第326話 昼寝と夕食の準備と

「ごちそうさまでしたっ!」


 昼食を終えたさつきたちは、つばめの部屋に戻ってきた。


「あっ、この子たちがクマの親子だね! たしかによく似てるかも!」

「はい、一度見つけてしまったらもう放っておけませんでした」

「ほら見てレンちゃん、そっくりだよ……レンちゃん?」

「昨夜のうっかり30分が、とても効いているようですね」


 普段より短い睡眠時間。

 ログアウトしてとった昼食も、もちろん多めでお腹いっぱい。

 可憐はクッションを抱きしめたまま、寝息を立てていた。


「まだイベント終了までは時間がありますし、ここは少し休憩しましょうか」

「そうしましょうっ」


 一度地下に戻り、王の子の従魔ギルドへの送迎を終了したことを伝えたメイたちは、昼休みを取ることも連絡済み。

 心おきなく時間が取れる状況だ。

 さつきは可憐の横に寝転がると、じっと顔を見つめてみる。


「なんだか雰囲気が違うね」

「こっちのレンさんは、あまり闇の感じがありませんね」

「レンちゃん可愛い」


 そう言ってカーテンを閉めると、つばめもさつきの隣に腰を下ろして横になる。

 陽光が薄く入り込む、つばめの部屋。

 さつきとつばめの二人も、やがて静かに目を閉じた。





「ん、んん」


 さつきが目を覚ますと、目の前にはまだ眠っている可憐の姿。

 気が付くと、白黒二匹の猫たちも一緒になって眠っていた。

 しかしそこに、つばめの姿はない。

 どうやら先に起き出しているようだ。


「ふあああ、ツバメは?」


 続けて起きた可憐が、黒猫の頭をなでながら問いかける。


「先に起きてるんじゃないかな」

「飲み物でも取りにいきましょうか」

「うんっ」


 そう言って、つばめの部屋を出た二人は台所へと向かう。

 可憐は前を行くさつきの背に抱き着くと、窓の外へ視線を向ける。


「もうそろそろ夕方なのね」

「お昼が遅かったからねぇ」


 そんな可憐の両腕を引くようにして、歩くさつき。

 広い台所に着くと、そこにはつばめとつばめ母が一緒だった。

 どうやら、一緒に夕食の準備をしているようだ。


「でもめずらしいわね。つばめがお手伝いじゃなくて一緒に作りたいだなんて」


 普段は手伝いのつばめ。

 今日は自分も夕食を作りたいと志願したようだ。


「私も、さつきさんや可憐さんのために何かしたいと思って」

「最近のつばめは、なんだかずっと楽しそうよねぇ」

「はい。三人一緒に遊ぶ時間は、本当に楽しいです」


 今回の合宿も、予想通り最高に楽しい合宿になっている。

 思い切って誘って良かったと、つばめはあらためてそう実感していた。


「最初は、ついにつばめが幻覚でも見始めてしまったのではないかと思ったわ」

「私も最初は、幻覚でもおかしくないと思っていました」


 つばめも約二年間。

 ジャングルでクマのクエストに参加するまでは、これといって誰とも会話することなく『星屑』を遊んでいた。

 合宿。それは以前の自分からは考えられないような状況だ。


「二人は、どんな子なの?」


 不意につばめ母が、そんなことを聞いてきた。


「メイ……さつきさんはいつも元気で楽しそうで、とても可愛い方です」


 つばめはスラスラと、考えることもなく応えてみせた。


「可憐さんは綺麗で面倒見が良くて、とても面白い方です」

「つばめが誰かのことをそんな風に言うのは初めて聞いたわ。本当に二人が好きなのね」

「はい。さつきさんと可憐さんが大好きです」

「そうなのねぇ。それじゃあとは、お願いしちゃおうかしら――」

「……?」


 突然の母の言葉に、つばめは疑問の目を向ける。


「――さつきちゃんと、可憐ちゃんに」

「っ!?」


 親子の会話を目前にして、台所に入っていいのか迷っていたさつきと可憐。

 つばめ母は、ガラス戸に映った二人をしっかり見つけていた。


「もう後は香草をちょっと使って焼くだけだから、つばめも分かるわよね。それじゃあお願いね」


 ふふふ。と得意げな笑みを残して、つばめ母は去っていく。


「ツ、ツバメちゃーん!」


 素直なさつき、感動のままつばめに抱き着く。


「前回は、私もこんな感じだったわねぇ……」


 二人が寝ていると思って恥ずかしいことを言った後に、実はさつきもつばめも起きていたことが発覚した事件を思い出して、可憐は苦笑い。

 表情をうかがうために、さつきに抱き着かれているつばめのもとに向かう。

 するとつばめは、おずおずと視線を可憐の方に向けた。


「……でも」

「でも?」

「……本当に……そう思ってます」

「ツバメちゃーん!」


 さつきはさらに力を込めて抱き着く。


「ちょ、ちょっと待って、なんで私だけいつもこんな赤面させられるようなことに……っ」


 不意に自分の目を見ながらささやいたつばめに、可憐は一瞬で顔を真っ赤にする。

 元中二病・星城可憐。

 こういう真正面からのやつに、めちゃくちゃ弱い。


「よーし! それでは夕飯作りの続きをやっちゃいましょう!」


 うれしさで気合十分のさつきは、さっそく夕食作りに取り掛かる。


「……え、ええと、ヤシの葉に包んで焼くんだっけ?」


 一方、つばめの一言で前後不覚状態の可憐。


「もう、そんな野生的な料理のわけないでしょー!」


 さつきに全力でツッコミを入れられる。


「レンちゃん。それにあれは焼いてるんじゃなくて、蒸してるんだよ?」

「問題はそこなのでしょうか……」


 これには、つばめも笑ってしまう。


「……やはり、今回の合宿も最後まで楽しくなりそうです」


 こうして三人は、今夜も楽しい夕食を迎えるのだった。

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