第329話 始まる戦い
「……我らの最強兵器をもって、獣どもを蹴散らすんだ!」
王都兵や元老院兵を引きつれやって来た元老院副長は、呼び出した二体の超大型魔獣を獣の王へとけしかける。
「あんなものを差し向けたら、勝とうが負けようが魔獣や動物たちはもう……王都どころか、この世界が変わってしまう。頼む、あの魔物たちを止めてくれ!」
懇願する従魔ギルド長。
「邪魔者は全て排除しろ」
しかし集まったたくさんのプレイヤーたちの前に、立ちはだかるように布陣する王都兵たち。
獣の王たちが王都に着く前に、大ボス二体を倒せというこのクエスト。
そこに王都兵や元老院兵が入り乱れ、足止めにくるようだ。
「二手に分かれて戦うのが基本だろうけど……どうしたものかね」
「そういうことなら、私たちは未確認の超大型に集中しましょうか」
「よし、俺たちは王都兵の掃討と巨竜の相手をしよう」
「一口に『イベント参加者』って言っても、数は多いしレベルもまちまちだからな。その方が分かりやすいだろう」
こうして分担が決定。
クエスト参加者たちも、各々の仕事を把握する。
「前衛後衛での戦いを忘れるな! 慣れてないものは王都兵、ボス慣れしているプレイヤーは巨竜に向かうんだ!」
「「「おう!」」」
あがる気迫の声に、自然と身体が動き出す。
イベント参加者たちは、待ち構える王都兵に向けて駆け出した。
「いくぞ! 【六花閃】!」
「【剣閃疾駆】!」
「「「ファイアスプレッド」!」」」
前衛が先行し、後衛が魔法攻撃で続く。
「いいぞ! このまま巨竜の方へ!」
基本通りの連携で王都兵たちを蹴散らし、走り出したところで――。
「な、なんだこいつら!?」
金の装飾が入った、重装鎧の兵士たちがやって来た。
初登場の【王都騎士】たちは、大剣を構えると一斉に特攻してくる。
「【ブレードローラー】」
滑るような移動で接近。
速い回転で両手剣を振り回し、冒険者たちを弾き飛ばす。
「「「うわああああ――っ!!」」」
「【空断ち】!」
この隙に侍が居合の様な剣技でダメージを奪いに行くが、防御力も高くダメージは思うように入らない。
「道を作りますっ!」
すると、そこに駆け込んできたのはメイ。
「【ソードバッシュ】!」
駆け抜ける衝撃波が、一撃で百体を超える王都兵を吹き飛ばす。
これには王都騎士も耐えられず、砂煙をあげて転がった。
「さすが【ソードバッシュ】……っ!」
拓かれた道に、参加者たちが駆けこんで行く。
しかし次の瞬間――。
「ッ!!」
各所から一斉に放たれる矢と魔法の嵐。
回避が難しい密度の遠距離攻撃が、次々に飛来する。
「やっかいな連携だな……っ」
「おいおい、威力も結構高えぞ!」
「前衛が硬い上に、後衛もこんな一斉に範囲攻撃を仕掛けてくるなんてありかよ!」
地下の時点から言われていた難易度の高さは、ここにきてさらにその厳しさを増していた。
元老院兵の【雷光突き】を必死にかわしたところに、上空から迫る炎の矢。
「ぐああっ!」
これを喰らった戦士が、唇を噛む。
「矢はもちろん、魔法も遠距離のものばかり。そのうえ一斉に攻撃を仕掛けてくるのね……」
それは、敵に一方的な範囲攻撃をされるという最悪の展開だ。
メイたちが未確認の超大型のもとに向かうだけなら可能だが、このままでは王都兵の数が減らず、巨竜の進行を許したままになってしまう。
制限時間のある中、それは避けたいところだ。
「……メイ、全部使うつもりでいいと思う。『散布』お願いできる?」
「おまかせくださいっ! 【装備変更】【バンビステップ】!」
ここでメイは、頭装備を【鹿角】に変えて走り出す。
「【モンキークライム】! 【ラビットジャンプ】!」
王都の旧住宅地。
半壊の建物が乱雑に並ぶ南部地帯を、メイは猛スピードで飛び回る。
その手には、植物学者からもらった【豊樹の種】
こちらは一粒で建物一軒を飲み込むほどの木々を生やす、変わり種のアイテムだ。
「それっ、それっ、それそれそれーっ!」
もらえるだけもらってきた種を、とにかく次々に放り投げていく。
投じた物の飛距離は【腕力】に依存するため、遠方にまでしっかり届く。
「……種? これ、もしかして……」
それを見て、ヤマトのイベントに参加した者、その後の街並みを見た者が気づき出す。
大量の種を、一気に撒き終えたメイ。
そのまま付近の一番高い建物の上に立つと、手を上げて「いきますっ!」と元気に宣言。
「大きくなーれっ!」
【密林の巫女】を発動した。
【豊樹の種】から、一斉に伸びていく数多の木々。
「お、おおお……」
「おおおおおおおお――――っ!!」
参加者たちが、思わず驚きの声を上げる。
広がる緑は一気に街を包み込み、ロマリア南部を『森の街』へと変えてしまった。
そしてすぐに、参加者たちがその意図に気づく。
「そういうことか……っ!」
生い茂った木々と伸びた枝は、建物すら覆い隠してしまっている。
これでは、一部の魔法や矢のような遠距離攻撃はほとんど意味をなさない。さらに――。
「【ブレードローラー】」
この場において最もやっかいな王都騎士。
大きな剣で放つスキルの数々は、整然とした場所でなければ威力を失うものが多い。
案の定、木の幹に弾かれる騎士の剣。
「ハアアアアアア――ッ!!」
その隙を突き、敵の遠距離攻撃から解放された武闘家が懐に飛び込む。
「【神気衝】!」
そして鎧を突き抜けていく波動で、大ダメージを奪った。
「いけサラマンダー! 【マグマバイト】!」
ここに従魔士の小型火竜が、炎の噛みつき攻撃を叩き込んで快勝。
並んで戦っていた兵士たちも、木々が生えたことによって陣形を崩すことになる。
こうしてレベルが高くない参加者たちも一対一の状況を作れるようになり、一方的な敗北がなくなった。
誰もが、王都兵相手に立ち回れるようになる。
「これだよ、メイちゃんたちが中心になる戦いはこれなんだよ!」
不利なことこの上なかった戦いを、一瞬で変えてしまうメイの力。
舞台の急な変化に、参加者たちの意気も大きく上がる。
「いくぞ! 俺たちは巨竜だ! 遠距離からの足止めはなくなった。一気に突き進め!」
「「「おおーっ!!」」」
中でもレベルの高い者たちは、率先して巨竜へと足を進めていく。
「【モンキークライム】!」
「【加速】【跳躍】!」
メイたちは、もう一体の超大型へと向かう。
メイは森林化によってむしろ移動が早くなり、ツバメも木々を越える移動は慣れている。
もちろん、二人を追うレンは【浮遊】で最短距離を行く。
もはや王都兵たちでは、三人を捕まえることはできない。
偶然、着地際を捉えた王都騎士たちも――。
「【ソードバッシュ】!」
駆け抜ける衝撃波で吹き飛ばされ。
「高速魔法【誘導弾】【フレアアロー】!」
曲がる高速の炎矢に焼かれ、運良く生き残った騎士も――。
「【アサシンピアス】」
樹上から落下してきたツバメの一撃でとどめを刺される。
木々に埋もれた王都南部。
もはや王都兵たちでは、メイたちを足止めすることもできない。
二手に分かれた王の子返還チームは、こうして互いの目標に向けて動き出した。
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