第330話 王都の最終兵器

 王都南部を埋め尽くした木々のおかげで、敵兵は分散。

 距離を詰められた後衛兵士は、身軽な近接職に倒される。

 大剣が武器の騎士も、不利な地形に苦しんでいるところを討たれていく。

 これによってレベルの高いメンバーたちは、スムーズに巨竜のもとへたどり着くことができた。


「さあ……いくぞ」


 後衛も含め、たどり着いたプレイヤーは数十人に及ぶ。

 ゆっくりと、しかし確かに進行している二足型の巨竜。

 やって来た剣士たちをその赤い目で一瞥すると、戦いの始まりを告げる咆哮をあげた。


「ブレスだ!」


 吐き出された猛火は範囲も広く、足の遅い前衛には厳しい攻撃。


「「【ウィンドウォール】!」」


 すぐに後衛組がブレス用の風壁を張って、これを防ぐ。

 すると巨竜はこちらに背を向けた。


「次は尻尾でくるぞ!!」


 振り降ろされた尾を、前衛は横への移動で回避する。

 だがこれも早い警告によって、直撃を回避した。


「【六花閃】!」

「【剣閃疾駆】!」

「【神気衝】!」


 尾が来ると知り、反撃狙いの前衛は距離を詰めていた。

 一斉攻撃でダメージを取り、生まれた隙に後衛が続く。


「「「【アイスエッジ】!」」」


 連携でダメージを与えたところで、巨竜は体勢を立て直す。


「いい感じだな」

「来る! また尻尾だ!」

「横……っ!?」


 立てた尾を見て『縦軌道』を予想した面々は、これに虚を突かれた。

 砂煙をあげ、木々をなぎ倒しながら放たれた一撃は攻撃判定が長い。


「マズいっ!」


 前衛は防御や跳躍でどうにか対応するが、後衛に間に合わないものが出始める。


「わあああああ――――っ!」


 回避に失敗した前衛含め、20人ほどのプレイヤーが弾かれ高いダメージを喰らった。

 巨竜は攻撃を続ける。

 天に向けて吐き出した炎塊は、紅蓮の輝きと共に弾けて降り注ぐ。


「お、おおおおお――ッ!!」


 容赦なく降ってくる炎の塊は、次々にプレイヤーたちにぶつかりダメージを奪う。

 さらに当たらなかった炎塊も地上に落ちて、踏めばHPを削る炎と化した。


「【烈火剣】!」

「【雪月烈花】!」


 燃え盛る剣と、舞う氷片の刃。

 この間に上手く巨竜の側方に回り込んだ前衛組が、ダメージを与える。


「来る! また尻尾だ!」


 すると巨竜は、再び尻尾を縦軌道で振り降ろしにきた。

 機動力のあるプレイヤーたちは、しっかり見定めてから回避を成功させ、反撃に出ようとするが――。


「「ぐああああ――――ッ!!」」


 地に叩きつけられた尾が突然赤熱し、爆炎を上げた。

 二段階の範囲攻撃に、十人ほどの前衛が吹きばされる。


「これ……普通にめちゃくちゃ強いぞ」


 巨竜の攻撃はシンプル。

 だが、単純だからこそ圧倒的なまでに強力。


「……作戦を変更しよう。ムリに打倒を狙うより、守りをしっかりして足止めに注力する」

「そうだな……情けない話だけど、せめてメイちゃんたちがあっちのボスを倒すまでは耐えよう」


 ここで巨竜担当班は戦略を変更し、『耐え抜く』戦いに挑むことにした。



 ゆっくりと動き出した巨大な魔獣は、長い二本の角と尾を付けたサイのような姿をしている。

 全身を包む筋肉、黒い肌に鋭く光る赤眼が恐ろしい。

 メイとツバメは、その進路に立ちふさがるようにして並ぶ。


「さて、どんなタイプの魔獣かしら」


 前衛の二人からは少し離れ、樹の上に陣取ったレンは見慣れない魔獣の姿に注目する。

 すると魔獣は、二人の前衛を見て動き出した。


「「ッ!!」」


 初手はその前足による叩きつけ。


「【加速】」

「【バンビステップ】!」


 これをかわすとすぐに、角で振り払いを仕掛けてきた。


「【跳躍】」

「【ラビットジャンプ】」


 さらに着地際を狙う、尾の払い。

 これをしゃがむことでかわしたメイたちは、すぐに距離を詰めにいく。


「飛び掛かりがくるよっ! 【バンビステップ】!」

「はいっ! 【加速】【リブースト】!」


 大迫力の飛び掛かりを、二人は真正面に走ることで身体の下を潜り抜ける。

 そしてすぐさま振り返り、反撃を狙いに行くが――。


「速い……っ」


 その切り返しの速さに驚く。

 短い跳躍から叩きつけにくる尾。

 これを二人は左右に分かれることで回避。

 すると魔獣は、そのまま前足を地面に振り降ろした。

 地面から吹き上がる衝撃波。


「っ! 【跳躍】!」

「うわわっ! 【ラビットジャンプ】!」


 これを二人は、左右へ跳ぶことで回避。

 着地と同時に今度こそと、距離を詰めに行くが――。


「「ッ!!」」


 すぐにまた尾を振り払い、メイたちは慌てて体勢を低くすることでかわす。


「【投擲】!」


 尾撃後の隙に距離を詰めるのは間に合わないと悟ったツバメはブレードを投じ、ようやくHPを薄く削った。


「す、すごい勢いだね」


 もはや『暴れ』と言えるくらいの戦い方に、メイも感嘆の息をつく。


「とにかく体勢の直しが早いです。距離を詰めてからの反撃ではなかなか間に合いません」


 大きな身体による範囲の広い攻撃を、規則性もなく、疲れ知らずで繰り出し続ける。

『発狂』状態が続いてるかのような戦い方に、息をつくツバメ。


「……なるほど、とにかく暴れまくるタイプみたいね。でも、後衛狙いをしないのであればいい的だわ!」


 メイたちの戦闘を見て、さっそく杖を構えるレン。


「【魔砲術】【誘導弾】【フレアスバースト】!」


 敵の巨体は攻撃時の範囲の広さこそ恐ろしいが、攻撃が当たりやすいというデメリットも持つ。

【銀閃の杖】から放たれた爆炎は、狙い通り魔獣のもとに一直線に飛んで行く。


「いける!」


 直撃を確信するレン。

 すると魔獣はおもむろに振り返り、口を大きく開いた。


「……っ!?」


 レンは驚愕する。

 なんと魔獣は【フレアバースト】に喰らい付き、そのまま飲み込んでしまった。しかも。


「吸収!?」


 HPまで回復していた。


「……なるほどね、この魔獣は正体は『ベヒモス』あたりかしら」


 レンはその見た目と特性から、敵の正体を言い当てる。


「魔力を食べるっていうのは、暴飲暴食の設定から持ってきてるのね」


 遠距離からの【魔術砲】による攻撃は、少し厳しいようだ。

 ベヒモスは駆ける。

 付近の木をくわえて強引に引き抜くと、メイたちに特攻。

 そのまま樹を振り回す。


「うわわわわわっ!」


 これをメイに避けられるや否や尾を振り回し、見つけたツバメに前足を振り降ろす。


「ッ! 【加速】【リブースト】!」


 慌てて後方へと回避。

 吹き上がる衝撃波が、前髪を揺らしていく。

 さらにベヒモスは、くわえていた樹を追い打ちとばかりに投げつけてきた。

 まさに暴れまくりだ。


「うわわっ! 【ラビットジャンプ】!」

「メイ、一応離れた位置からの【ソードバッシュ】も確認させて!」

「りょうかいですっ! 【ソードバッシュ】!」


 空中から放たれた衝撃波が駆け抜ける。

 これに対してまたも大きく口を開けたベヒモスは、そのまま衝撃波を飲み込んだ。


「中・遠距離からの無形攻撃は、回復されてしまうと考えていいわね」


 接近では暴れ放題で隙が少ない上に、離れて攻撃すれば吸収。


「本来は弓術師辺りが活きるところなんでしょうけど……」


 レンは笑う。


「でも、こっちにだってそんなの関係ない攻撃がいくらでもあるわ」


 恐ろしい攻撃性と、隙の少なさが武器のベヒモス。

 だが、メイとツバメの前衛はそれを苦にしない。


「【装備変更】【バンビステップ】!」


 メイは【鹿角】に頭装備を変更して、移動スキルの効果を向上。

 ベヒモスの体当たりをかわし、振り返り際の尾撃をしゃがんでかわす。

 続く剛腕の振り降ろしを二歩の移動で回避して、角の払いはバックステップで範囲外へ。

 メイが回避に集中すれば、それは自然と陽動になる。


「【加速】【リブースト】――――【紫電】」


 ベヒモスの注意がメイに向いた隙に、同一方向への最速移動で距離を詰めたツバメが動きを止める。


「【モンキークライム】」


 もちろんこの隙をメイは逃さない。

 ベヒモスの前足から肩、そして側頭部へと一気に駆け上がっていく。


「【ラビットジャンプ】!」


 そしてそのまま跳躍し、空中で剣を掲げた。


「せーのっ! 【フルスイング】っ!!」


 砂煙を上げて転がるベヒモス。

 そのHPを、一撃で3割ほど削り取ってみせた。

 すると怒りの一吠えと共に、ベヒモスは猛然と走り出す。

 繰り出すのは、二本の長い角による突進だ。


「とっつげきー!」


 メイは真正面から突撃パリィを決め、隙を作り出すと――。


「からの……とっつげきー!」


 続けざまの【突撃】で弾き飛ばした。

 その先にあるのは、魔法陣。


「中遠距離以外の攻撃法は、私にもあるのよね……発動!」


【設置魔法】【フレアバースト】が盛大に火を噴き、大きく吹き飛ばされるベヒモス。

 追撃は止まらない。

 突き上げたメイの右手に輝くのは、召喚の指輪。


「よろしくお願いいたしまーす!」


 魔法陣から現れる、兵士姿の巨クマ。

 手に持った槍を掲げ、ベヒモスに向けて走り出す。


「ツバメちゃん」

「はい、行きます! 【疾風迅雷】【加速】!」


 ここでなんと、走り出したクマをツバメが連続【加速】で追いかけていく。

 そのまま親グマに追いついたツバメは【壁走り】でクマの背を駆け上がり、しがみついていた子グマの頭をなで、肩口から【跳躍】


「【アクアエッジ】!」


 水刃でベヒモスを切り裂いた。

 それに続く形で、親グマが跳躍。

 手にした槍でしっかりベヒモスに狙いをつけ、大きく振りかぶった上で槍を放棄。

 そのまま【グレート・ベアクロー】を叩き込む。

 強烈な一撃で、大きく地を跳ねたベヒモス。

 そしてツバメはここで、バウンドの落下際を狙い――。


「【雷光閃火】!」


 光の軌跡を足元に描きながら進む。

 刺突スキルを的確に決め、ベヒモスは火花をまき散らして爆発。


「やったー! ツバメちゃんすごい!」

「うまくいきました……」


 クマとツバメの豪快なコンビネーションで、ベヒモスのHPは約半分ほどになった。

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