第334話 王と王

 巨木となった【世界樹の分枝】

 地に伸びる根はメイの合図一つで地上に突き出し、枝となって葉を付ける。

 放たれる【爆砲】

 地を駆ける衝撃波はしかし、組まれた枝葉の陰に入れば回避可能。

 続く【リーフブレード】も、【世界樹の分枝】から生えた木々の壁を超えることができない。


「突進、来ます!」


 獣の王の脚部に光る紋様。

 巻き起こる爆発を推進力に変え、残りHPが2割ほどしかないツバメ目がけて飛び掛かってくる。


「【加速】【リブースト】!」


 しかし、回避後の硬直を狙われる形でなければ問題なし。

 ツバメはしっかり突進の軌道を外れ、【投擲】で薄くダメージ取る。

 すると獣の王は角から伸びる光の紋様を輝かせ、【拡散光弾】を放ってきた。


「大きくなーれ!」


 突撃で押し潰された枝々がメイの合図一つで立ち上がり、新たな枝と絡み合って壁になる。

 こうして弾ける無数の光弾も、見事に防いでみせた。


「【バンビステップ】!」


 この隙にメイは、獣の王へと駆けていく。

 その足もとに伸びてくる、光の枝。


「【ラビットジャンプ】!」


 これを前方への跳躍でかわすと、今度こそとばかりに獣の王が飛び掛かってきた。

 着地際を狙った攻撃だ。


「【ターザンロープ】!」


 しかしここでメイは、付近に広がる世界樹の枝たちの一つにロープを投じ、自らを大きく引き上げる。

 突撃をかわしたところで手を放し、【アクロバット】で空中回転。


「【ソードバッシュ】!」


 突撃をかわされた獣の王は、迫る衝撃波を必死にかわしにいくが、身体の側部を打たれて体勢を崩した。


「【加速】【リブースト】【アクアエッジ】【四連剣舞】!」

「【魔砲術】【フレアバースト】!」


 即座の追撃で地を転がす。

 すると3割弱ほどのダメージを受けた獣の王は、体勢を立て直すのと同時に角から続く紋様を輝かせた。


「光弾っ!」


【拡散光弾】に備えて、メイは近くの枝裏に向かうが――。


「…………あれ?」


 光弾は現れない。


「メイ! 上よっ!!」


 後方からレンが叫ぶ。

 メイが視線を上げると、そこには巨大な透明の球体。

 直径15メートルに及ぶ水球が、メイ目がけて落下してきていた。


「え、ええええええ――――っ!」


 メイにダメージを与えるには『虚を突く』形が一番。

 まさかの巨大水球直撃で3割弱のダメージを受け、さらに流水によって転倒を取られた。

【ウォータークラウン】は、物理ダメージに加えて足止めまで可能にする強スキル。さらに。


「ッ!?」


 ここまで見せてこなかった、尾による攻撃が迫る。


「【ラビットジャンプ】!」


 メイは直上への跳躍でこれを回避しにいく。

 そして見事に尾自体はかわしたものの、その軌跡上に遅れて生まれる無数の光芒が爆発。


「うわああああああ――――っ!」

 弾き飛ばされて、さらに2割近いダメージを受けた。


「【加速】【紫電】!」


 尾撃の振りの大きさを見たツバメは、この隙を突きにいく。

 短いながらも強制停止を奪うと、即座にレンが後に続く。


「高速【連続魔法】【誘導弾】【フレアアロー】!」


 ビームのように駆ける、炎の矢が直撃。

 するとここで獣の王は目標をレンに変え【爆砲】を放ってきた。

 これを世界樹の枝に隠れてやり過ごすと、獣の王は【波紋突進】へと切り替える。

 しかしレンは動かず、しっかり待って杖を掲げる。


「発動!」


【設置魔法】が炎を噴き、突進を強制停止。


「メイ! ここであれをお願いっ!」

「りょうかいですっ!」


 カウンターをもらい、再び体勢を崩した獣の王。


「【蓄食】!」


 立ち上がったメイは木陰に入ってバナナを取り出し、一気に【腕力】を向上。


「【装備変更】!」


 その手に【大地の石斧】を持って走り出す。


「【ラビットジャンプ】【アクロバット】」


 そして大きな跳躍から、空中で一回転。


「いきますっ!」


 ようやく体勢を立て直した獣の王の足元に、【大地の石斧】を叩きつける。


「【地裂撃】ぃぃぃぃ――っ!!」


 一瞬で、地面に巨大なヒビが走る。

 続けてドーン! という轟音と共に巻き起こった地割れは深く、底をうかがうこともできない。

 崩落に巻き込まれた獣の王は、派手に転倒した。


「地面が……割れた!?」


 もはや天災のような豪快さを誇る一撃に、参加者たちは我が目を疑う。

 しかし、これだけでは終わらない。

【蓄食】によって腕力上げのバナナを10個まとめて使ったメイは、【腕力】に威力を依存する【大地の石斧】の力を、さらに開放していく。


「からの――――【グレート・キャニオン】だああああ――――っ!!」


 崩落に沈んだ獣の王に、容赦なく襲い掛かる追撃。

 さらに大きな地響きが鳴り、次の瞬間には天高く巨大な岩盤が突き上がる。

 岩石の巨塔に突き上げられ宙を舞った獣の王は、長い滞空の後そのまま地面に叩きつけられた。


「…………なんだ、あれ」


 ぶつかり、砕け、消えていく岩盤。

 なんとこの一撃で、獣の王のHPが5割近くも消し飛ばされていた。


「野性の王同士の戦い、規模が半端ねえ……」

「グレートキャニオンとんでもねえな……腰が抜けるかと思った」


 目まぐるしい攻守の切り替わり、そして放つスキルのすさまじさに呆然とする参加者たち。

 獣の王の残りHPは3割ほど。


「……ここからが最後の山場ね」


 ゆっくり立ち上がった獣の王は、恐ろしい咆哮と共に赤眼を強烈に輝かせた。

 角から広がる紋様も、さらにその光量を増していく。


「きますっ!」


 獣の王が、両前足を高く振り上げた。

 そのまま地面に叩きつけると、足もとからあふれ出す鉄砲水。


「「「ッ!?」」」


 スキル【激流】の使用で、波打つ猛烈な濁流が爆発的な勢いで迫り来る。


「【浮遊】っ!」

「【跳躍】!」

「【ラビットジャンプ】!」


 これをとっさに上方へ逃げることで回避したメイたちだが、獣の王は止まらない。

 ここで再び、光弾の雨を降らせる。


「くっ!!」


 ツバメはどうにかこれをかわすも、着地に失敗。

 水に流され樹にぶつかり、衝突ダメージによって残りHPが1割を切る。

 さらに角を振り回しながら迫る獣の王。

 光の紋様の範囲は広く、しかも軌道が読みにくい。


「きゃあっ!」


 樹上に回避していたレンも、紋様がかすめて落下。

 衝突ダメージも含めて3割強のHPが奪われた。


「レンちゃん、ツバメちゃん、大丈夫!?」


 ようやく【激流】の効果が消えたものの、ツバメとレンは窮地に追い込まれてしまう。


「……メイ。いざとなったら私の死に戻る瞬間を狙って攻撃して」

「私の時も、同様の形でお願いします」


 いよいよ危うい状態のレンとツバメは、その最後をメイに託すことにした。

 獣の王は、それだけの強ボスだ。


「……うん、わかった」


 メイは静かに応えて「よしっ」と気合を入れ直す。


「でも、みんな一緒がいい。だから…………全力全開でいきますっ!」


 そして、覚悟を決めた。


「【装備変更】! 【裸足の女神】っ!」


 装備品のブーツが消え、【敏捷】と移動スキルの速度を上昇。

 裸足になったメイは、さらにここでとっておきを使う。


「――――【野生回帰】」


 防具が全て外れ、ショートパンツにタンクトップだけという『インナー』状態になったメイ。

【耐久】を下げた代わりに【腕力】【敏捷】【技量】を大幅アップ。

 これで残っているのは耳と尻尾、剣のみだ。


「皆で一緒に獣の王様を助けて、最高の合宿にしようね」


 そう言って獣の王に、ゆっくり向き直ると――。


「【バンビステップ】」


 目を疑うほどの速さで駆け出した。

 獣の王はすさまじい勢いで駆けてくるメイに、【爆砲】を連発する。しかし。

 その圧倒的な足の運びで、その全てを難なくかわす。

 続くのは全体攻撃【リーフブレード】


「がおおおおおお――――つ!!」


 これを【蓄食】【雄たけび】一発で、あっさり消滅させる。

 一気に距離を詰めたメイは、踏みつけを余裕でかわして剣を叩き込んだ。

 続く【光の枝】も、置き去りにする高速ステップで斬撃を続ける。

 追い詰められていく獣の王。


「ッ!」


 初めてみせる、大きく跳び下がりながらの尾撃。

 これを側転一つで回避して、再び駆け出すメイ。

 一方長い距離を取った獣の王は、咆哮と共に前足を強く地面に叩き込んだ。

 えぐり込むような一撃は、そのまま地面に刺さりヒビ割れを起こす。

 そこに見えたのは、赤熱の輝き。

 獣の王は、吹き上がった溶岩に【爆砲】を放つ。

 すると風が燃え上がり、【灼熱砲】となってメイに襲い掛かる。


「【装備変更】っ!」


 しかし駆けるメイの上半身を包んだ【王者のマント】が、炎を難なく打ち払う。

 砂煙をあげながら迫るメイ。

 獣の王はここで再び両足を上げ、強烈な紋様の輝きと共に地面を踏みつける。

 押し寄せるのは、さらに威力を上げた【激蒼流】

 一度目のものよりさらに範囲の広い、獣の王の必殺スキルだ。

 しかしメイにとっては、二度目の『水流』攻撃。


「【アメンボステップ】!」


 足を止めることなく、そのうえを駆けていく。

 すると獣の王はさらに、角から展開する光の紋様を空一杯にまで広げた。

 無数に生まれる光芒が、一斉に瞬き出す。

【光星乱舞】

 それは本来であれば、百人を超えるプレイヤーに向けて使うような最終奥義。

 たった一人に放たれる無数の光弾は、目を開けていられないほどにまばゆい。

 もはや回避など絶対にありえないレベルの最終奥義を前に、メイは――。


「それなら……【四足歩行】だああああ――ッ!!」


 最後のカードを切った。

 もはや目視するのも難しいほどの加速を得たメイはなんと、飛来する光弾の雨を残像が見えるほどの身のこなしでかわしていく。

 まさかの完全回避で、ダメージはゼロ。


「【ラビットジャンプ】!」


 全ての光弾をかわしたところで宙に舞う。

 これを獣の王は、光の紋様を広げた角で叩き落しにいくが――。


「【ターザンロープ】!」


 メイはなんと、その角に【ターザンロープ】を引っ掛けた。


「ア――アア――ッ!!」


 そしてそのまま、角の振り回しに合わせて大回転。

 その回転が、空へ向かうタイミングに来たところで手を放す。

 遠心力によって街を見下ろす高さまで舞い上がったメイは、【アクロバット】で一回転。

 その手に剣を構えると――。


「【装備変更】っ!」


 耳を【猫】から【狐】に変更。


「いっくよォォォォ――――ッ!!」


 獣の王の頭部目がけて【蒼樹の白剣】を叩き込む!


「――――【ソードバッシュ】【エクスプロード】だああああああ――――っ!!」


 駆け抜けていく衝撃波は木々を揺らし、参加者たちを転ばせる。

 王都中央部にまで風を届かせた圧倒的威力の一撃に、吹き飛ぶHPゲージ。

 遅れて巻き上がった青炎が舞い落ちてくる中、獣の王はその巨体を大きく一度揺らがせると、そのまま倒れ伏した。

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