第336話 最終日は余裕を持って

 王都最大のクエストを攻略したさつきたち。

 合宿最終日である日曜日は、昼過ぎの時間をのんびりと縁側で過ごしていた。

 持ち込んできたクッキーを頬張るさつきと、用意してもらったお菓子を楽しむ可憐。

 飲み物を持ったつばめが、二人のもとにやってくる。


「ツバメちゃん、ありがとうー!」

「あら、またカフェオレなのね」

「うんっ。素敵なお姉さんはやっぱりコーヒーです!」


 ミルク9割のカフェオレで、さつきは得意気に胸を張る。


「えへへ、どうかなツバメちゃん?」

「はい、間違いなく大人のお姉さんに向けて突き進んでいると思います」

「そうなんですっ」


 うれしそうにカフェオレに口を付けるさつき。

 砂糖多めでも『大人の味』という感覚でいる姿に、可憐はくすくすと笑う。

 王都での争乱が嘘のように穏やかな、昼過ぎの縁側。

 最初は警戒態勢だった白猫も、今ではすっかりさつきの隣でひっくり返ってゴロゴロしている。


「なんか本当に【自然の友達】が現実でも効いてる感じねぇ……」


 さつきも猫たちの頭をなでながらつぶやく。


「ツバメちゃんのお家で合宿、楽しかったねぇ」

「はい、今回もとても楽しい合宿でした」

「いつもと違って旅館みたいな雰囲気もあったし、やっぱり夕食が一緒だったりするのが楽しいのよね。3日間集中して進めたせいか、最後にはこうやってのんびりした時間も取れて……本当にいい時間になったわ」

「…………終わってしまうのが、寂しいです」

「またすぐできるわよ。連休さえあればどのタイミングでだって集まれるんだから。なんだったら数時間、数十分だけだって集まって遊べばいいのよ」

「その通りですっ!」


 大きくうなずくさつきに、つばめはうれしそうに笑う。


「……ところでツバメ」

「はい」

「あの額縁は、あのままいくの?」


 可憐が指さしたのは、つばめ父が購入してきた貴族が肖像画を描かせる時に使うサイズの額。

 そこにはさつきたち三人が、寄り添って眠る構図の写真。

 やはり昨日の昼寝の隙を、つばめ母は逃さなかったようだ。

 その一枚は無数に撮った写真の中から、母、父、兄による三者会議によって選出され、採用の運びとなった。


「ああいう形のものであれば、飾っていてもいいのかもしれないと思いました。今回の合宿の思い出という意味でも」

「メイと仲良く並んでる構図なのを見て、意見をひるがえしたのね」

「…………そ、そういうわけでは」


 やはりつばめ家の面々は、何かと画像や映像にして残したい派のようだ。

 つばめのうろたえように、可憐はニヤニヤする。


「……本当に、普通の格好で寝てて良かったわ」


 かく言う可憐も、ちょっと前まで寝る時に着ていた黒レースのワンピース型パジャマとかを撮られていないのなら問題なし。


「中二病じゃない星城可憐の、証拠写真ね」


 そんな強い精神で、額縁を眺めるのだった。


   ◆


 夕方が来ると、さつきたちは準備をしてつばめ宅の玄関へ。


「もう帰っちゃうのねぇ。本当にあっという間だったわ」


 残念そうに息をつく、つばめ母。

 見送りに来たつばめ父や兄も、名残惜しそうだ。

 そんな二人が連日あれこれ買って帰ってきたために、さつきと可憐の両手は旅行帰りレベルのお土産で一杯になっている。


「お世話になりました」

「ありがとうございましたっ!」


 丁寧に頭を下げる可憐と、それに元気よく続くさつき。


「またいつでも来てね」

「お母さん、カメラを構えたまま口にする言葉ではありません」


 すっかり見慣れたつばめ母子の姿に、もはや笑い合うさつきと可憐。

 二人は並んでつばめ宅の玄関を出た。

 そしてそのまま、瓦屋根の門を出ようとしたところで――。


「あ、あのっ」


 駆け寄ってきたつばめの呼びかけに、さつきと可憐が足を止める。


「遊びに来てくれて、ありがとうござましたっ。楽しそうにしている私を見て皆とてもよろこんでくれました。こんなに賑やかなのは初めてですっ」

「また合宿しましょうね」

「次はどこに行くのか楽しみだよっ! ね、ツバメちゃん!」

「はいっ!」


 大きく手を振り合う三人。

 こうして王都イベント合宿は、終了を迎えた。


   ◆


「毎回のことだけど……」

「どうしたの、レンちゃん」

「あの流れで分かれた数時間後に、三人全員が連絡もなしに王都で再会するって筋金入りよね」

「その通りだと思います」


 帰宅後、合宿の余韻に浸りながらログインした三人。

 見事な再会劇にはもう、笑うしかない。


「せっかくだし、イベント終了までのんびり過ごしましょうっ!」

「それがいいわね」

「はい、そうしましょう!」


 早い再会を果たした三人は、緑の遺跡となった王都を笑いながら駆けていくのだった。

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