第341話 何もないから何かありそうな島

「ありがとーっ!」


 去っていくケツァールに大きく手を振って見送るメイ。


「悪いクエストねぇ……」


 そんな中、島の中心部に降り立ったレンは苦笑いしながらそうつぶやいた。

 空から見た地上絵は、円形の紋様のように見える。


「悪いクエスト?」


 メイが首と尻尾を傾げる。


「基本は船で行けってクエストなのに、船で来たら凹凸のあるただの広い荒野にしか見えないでしょ? これじゃ紋様になってるって気づけないじゃない」

「偶然何かでたどりついても、これでは気づきませんね」


 ツバメも続く段差を見ながら、こくこくとうなずく。

 だだっ広い荒野に広がる、妙な段差。

 この場に魔獣使いやレアな飛行系のスキル所持者が来て、実際に飛行しないと気づかない仕掛け。

 ひたすらに続く段差の中から『カギで動く装置を見つける』というのは、かなり難しいだろう。

 しかしメイたちは空から来たことで、地上絵のような段差が紋様になっていることに気づいた。

 そのため、レンが着地点を『何かありそう』な紋様の中央部分を指定したのだった。


「こういうちょっと意味ありげな荒野が、大海の中にあるってワクワクするのよね」

「わかります」


 三人は付近を見回しながら、考古学者から受け取った『カギ』の使いどころを探して歩く。

 そしてこういう時に、メイの目は違和感を逃さない。


「あれは何かな……?」


 段差を軽い足取りで飛び越えながら進んだ先には、小さな白灰色のモノリス。

 金属にも石にも見える、長方形の立像に鍵穴が一つ空いている。


「なんだか、不思議な質感ね」


 硬度を上げた真鍮のような触り心地は、これまでにない素材感だ。


「何が起きるのかなぁっ」


 メイはワクワクで、尻尾をブンブンと震わせる。


「……こういう時は」

「はいっ!」


 さっそくカギをレンを任せ、その腕に抱き着くメイとツバメ。


「まだ生きてるのね、この感じ」


 レンは笑いながら、ちょっと動かしづらい右手でカギを差し込む。

 すると、これまでに見てきた魔法燈などとは少し違い、ジワリとした青い光が灯った。

 そして足元を一気に、紋様をなぞるかのような形で光が駆け抜けていく。

 揺れ始める足元。

 わずかな高低だった段差に、大きな差が生まれていく。

 突き上がっていく領域もあれば、そのまま動かない部分も、落ちていく部分もある。

 なかなか見ない光景を、三人はそのまま眺めることにした。

 落ちてくる細かな石灰片、舞い上がる砂。

 荒野に描かれた謎の紋様。そこに現れたのは――。


「これは……」

「驚きました……」

「すっごーい!」


 足元からせり上がってきたのは……見慣れぬ大きな街。

 そこにはシンプルな白壁の建物が並び、飾りっ気はまるでない。

 島の海側が低く、内部へ行くほど上がっていく、広い円形の段々畑のような造りになっている。

 建物の外観は王都などとは違い、とにかくシンプル。

 それでいてところどころに丸みのある物づくりが入り込んでいる辺りは、独特の世界観と言えるだろう。


「『星屑』の世界の中では、文明が進んでいる感じね」

「ですが機工都市などともまた、雰囲気が違います」


 街自体が沈んでいたためか、雨風に打たれて風化した感じもない。

 昨日まで使われていた街から、突然人が消えたといった方がしっくりくるような不思議な光景が広がっている。


「少し歩いてみましょうか」

「そうしましょう」

「何があるんだろう……っ」


 辺りを見て歩いているとやはり、王都やラフテリアより文明が進んでいるのが分かる。

 ただしそれは、科学が進んでいるという感じとも少し違うようだ。


「段差が大きくなって生まれた壁も、くり抜いて使ってるのね。」

「中はどうなってるのかな?」

「行ってみましょう」


 段差の壁に紋様を施した、神殿のような造りの出入り口へと向かう。

 取手のない不思議金属の扉。

 手で触れると、自動ドアのように左右に開いて――。

 まるでその場所を警備していたかのように現れた、奇妙な大型犬を三匹ほど発見。


「……魔獣とは違うわね。正確には動物でもないっぽいけど」

「動物的な機械といった感じでしょうか」


 それも洗練された機械というよりは、その文明独自のデザイン感覚で作られた機械獣といった雰囲気だ。

 ここでも硬度を上げた真鍮のような素材が装甲に使われており、不思議と科学の雰囲気はあまり感じない。

 その輝く目は、黄色から赤へと色を変える。


「まあ何にしろ、ここに入りたければ倒して進めってことみたいね」

「新しい舞台の見慣れぬ敵、緊張感があります」

「そういうことなら、さっそく新しいやつを試させてもらいましょうか」

「はいっ!」


 やはり動物ではないのか、三匹の白い巨犬は鳴き声も上げずに襲い掛かってくる。


「【加速】【紫電】」

「敵の動きとしては、基本的な犬型と同じ感じね【ファイアボルト】!」


 ツバメが動きを止めた機械獣に炎弾が直撃するも、ダメージは少なめ。


「なるほどね、この装甲には耐性がある感じなのかしら」


 王都地下ほどではないが、敵の強さはなかなかのもの。

 何かを試すには、ちょうどいい。

 メイは駆ける。

 飛び掛かってきた二匹の機械犬の飛びかかりは、右、左と身体を傾けることで回避。

 すると三匹目がスキルを使用。

【風弾飛び掛かり】は文字通り、爆風を推進力に換えて飛び込む機械犬の必殺スキル。


「がおおおお――っ!」


 これをしっかり【雄たけび】で硬直させたメイは、一応付近を確認。


「【ゴリラアーム】!」


 新スキルを発動し、機械犬の前足をつかんだ。


「いくよー! せーのっ!」


 メイはそのままその場で、コマのようにグルグルと三回転。

 つかんだ機械犬を、もう一匹に向けて投げつける。


「それぇぇぇぇーっ!」


 その【腕力】の高さゆえに、威力は絶大。

 すさまじい速度で飛んで行った機械犬はズゴオッ! と、豪快な音を立ててぶつかった。

 二匹は絡み合うようにして地を転がり、砂煙を上げながら壁に激突。

 壁に穴が開くのではないかというほどの音を立てて、その場に倒れ伏した。

 ダメージ判定は衝突にもかかわらず、二匹はそのまま粒子になって消えていく。


「すごいですね……」

「この新スキル、どこまで可能なのかしら」


 その光景を見て驚くツバメ。

 レンは早くもあれこれと、使い方を思い浮かべて笑みを浮かべるのだった。

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