第328話 大自然と人間と
一緒に作った夕食を終え、『星屑』へと帰還したメイたち。
一応最後に、スキルやアイテムの確認をしておく。
それから従魔ギルドにやってくると、すでにたくさんのイベント参加者たちが集まっていた。
「王都の地下クエストもいよいよ終局といった感じですね。このまま最後まで駆け抜けましょう」
「もちろんよ」
「はいっ!」
気合を入れるツバメに、レンとメイが応える。
「この子を『獣の王』に返す。あとは判断を待つだけだ」
従魔ギルドのマスターはそう言って、南方にある半壊の教会塔へと向かう。
「魔獣の群れと和解して終わるのか、それとも何かが起きるのか……緊張の瞬間ね」
「はい、どんな展開になるのでしょうか」
レンとツバメは、思わずワクワクし始める。
「……悪しき人間から王の子を取り戻して帰還したメイちゃんが、獣の王の前に立つ……すごい絵になりそうだな」
「獣たちの王と、自然界に生きた人間のメイちゃん。その横でメイちゃんに懐きまくってる王の子って、これもう映画かなんかだろ」
「見どころが詰まってるよなぁ」
一歩引いた位置から見ている参加者たちも、ここからの展開に期待が止まらない。
気が付けば今回のイベント参加者に加えて、王都クエストの規模の大きさを聞いて駆けつけたプレイヤーたちも集まってきていた。
「……あれが魔獣たちの行軍か」
「いやー、やっぱとんでもないな」
見えてきた砂煙に、そのすさまじさが分かる。
「問答無用で特攻してくるパターンはさすがにないんじゃないか? プレイヤーが塔の上にいる以上は何かしらやり取りがあるだろ」
「それに動物のパラメータが関係してるなら、メイちゃんは最高だろ。和解の流れはあるぞ」
未だ半壊状態の王都南部。
メイは軽やかな動きで、塔の天辺へ。
王の子は今も、隣に寄り添う形だ。
「君ならきっと、獣の王も認めてくれるだろう」
従魔ギルド長の言葉からも、和解の雰囲気が伝わってくる。
すさまじい迫力で迫り来る、魔獣たちの行軍。
このまま突撃されたら、王都は文字通り崩壊してしまうに違いない。
「お、おい、なんだこいつら?」
集まっていたたくさんのプレイヤーたちが、突然ざわつき出した。
目の前に現れたのは、これまでを大幅に上回る数の王都兵と元老院兵たち。
「……なにをするつもりだ?」
大量の兵士たちを率いてきた元老院副長に、従魔ギルド長が問いかける。
「決まっているだろう。化物どもから我らの王都を守るのだ」
そう言って、片手を振り上げる。
「さあ――――野蛮な獣どもを駆逐しろ!」
その手には、二つの転移宝珠。
強烈な輝きが灯り、メイの右前方に『巨竜』が現れた。
「「「おおっ!?」」」
イベント開始時に王都の一部を破壊したドラゴンの再登場に、驚く参加者たち。
さらに左前方に、地下の檻に拘留されていたもう一体の超大型魔獣が登場。
「待て! そんなことをしたら魔獣たちの怒りは止められなくなる! 世界中の動物を敵に回すことになるぞ!」
「黙れえっ!」
元老院副長は、従魔ギルド長を蹴り飛ばした。
「うああっ!」
「我ら元老院の誇る最強兵器にて、魔獣どもを血祭りにあげ……王都ロマリアの、我ら人間の恐ろしさを教えてやる! ハッハッハッハァ!」
元老院副長は、悪どい笑い声を上げる。
「なるほど、あのNPCが最後まで愚かな人間の代表ってわけね。これで明確に『獣の王』『王都兵』『私たち』の三つに別れることになったわ」
倒れ込んだ従魔ギルド長は、声を振り絞る。
「頼む……なんとか王都兵たちを、二体の魔獣を止めてくれ! あんなのを差し向けてしまったら、もう動物たちとの戦いを止めることはできなくなってしまう……っ!」
「これは、時間制限でしょうか」
従魔ギルド長の言葉を聞いて、ツバメが問いかける。
「超大型と獣の王がぶつかる前に、倒して止めろってことでしょうね」
「おい、ちょっと待て……それってまさか」
「二体……同時なのか?」
一体でも苦戦必至の超大型を、二体同時に相手にするという厳しい状況。
従魔士パーティ、そして同行組の面々が驚愕する。
「それどころか、王都兵も私たちの邪魔をしてきそうだわ」
地響きを鳴らし、王都へと迫る怒りの獣王。
続く無数の魔獣たち。
「……レンちゃん、ツバメちゃん」
そんな中、静かに状況を見守っていたメイが二人に視線を向ける。
「王の子にHPゲージはなし。ここは純粋に二体の超大型魔獣を倒しなさいってことね。それによって王都の未来が変わるってクエストだわ」
「いきましょう。今回の合宿の集大成というべき戦いになると思います」
「待っててね」
そう言って王の子の頭をなでたメイは、空中でくるっと回転。
軽やかに直地すると、ツバメやレンと共に歩き出す。
向かうは、赤く目を輝かせる二頭の超大型魔獣。
その狙いはもちろん、獣の王だ。
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