第342話 遺跡の街

 三人が新たにおとずれたのは、謎の遺跡街。

 その中央部へ入ろうとしたところで出てきたのは、三匹の機械犬だった。

 メイが新スキル【ゴリラアーム】を使って二匹を投げ倒したところで、さっそくレンが確認を始める。


「メイ、今度は上に投げてみてもらえる? せっかくだから【キャットパンチ】から続ける形でお願い」

「りょうかいですっ!」


 メイは残り一匹の機械犬に向けて走り出す。

 すると機械犬はスキル【風弾】を使用。

 強い追い風によって、一気に距離を詰めてきた。


「よっ、それっ!」


 連続の飛び掛かりをメイがバックステップでかわすと、機械犬は【風弾跳躍】を発動。

 空中で前方回転し、【風刃爪】を振り降ろしてきた。


「……ここっ!」


 しかしエフェクトがしっかりとかかっていたため、メイにとっては風刃の範囲が把握しやすかった。

 二歩ほど下がって、難なく攻撃を回避。


「いきますっ! 【キャットパンチ】!」


 お返しの猫パンチを右左右と入れたところで、ひるんだ機械犬の前足をつかむ。


「【ゴリラアーム】! それでは――――上に参りますっ!」


 そう宣言してメイは、その場でグルグルとハンマー投げのように三回転。


「それ――っ!!」


 そのまま真上に放り投げた。

 高く投じられた機械犬は、もちろん空中では何もすることができない。


「【連続魔法】【誘導弾】【フレアアロー】!」


 すると機械犬が最高到達点に来たところで、レンが空に向けて炎の矢を放った。

 炎矢は真っすぐ飛び、防御すらできない空中の機械犬に全て突き刺さり爆発。

 炎を燃え上がらせる。


「少し残ったわね」


 機械犬はやはり炎か魔法に耐性があるのか、HPを削り切ることはできなかった。

 しかし、そんな言葉を聞いて動いたのはツバメ。


「【投擲】」


 遅れて投じたブレードが、見事にとどめを刺した。


「この距離感だと、私の技量ではギリギリですね」

「おおーっ! なんか三人の必殺技みたいだったね!」


 一連の流れに、メイはぴょんぴょん跳んでよろこぶ。


「まずはこんなところかしらね。他にも色々できそうだけど、敵モンスターもいなくなっちゃったし」

「やはり【ゴリラアーム】は、戦いの幅を広げてくれそうです」

「これ、魔導士がいっぱいいたらどうなるのかしら」

「おおー! すごいことになりそうっ!」


 メイの投げ上げた敵を魔導士たちが一斉に狙い撃つという、これまでの『星屑』でも見たことのない連携を想像して、メイはワクワクする。


「天井の低いところなら、メイがツバメの方に敵を投げて刺突するパターンもありかもしれない」

「壁にぶつけて、その隙を突く形も良さそうですね」

「オブジェクトを投じるパターンも考えられるし、場合によっては敵プレイヤーやNPCを……なんてこともできたりして」


 やはり今回の【ゴリラアーム】、色々と使い方が見つかりそうだ。


「これで名前がもう少しカッコイイ感じだったら、最高だったのに……っ」


 うぐぐ、と頭を抱えるメイ。

 野生は、世界の厳しさも教えてくれる。


「見られてるところでは少し、気を付けないと……」


 思案するメイを見て「フラグっぽいなぁ」と、温かい笑みを浮かべるレンとツバメ。


「さてと。とりあえずあいさつ代わりのモンスターは倒したし、ここには一体何があるのかしら」


 三人は今度こそ扉の内部へと足を進める。

 段差の内部は、紋様の入ったブロックを積んで作られた、ホールのようになっていた。

 一面石灰色の空間は、どこか神秘的で不思議な雰囲気を放っている。

 そしてその中央に、見慣れた装置が置かれていた。


「ポータルです」

「消えちゃってるね」


 普段は光の灯っているポータルを、メイがポンポンと叩く。

 しかし起動する様子はない。


「ポータルの起動には、考古学者の言っていた『何か』を動かす必要があるんじゃないかしら。それによってこの遺跡が動き出してポータルもつながる。そこで初めて本格的な攻略対象として開かれるみたいな感じだと思うけど」


 レンはカギを使った遺跡の浮上と、都市の起動という二つの段階を踏むことでマップとして動き出すのだろうと予想。


「遺跡都市を起動させるクエストですか……聞いたことないですね」


 ツバメは首を傾げる。

 実際に攻略サイトなどにも、そんな情報は載っていない。

 ハウジング用の植物が手に入るクエストをこなして学者を助け、実際に種を何度も使用することで初めて出てくる展開。

 そんな見つけにくいクエストにたどり着いたプレイヤーは、まだいないようだ。


「せっかくだし、少し歩き回ってみようよっ!」

「賛成です」

「それがいいわね。他の層がどんな感じになっているのか見てみましょう。考古学者のところに戻るのは、それからでも十分よね」

「新しい冒険の始まりだねっ!」


 さっそく尻尾をブンブン、弾むような歩き方で街に出るメイ。

 こうして三人は、いまだ人のいない遺跡都市を回ってみることにした。

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