第331話 打倒ベヒモス

 クマとツバメの連携によって、ベヒモスのHPは残り半分。


「グオオオオオオ――――ッ!!」


 怒りの咆哮は、風を巻き起こす。


「うわっ!」

「視界が……!」


 砂煙があがり、視界を失われた。

 ここでメイはすぐに、意識を集中。


「…………ツバメちゃん、飛び掛かりだよっ!」


 特有の強い踏み切り音、その直後に突然無音が始まるのは、相手が空中に跳んだから。


「【バンビステップ】!」

「【加速】【リブースト】!」


 イチかバチかの移動スキル使用か、防御スキルでの対応。

 本来求められる形ではなく、前に見た飛び掛かりを思い出し、メイとツバメはあえて前方へ高速移動。

 鳴り響く着地音と共に、爆風が砂煙を晴らす。


「ありがとうございますっ」

「いえいえっ!」


 メイの早い見切りによって今回も飛び掛かりの下を潜り抜けた二人は、即座に振り返り――。


「【投擲】!」

「【投石】!」


 そんなささやかな反撃を決めて、軽く片手でハイタッチ。


「ガアアアアアアアア――――ッ!!」


 すると残りHPが半分を切ったベヒモスは、いよいよ全力で暴れ出す。

 砂煙をあげながら、猛然とメイたちのもとに駆けつけそのまま喰らい付き。


「【ラビットジャンプ】!」

「【跳躍】!」


 これをジャンプ一つでかわしたメイたちに、尾の振り払いを放つ。


「これは……もう一回ジャンプっ!」

「しゃ、しゃがみで!」


 尾の振りは斜めに切るような軌道を取り、回避前にどう避けるかの判断が必要だった。

 ベヒモスはそのまま一回転。

 振り返り様に開いた口から放たれるのは【衝撃砲】


「うあわーっ!」

「なんという、めちゃくちゃな動きですかっ!」


 吹き荒れる衝撃の嵐。

 それでもセンチ単位の目測でかわすメイに対し、ツバメはわずかにかすめてダメージを取られる。


「ちょっ、こっちまで来るの!?」


 衝撃砲の範囲は長く、レンも慌てて流れ弾から逃がれる。


「本当にやっかいねえっ!」


 あの暴れ様では、さすがに近寄って魔法攻撃とはいかない。

 攻撃力を考えれば、すぐに死に戻りさせられてしまうのが関の山だ。

 ここでさらにベヒモスは、付近の半壊住居に喰らいつく。


「「ッ!?」」


 一斉に吐き出されたガレキたちは、弾丸のような勢いで飛んでくる。


「【バンビステップ】!」

「【加速】!」


 大きさも形も違うガレキは、回避がとても難しい。


「っ!」


 ツバメの肩をかすめるブロック。

 ダメージこそ『衝突』で控えめの判定だが、大きく体勢を崩される。

 そこにすぐさま、ベヒモスは尾を叩きつけにいく。


「ツバメちゃんっ!」


 そんなツバメのもとに駆け込み、メイが抱きかかえて回避。


「ありがとうございます……っ」

「いえいえっ!」


 うれしそうにほほ笑むツバメ。

 しかしわずか数センチ横にめり込んだベヒモスの尾を見て、思わず二人は顔を見合わせた。


「……暴れ放題で次の攻撃が読めないから、明確に隙と分かるポイントが少ないし、攻撃力が高いから踏み出しにくい。なるほど、時間を稼ぐためのボスって感じね」

「衝撃波、きます!」

「【ラビットジャンプ】!」


 連続で吐き出された【衝撃砲】をかわす、メイとツバメ。


「残ってる『一発硬直』スキルは【雄たけび】になるけど、もう【紫電】で続くことはできないし、遠距離魔法は吸収されちゃう……ん?」


 蚊帳の外になりつつあるレンは、ここで一つの作戦を思いつく。


「……でも。前もって宣言しておけばどうかしら」


 そう決めてレンは、回避に専念しているメイたちに向けて叫ぶ。


「メイ、ツバメ、魔法を使うわ! 軌道を確認しておいて!」

「それでは回復されてしまいませんか?」

「いいの! そいつに『食べさせる』ために使うのよ!」

「そういうことですか……っ!」


 すぐに意図を理解したツバメ。


「りょうかいですっ!」


 レンなら何か意図があるのだろうと、とにかく乗っかるメイ。

 ベヒモスがその長い尾を叩きつけにくる。

 それをメイとツバメが、左右に分かれて回避したところで――。


「【魔砲術】【フレアストライク】!」


 レンは炎の砲弾でベヒモスを狙い撃った。

 もちろんベヒモスは、「これを待っていた」とばかりに喰らいつく。

 そして炎を飲み込み、HPを回復させた。


「今ですっ!」


 だがこれを待っていたのはツバメも同じ。

『食べる』ための動作中は、少なくとも攻撃が止まる。

 レンの狙いは、この短い時間を使った接近だった。


「【ヴェノム・エンチャント】【疾風迅雷】」


 自身の攻撃に毒性を付与し、高速移動で距離を詰める。


「【加速】【加速】【加速】」


 連続加速で一気にベヒモスの後ろ足に付けたツバメはダメージ量を気にせず、とにかく高速移動斬りを連発する。


「【加速】、【加速】、【加速】【加速】【加速】――――っ!」


 二刀流を使い、ベヒモスを前後左右に翻弄するような形で移動。

 するとベヒモスは、ツバメを狙った足の振り降ろしを放つ。


「【リブースト】【跳躍】!」


 ツバメは即座に軌道を変えることでこれを回避し、空中へ舞い上がる。


「【連続投擲】!」


 そこから一気にブレードを連射、毒性を爆発させる。

 ベヒモスは体勢を崩して倒れ込んだ。


「間に合いました! メイさんお願いしますっ!」

「おまかせくださいっ! それでは――――よろしくお願い申し上げますっ!」


 メイが右手を突き上げると、描かれる魔法陣。

 そこから飛び出してきた巨大なクジラが、体勢を崩したままのベヒモスに激突。

 大きな波を引き起こしたところで――。


「【コンセントレイト】【フリーズブラスト】!」


 魔力をためていたレンが、杖を【ワンド・オブ・ダークシャーマン】に変えて氷嵐の一撃を放つ。

 波をかぶったベヒモスの足元が一斉に氷結し、身動きを不可能にした。


「……これで決まりね」

「はい、魔法スキルを食べる瞬間を『隙』と見るというのは驚きました」

「少し回復させちゃったし、メイやツバメの超加速頼みの作戦だったけど」

「それ以上のダメージが奪えるのなら、問題ありません」


 そう言って二人が、笑い合った瞬間。


「いきますっ!」


 メイは大空高く、ケツァールの背を蹴った。

 凍結から抜け出そうと、暴れ出すベヒモス。

 張られた氷が音を立てて割れ始め、ようやく身動きが取れるようになる。


「いっくよぉぉぉぉ――――っ!」


 しかし、回避はもう間に合わない。

 メイは猛スピードで落下してくると――。


「必殺の――っ! 【ダイビング・ソードバッシュ】だああああああ――――っ!!」


 吹き荒れる、強烈な衝撃波。

 付近の残骸が吹き飛び、木々が大きく揺れる。

 巻き起こった風は、森の中で戦う参加者たちのもとにまで届く。


「やっぱり、この光景は何度見ても気持ちいいわね」

「はいっ」


 必殺の一撃はベヒモスのHPゲージを吹き飛ばし、見事、元老院最終兵器を打倒することに成功。

 目の色が戻ったベヒモスは、おとなしくその場に倒れ伏した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る