第325話 地上への帰還

「久しぶりの太陽だーっ!」


 王都地下を脱出したメイ。

 さっそく王の子と一緒に飛び跳ねる。

 出た先は王都南部、従魔士ギルドの近く。


「なんだかざわついていますね」


 小動物と戯れるメイにしばらく見惚れていたツバメがつぶやく。


「王の子を連れて出てくると、NPCたちの動きも変化するって感じかしら」


 魔獣たちの行進に気づいたのであろう、王都住民の一部がその異常を口にしている。


「まずはとにかく、従魔士ギルドに戻るところからね」

「いきましょうっ!」


 メイがスキップするように歩き出すと、王の子も一緒に跳ねるように歩き出す。


「……な、なんという素敵な光景でしょうか……っ。かわいすぎます。これは動画で何度でも見たい光景です」


 レンの腕にしがみ着きながら、「見てください!」と訴えるツバメ。


「こう考えると、ツバメもやっぱり同じ血を引いてるのねぇ」

「はっ!!」


 写真を撮りまくっていた自分の母を思い出して、硬直するツバメ。


「……ぐうの音も出ません」


 そう言って白目をむくツバメに、レンは「ふふっ」と笑う。


「でも、楽しそうなメイが可愛いのは確かね」

「はい! その通りです!」


 楽しそうに進むメイたちを先頭に、三人は従魔士ギルドにたどり着いた。


「ただいま戻りましたーっ」

「無事だったか! おお、その子は……っ!」


 ギルド館の前で待っていたマスターが、慌てて駆け寄ってくる。


「王の子を助け出してくれたのか!」


 無傷で地下を抜け出した王の子を見て、歓喜の声を上げた。


「君たちが見つけた地下に、次々に冒険者たちが乗り込んでくれた。たくさんの従魔たちが解放され、希少動物たちも地下を抜け出したようだ!」

「よかったぁ」

「これで王都崩壊は免れたことになるのかしら」

「助かった。本当にありがとう」


 ギルドにいた従魔士NPCたちも、皆うれしそうだ。

 大きな救助クエストが終わり、流れる一段落の雰囲気。


「これはどうなっている!」


 そこへ鎧を身にまとった男たちが、足音も荒く踏み込んできた。

 銀鎧に金の装飾。

 王都兵を連れてやった来たのは、元老院副長。


「大量のモンスター、動物が王都に押し寄せてきていると報告があった! 一体何が起こっているんだ!?」


 高圧的に迫る元老院副長に、ギルドマスターはため息をつく。


「取り戻しにきたのだろうな、この子を」

「そいつは……っ」


 自分たちが捕らえてきたはずの王の子を見て、驚く副長。


「……魔獣たちを率いているのは獣の王。過ぎた野望が自然の主を怒らせてしまったんだ。こうなってしまった以上まずは王の子を返し、それから王の判断を待つしかない。怒りが収まれば、帰っていくだろう」

「収まらなければ……どうなるんだ?」

「獣の王たちによる王都の破壊だ。動物たちもそれに続くだろうな」

「ならばやつらはどう止める!? お前は魔獣どもに詳しいのだろう!?」

「もしも獣の王が王都を壊滅させるというのであれば、それは王の子を兵器として利用しようした人間への罰だ」

「ふざけるな! これは王都の危機なのだぞ! 貴様はそれを甘んじて受け入れろとでも言うつもりか!」

「戦ってしまえば、それこそ世界の危機になる。魔獣たちの王なのだぞ、相手は」

「ふざけたことを……この役立たずめ! 獣どもを止めるためなら我々は手段を選ばない……っ! どんな手を使ってでも止めてみせる!!」


 副長はそう言って、部下を引きつれ去っていく。


「なんていうか、絶対に何かが起こる流れよね」

「そうなの?」

「映画とかで見たことのある展開です」


 去っていく兵士たちを見て、ギルドマスターは息をつく。


「戦いを始めてしまったら終わりだ。たとえ運よく勝つことができたとしても、我々人間と魔獣や動物との間に生まれた火種は世界を巻き込む争いを生むだろう」

「いよいよって感じになってきたわねぇ。王の子を返してこの戦いを止めるっていう流れは間違いないんでしょうけど……」

「魔獣たちを利用して兵器にしようとしている元老院と、それを罰しにくる自然界の王。その間に入るといった感じですね」


 そう言ってツバメは、不意に思い出す。


「そういえば、お昼の時間をずいぶん過ぎてしまっていますね」

「一度戻りましょうか。少し休憩してもいいかもしれないわね」

「はいっ」


 王の子を連れて戻ってきたところで、気分も一段落。

 ここでも急がないメイたちは、一度ログアウトして一休みすることにした。

 王の子がメイたちに所属している以上、メイたちがいない間に状況が勝手に進んでしまうことはない。


「ただ、その前に」

「うんっ」

「地下組の様子を見に行きましょうか」

「はいっ!」


 メイたちを送り出してくれた面々の手助けと、一度ログアウトすることを伝えに戻る三人。

 同行組、掲示板組が魔獣の正気を取り戻すことを優先にしていたため、残っていたのは王都兵ばかり。

 メイたちの怒涛の攻勢で、一気にその打倒に成功したのだった。

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