第339話 イベントが終われば

 特大クエスト攻略という形で王都イベントを終えたメイたちは、いつもの港町ラフテリアに戻ってきていた。


「それにしてもあのコマーシャル、すごかったわね」

「あれがゲーム内の実際の映像だとなれば、やはり目を引きますね。何より廃墟とメイさん、魔獣たちの並びがとても幻想的です」


 直後に運営が動画サイトにも公開した宣伝映像は、これまで出してきたものを大きく上回る再生回数になっている。


「実際、街にも人が増えた感じがします」

「プレイ動画なんかを検索しても、結構メイの戦闘シーンが出てくるんじゃないかしら。メイのスキルは見る分には最高に迫力あるから、自分でも遊んでみたくなるでしょうね。喰らう側だと地獄だけど」


 そう言ってレンは笑う。

 事実、『星屑』のプレイ人口は増加を続けており、それはラフテリアの街中でも実感するほどだ。


「わたしの野生児姿が、ついに現実世界に……っ!」


 幹線駅のホログラムディスプレイに映し出されたメイ。

 この時は獣の王との戦いで【野生回帰】を使用しており、そのままクエストのエンディングまでその格好でいた。

 そのためインナー装備で耳と尻尾、毛皮のマントという完璧な野生児モード。

 またも大きく野生児として名を上げてしまったメイは、頭を抱える。


「でも、おかげで『星屑』のプレイヤーは増えてるみたいよ」

「……そうなの? それは楽しくなりそうだねっ!」


 それはそれとして、うれしそうに笑うメイ。


「ハッ! でもその人たちってみんな、私を野生児だと思っているのでは!?」

「ふふ、まあそうでしょうね」

「なんとか……素敵なお姉さんとしていいところを見せないと……っ」


 気合を入れるメイ。

 思いつくのが『カフェオレ(ミルク9割)を飲んでいる姿を見てもらえれば印象が変わるかも!』くらいな辺り、なかなかイメージの変更は難しそうだ。


「確か、レンさんの【魔力蝶】の使用映像も、動画が上がっていましたよ」

「えッ!?」

「とてもカッコよかったです」

「ちょっと待って、それって詠唱も――」

「バッチリ入っていました」


 メイの話題から思わぬ形で出てきた情報に、レンが顔を引きつらせる。

 肩をポンポンと叩いて「分かるよ」とうなずくメイ。

 ツバメの詠唱が入ったことで完璧な闇の魔導士になったレンは、その手のプレイヤーたちに「カッコイイ……」と絶賛されていることを知らない。


「……と、とりあえずイベントも終わったし、ロマリアでのクエスト報酬をもらいに行きましょうか」

「そうしましょう」

「はいっ!」

「いっそのこと、真っ白な全身装備とかもらえないかしら……」


 中二病キャラからの脱出に、全部白の装備にすることで何とかならないかと考えるレン。

 それを聞いたメイは「今のままでカッコいいのに」と少し不思議そうにする。

 三人はラフテリアのポータルから、『星屑』の最大都市ロマリアへ。

 プレイヤーが何かと利用することになるこの街の南部は今、緑の廃墟となっている。

 メイの戦いを映像として見せつつ、その跡地を数日間そのままで残しておく辺り、やはり王都崩壊を防がれた運営は『野生児と獣の王』という最高の素材をプッシュしていくことにしたようだ。


「あれがメイちゃんの木かぁ」

「でかっ!? あれを戦闘中に生やすスキルってなんだ……?」


【世界樹の分枝】によって生まれた巨木に、集まる視線。

 見慣れた王都に突然現れた光景はやはり、プレイヤーたちの興味を引いている。


「王都の一部は街の機能が戻ってるのに、木に埋もれたままになってて面白いらしいぞ」

「見に行ってみようぜ!」


 そしてイベントが終わり、以前同様の街機能を取り戻した部分も、伸びた木々はそのまま残してある。

 そこは文字通り森の都となっていて、期間限定の観光名所と化しているようだ。

 三人はそんな光景を横目に、王都中央の城内へ。


「おおー、きれいだねぇ」


 ホールには受付が作られており、いつものチュートリアルAI【HMX-18b・ベータ】が待ち受けていた。


「皆さま、お待ちしておりました」

「おひさしぶりですっ」


 深々と頭を下げるベータに、メイも元気に頭を下げる。


「皆さまは王都イベントにて見事な成果を上げられました。こちらはその報酬となります」


 現れた三つの宝箱は、ロマリア王家の紋章入り。

 さっそく三人は、手にしたお宝を確認してみる。


【夜風のローブ】:スキル、従魔騎乗による飛行全般の速度上昇。また飛行中の攻撃スキル使用が可能になる。


「来た! 【浮遊】の効果が変わる装備!」

「カッコいいローブだね! ちょっと大人のお姉さんぽい雰囲気もあるかもっ!」

「どうせなら色を白とかにしてくれてもいいのに……でも、面白くなりそう……!」


 レンは「白なら中二病感が一気に減ってくれるのに……っ」と口にしながらも、うれしそうだ。



【エアリアル】:跳躍中・落下時に、乱舞を始めとした『接地』していることが条件のスキルを使用できる。



「滞空時に【四連剣舞】を使うことが可能になるということでしょうか」

「いいじゃない! それに……接地していることが条件のスキルってことは、攻撃系以外も使える可能性があるわ」


 また戦術の幅が広がりそうなスキルブックに、ツバメも深くうなずく。


「メイさんの報酬は、従魔士ギルド長から直々に預かってきたものとなります」

「いよいよメイさんですね。果たして何が入っているのでしょうか」

「レンちゃんみたいなカッコいい装備、スキル、アイテムをお願いしますっ! 大人のお姉さん感をバーン! と出せちゃう感じのものでっ!」



【ゴリラアーム】:固定されていないオブジェクトやモンスター、NPCやプレイヤーをつかんで持ち上げたり、投じることが可能。その飛距離は【腕力】に依存する。



「「「…………」」」


 メイは意気揚々で宝箱を開き、即座に白目をむいた。

 獣の王に認められ、魔獣や動物たちにも好かれるメイを、野生は逃さない。


「ま、まあ、従魔ギルド長からの贈り物だからね……どうしてもこうなるわよ。しかも使い方次第でかなり面白くなりそうなのがまた」

「なんとなく、キングコングを思い出します」

「教会塔につかまったまま、鳥型のモンスターをブンブン振り回すみたいな感じになるのかしら……」


 メイ、王都の教会塔にしがみついて鳥型モンスターを振り回す自分の姿を想像する。


「そ、そんなの野生が強すぎるよぉぉぉぉ――――っ!」


 ここでもしっかりと野生児らしい報酬を受け取ったメイは、思わず叫び声をあげたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る