第371話 おそろいと新たな目的地

 遺跡都市ラプラタを無事に守り抜いたメイたちは、いつもの港町ラフテリアに戻ってきていた。


「やっぱりポータルが更新されて、『乗り継ぎ』の回数が減ったのはいいことね」

「本当です」

「早くて便利だねっ」


 古代ポータルの起動によって更新されたポータル移動は、以前よりも移動範囲が広がり便利になった。

 これによって新たに見つかる冒険も出てきそうだ。

 街行くプレイヤーたちの中には、早くも見知らぬ土地を探して駆け回っている者もいる。


「それじゃ、そろそろクエストの報酬でも受け取りに行きましょうか」


 遺跡対戦クエストの報酬は、ラプラタ中央層での配布とのこと。

 メイたちはいつものように、海沿いの通りを歩きながらポータルのもとへと向かう。


「あれ……?」


 すると、不意にメイが足を止めた。


「見て見てっ。あのパーティ装備がおそろいだよ、かわいいーっ!」


 そう言ってレンの腕に飛びつくメイ。

 視線の先には、紺地に紅色をあしらったローブを着た三人組のパーティ。

 皆同じ装備を身にまとい、楽しそうに歩を進めている。


「あれはクインフォード魔法学校の制服ね」

「魔法学校……?」


 メイは首と尻尾を傾げる。


「分かりやすく言うと、大きな西洋のお城を中心にしたマップね。魔法学校のテーマパークとかアトラクションって聞いて思い浮かべるイメージそのままっていう感じなんだけど……」

「そうなんだぁ……楽しそうだねぇ……っ」


 それを聞いたメイは、早くも目を輝かせる。


「わたしたちも、みんなで同じ制服を着られるのかなっ?」


 そう言ってもう一度、おそろいの三人組を見る。


「あの制服自体は、普通に手に入るんじゃないかしら」

「本当……っ!?」

「メイさんの魔法学校生姿ですか……」


 紺色のローブをまとった、いつもと少し違うメイの姿を想像するツバメ。

 その顔は、早くも期待でいっぱいになっている。


「世界観は申し分なしなのよね。歴史ある魔法世界の雰囲気がよく出てるし。ただ魔法学校を名乗るだけあって基本魔導士のためのマップなのよ。魔法の使用や【知力】の高さが求められるクエストが中心らしいし。ほとんどのクエストが魔法学校の敷地内で済む感じみたい」


 レンの知る情報では、魔法学校内にいる教授や生徒NPCたちに関わるクエストが多いとのこと。

 当然、魔法学校にいるプレイヤーのほとんどは【知力】の高さを誇る職業についている者ばかりだ。


「レンさんもまだ行ったことはないのですか?」

「ないわねぇ。わりと道のりが面倒なのと、拠点にするにはポータルや商店が遠かったから」


 商店の充実とポータルからの距離は、そのマップの繁栄に大きく寄与する。

 その点でクインフォード魔法学校は、少し不利な場所にあるようだ。


「三人で一緒に魔法学校に行くっていうのも楽しそうじゃないかなっ!? それで同じ制服を着るの!」

「……なるほど。三人で魔法のテーマパークに遊びに行くって考えると楽しそうね」


 楽しそうなメイに、思わず笑みがこぼれるレン。

 メイも「うんうん!」と、大きく首を振る。


「とてもいいと思います」


 ツバメもかなり前向きだ。

 考えてみれば、そもそも最初から攻略を目的に向かったマップなどほとんどなかったメイたち。

 大きなボスと戦うことが前提でなければ、装備品も実用性より『おそろい』であることを重視してみるというのも楽しそうだ。

 普段とは方向性の違う装備品をまとってみるというのは、良い気分転換にもなるだろう。


「レンちゃんツバメちゃんとおそろいの制服で、魔法学校のクエストに参加する! 絶対に楽しいよ!」

「三人で同じ制服を着て一緒に学校へ……とても楽しそうです」


 尻尾をブンブンさせるメイに、ツバメのテンションも上がっていく。


「……そういう場所に友達と一緒に『遊び』に行くだなんて、考えたこともなかったわねぇ」

「はい、初めてのことです」

「わたしも初めてっ。ワクワクしちゃうよー!」


 様々な理由で、友達とテーマパークに行くという経験をしてこなった三人。

 それが一緒にとなれば、気持ちが高ぶらないはずがない。


「……行ってみましょうか!」

「はい、行きましょう!」

「やったー!」


 こうしてメイたちは、新たな目的地を『クインフォード魔法学校』に決定。


「それならまずはラプラタに行って報酬をもらって、その足でクインフォード魔法学校を目指す形にしましょうか」

「いいと思いますっ!」

「楽しくなりそうですね!」


 早くも早足になってしまっているメイを先頭に、三人はさっそくポータルへと向かうのだった。

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