第338話 運営は逃さない

『星屑』合宿も無事終わり、青山さつきは自宅でくつろいでいた。


「さつき、ちょっといい?」

「なにー?」


 使ったカバンなどを片付けていると、部屋に母やよいがやって来た。


「実はお昼ごろ、連絡があってね」

「連絡?」

「そう、星屑の何とかっていうゲームの運営からって」

「ええっ? な、なんだろう……まさかまた新しいギネス記録が……っ?」


 壁に掛けたギネス認定賞を見て、さつきはゴクリとノドを鳴らす。


「なんでも、幹線駅の前にある大きなディスプレイで宣伝を流すのに、さつきのゲーム内での映像を使いたいって」

「ええっ!?」

「私はさつきが良ければどうぞって言っておいたんだけど……」

「ど、どういうことなんだろう……?」


 宣伝映像といえば、美麗なのはもちろん絵面の格好よさや演出も含めてのものになるはずだ。

 それに自分がどう関わるのか、まるで想像がつかない。

『メイ』がどういう形で話題になっているのかを知らないさつきは、首を傾げる。


「そうそう。説明とか契約の書類と一緒に、雑誌も届いてたわよ」


 そう言って渡されたのは、新刊の広報誌。

 そこには、超大型魔獣戦前の集合写真が表紙として使われていた。


「そっか、こういうことなのかな!」


 皆が集まっている図の中に、自分もいる。

 こういう楽しそうな映像を使うために、映っている人たちに許可を取って回っているのではないか。

 そういうことなら、むしろ喜ばしいくらいだ。

 つばめが広報誌を飾っていたことを思い出して、大きくうなずく。


「そうだ! 放映されるんだったら、それを三人一緒に見に行くのもありだよねっ」


 楽しそうな予感に、さつきはさっそく運営に返信することにした。


『楽しみにしています――――素敵な映像にしてくださいね』



   ◆



「どんな映像になってるのかなぁ……っ」

「楽しみねぇ。メイならどんなシーンをとっても楽しそうなものになると思うけど」

「宣伝映像に映るメイさん……この目にしっかり焼き付けます!」


 つばめは早くも気合十分だ。

 さつきは可憐やつばめと共に、宣伝映像が使われるというホログラムディスプレイを真正面から見られるビルにやって来ていた。


「おもしろそうね」と、同行を買って出た可憐。

「その瞬間の映像を収めなくては!」と、すぐに準備を始めたつばめ。


 三人は、ワクワクしながら宣伝映像の始まりを待つ。

 幹線駅の大型ビルの天辺は巨大なディスプレイになっていて、今日も街行く人たちの視線を集めている。

 予定時間はもう間近。

 いくつかのコマーシャル映像が続き、やがて『星屑』のロゴマークが表示された。


「始まったわ」

「ワクワクします」

「ああーっ、楽しみだなーっ!」


 そして映し出される、『星屑』の宣伝映像。

 その美麗な映像に、さつきたちはもちろん通行中の人々も思わず足を止めて見上げる。


「おおー、きれいだな」

「何の宣伝だ?」


 映し出されたのは、廃墟と化し、木々に覆い尽くされた王都南部。

 ガレキの上には一人の少女、その足元には狐と鹿を足したような小動物。

 巨大な獣の王に向けて、ほほ笑みながら手を伸ばすのは……メイ。


「え、ええ……っ?」


 幻想的な光景と屈託のないメイの笑顔に、ついつい視線を奪われ立ち止まる通行人たち。

 想像をかき立てられる、最高の映像だ。

 ……ただし。

 メイの格好は獣耳に尻尾、裸足にインナー装備で毛皮のマント。

【野生回帰】使用後の、完全な野生児モード。


「ええええええええええ――――――っ!?」


 さつきまさかの事態に、思わず声を上げる。


「映像って、もっとたくさん色んなプレイヤーさんが出てるんじゃないのーっ!?」

「今回のものは王都クエストのエンディングを観察していた運営さんが、あの瞬間のメイさんを見て決めたのだと思います」


 つばめは「私もこの瞬間は完全に見惚れていました」と続ける。


「すげー、めちゃくちゃ可愛いな……あの野生児が活躍するゲームなのかね?」

「そうじゃないかなぁ。帰ったらちょっと遊んでみようぜ」

「ち、ち、違うんですっ」


 通り過ぎて行く二人組の声に、さつきは思わず声を上げる。


「雰囲気すごいな、なんてタイトル?」

「ええと……野生児のフロンティアだったかな?」

「あの野生児ちゃん、なんていう子なんだろう……」


 続く通行人たちも、さっそく興味を持ち出したようだ。


「違いますっ! そもそもわたしは、野生児ではございませ――――んっ!!」


 まだしばらくは表に出ないはずだった超大型クエストを、目玉になるはずだった王都崩壊を起こすことなくクリアされてしまった運営。

 たくましい彼らは、転んでもただでは起きないのだった。

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