第340話 補充ついでのクエスト

「レンちゃんツバメちゃん! 次はどこに行こうかっ」


 今日もメイは、尻尾をブンブンさせながら新たな冒険の舞台に思いをはせる。


「そうですねぇ……雪山から街という順番で来ましたが、他にも火山地帯や高山地帯なんかもあります」

「少し変わり種だと、監獄なんかもあるわよ」

「監獄!?」

「シマシマの服に、鉄球付きの鎖もあるのでしょうか……っ」


 メイが着る事を想像して、気合の入るツバメ。

 対してレンは「メイが鉄球を振り回したら、刑務官が吹き飛びそう」と笑う。


「特定NPCの商店で商品を複数回盗んだりすると、捕まって投獄されるみたい。他にも依頼で忍び込む形もあるって話よ」

「それも楽しくなりそうだねぇ……」


 メイは脱獄を図る自分たちを想像をする。

 サーチライトの中を駆け回る自分たちの姿に、ワクワクしてしまう。


「そうそう、せっかく王都に来たんだし【豊樹の種】は補充しておきましょう」


 獣の王との戦いで使用した【豊樹の種】は、店では買うことのできないアイテム。

 メイたちは港街ラフテリアに帰る前に、植物学者の家に寄っておくことにした。


「こんにちはーっ! 【豊樹の種】くださいなー!」

「おや、メイさんたちではありませんか。どうぞこちらをお持ちください」


 自分の渡した種が、今まさに王都南部を飲み込んでいることを知らない植物学者NPCは、よろこんで種を譲ってくれた。


「そう言えば、皆さんはラフテリアという街をご存じですか?」

「はいっ。よく三人で港を眺めてますっ」


 陽光まぶしい港町は、白い石畳と青い海が美しい貿易港。

 三人が拠点としている街だ。


「実は考古学者の友人が、ラフテリアに向かう優秀な冒険者を必要としているらしいのです」

「あら、ちょうどいいわね」

「わたしたちにおまかせくださいっ!」

「彼の住処は……この地図に記しておきました」

「最初の目的地は、考古学者さんの家ですね」

「それでは行ってきます!」


 メイは快く受け取って、さっそく歩き出す。

 植物学者からの信頼を勝ち取り、かつ一定数以上『植物の種を使用』していると提示されるこのクエスト。

 ここからはツバメの【地図の知識】で、真っすぐ考古学者の研究所へ。


「わあ……かわいい……」


 その軒先には多くの猫たちが集まっていた。

 猫好き考古学者の住処は、王都東部にある古い石造りの一軒家。

 普段プレイヤーが近くを通っても興味なさそうにしている猫たちが、メイに群がってくる。

 三人は階段を降り、キッチンらしき場所を通って、研究室へ。


「こんにちもがぁ、植物うわっと、学者はんからお話を聞いて来まふぃたー」


 すっかり猫まみれになったメイを先頭に考古学者の部屋に入っていくと、そこにはメガネをかけた銀髪の青年。


「君たちは……冒険者かい?」

「はいっ! 植物学者さんにお話を聞いてきましたっ!」


 張り付いた猫たちを降ろしながら、元気に応えるメイ。


「なるほど……ラフテリアという街は世界でも南方にあるのだが、僕の研究ではさらに西南へ海を進んだ先に、一つの大きな島があるはずなんだ……」

「あるはず……ですか?」

「海流の影響で、その島に船で行くのはかなり難しい。あの辺の海にはモンスターもいるし、船をかなり上手に動かせる屈強な船員たちが必要になる」

「なんだかワクワクする話だねぇ」


 メイは尾を振るわせながら、レンの腕に抱き着く。


「そして島には古代の遺跡があり、起動用の装置と、中枢への道を開く装置があるとのことだ」


「中枢へ向かうための装置については、古い文献を読み漁っているがまだ見つかっていない。そこで君たちにはまず、南西の島へ向かって遺跡を起動してもらいたいんだ」

「なるほどね。それなら一度ラフテリアに戻りましょうか」

「そうですね。まだ見ぬ島を探すというのは楽しそうです」

「りょうかいですっ!」


 なんだか大きな展開になりそうで、ワクワクのメイたち。

 さっそく三人は、【遺跡のカギ】を借りて考古学者の住処を出た。

 そのままポータルへ向かい、王都を後にする。


「すごいクエスト続きだったけど……楽しかったねぇ。動物たちも守れたし」

「獣の王と和解した瞬間は、忘れられそうにありません」

「うっ、それは忘れて欲しいような気も……っ」


 三人、笑いながら港町ラフテリアへ帰還。

 そこは変わらず賑やかで、きれいな海の街。

 そしてメイ、不意に思いつく。


「……これって、空から行ってもいいのかな?」

「話を聞く限り、想定してるのは『優秀な船乗りを捕まえて』みたいな流れだと思うけど……どうなのかしら」

「やってみる価値はあるのではないでしょうか」


 ツバメがそう言うと、メイはさっそく右手を突き上げた。


「それでは――――何卒よろしくお願いいたします!」


 召喚の指輪を発動すると、空中に現れた魔法陣から巨大な一羽の鳥が現れる。

 緑から黄色、そして赤へのグラデーション。

 長い尾を持つケツァールは、そのままメイたちの前に降りたった。

 さっそくその胸元をなでて、飛び乗るメイ。


「それでは行ってみましょう!」


 レンとツバメがその背に乗ると、ケツァールは大空高く舞い上がる。


「……きれいですね」

「さすが南洋ね。この明るさは見てるだけで楽しくなってくるわ」


 見えるのは、どこまでも広がる海と、各所からやって来る船が集まる港町ラフテリア。

 向かう先は、ここから南西というかなり大雑把な指定。

 目標物になるようなものがない飛行など、迷ってしまうこと請け合いだ。しかし。

 メイの指示に迷いはない。

【帰巣本能】による方角の把握で、きっちり南西に向けて飛んで行く。


「……それにしてもこの子、全然疲れないわね」


 大空をスイスイ超えていくケツァールに、驚きの声を上げるレン。


「従魔士は飛行型のモンスターを使っても、大きな海を越えて新しい陸地を見つけるなんてことはできないみたいなのよ」

「そうなの?」

「いくらでも飛び続けられるってわけではないみたい。体力がなくなると海に落ちてしまって、そのままリスポーンになるらしいわ」


 もともと広大な『星屑』の世界。

 従魔の飛行距離や高度には種類ごとの限界があるため、新大陸を従魔で見つけるということはなかなかできない。

 7年間離島のジャングルにいたメイの発見が遅れたのも、それが原因の一つだ。


「そうなんだぁ、ケツァールちゃんすごーい!」

「やはり、自然の仲間たちは偉大ですね」


 その背中にギュッと抱き着くメイ……に夢中なツバメ。


「まあ、メイの場合は途中で海に着水しても、そこでクジラを呼べばまた先に進めるものね」


 レンがそんな二人をほほ笑ましく見ていると、見慣れぬ陸地が見えてきた。


「どうやらあれが、目的の新大陸みたいね」

「おおーっ!」

「すごいですね」


 そしてすぐに、メイの【遠視】がそれを捉える。


「あれ……? 何か絵が描いてある……?」


 砂っぽい陸地には、大きな紋様が描かれていた。

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