいきましょう!」


 駆け出すメイに、ツバメとレンも続く。

 こうして、魔法学校クインフォードの冒険が始まった。

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