第323話 地上へと至る道!

 怪盗と共に金毛羊を救い出し、バジリスクも救出したメイ。


「さて、この子も助けたし次は地下からの脱出だね」


 右に羊、左にバジリスク。

 怪盗と共に先へと進むメイがたどり着いたのは、配管地獄のただ中。

 張り付けられた鉄板に怪盗が【アンロック】を使う。

 どうやらそこは扉だったらしく、鉄板が外れ落ちた。

 そのまま坂道状の配管内を進む二人。

 ここは怪盗と共にたどり着かないと、開かない道のようだ。


「これで配管地帯は、かなり通りやすくなったと思うよ」


 配管の区画は二つあり、この道がつながっていないために多くのプレイヤーが遠回りを強いられ、道に迷うことになる。

 だが区画間をつなぐ道ができたことで、同じ場所を何周もする必要がなくなった。


「メイ!」

「メイさん!」

「みんなーっ!」


 そして進んだ先は、分断させられたパーティの合流地点になっていたようだ。

 レンやツバメを見つけるや否や、笑顔で駆け出すメイ。

 そのまま二人に抱き着いた。


「……おい、こんな道あったか?」

「見ろ! ここショートカットになってるぞ!」


 地下を迷っていたパーティや、従魔を助けて帰還途中だったパーティも、新たな配管路を見つけて集まってくる。


「あっ! メイちゃん!」

「はいっ! メイですっ!」


 その中には、地下進入時に分かれた従魔士パーティの姿もあった。


「王の子の救出に成功したんだな。あとは無事地上に戻れれば、王都の隠しクエストもクリアか」

「オレたちも結構、動物を開放してきたぜ」

「もうこの付近の魔獣や動物は、あらかた助けられたと思います!」


 賑やかなメイたちの声。

 それに引かれるように王都地下を戦い抜いてきた者たちが集まり、自然と大きなパーティのようになった。


「配管の出入り口付近まで来たということは、あと少しね」

「地上に戻れるのですね」


 ここから続く道は、入ってきた時に通ったものとは違うルート。

 道幅は広く、天井もそれなりに高い。

 あとはここを進むだけだ。しかし。


「っ!」


 メイと王の子が、同時に何かを聞きつける。

 メイたちの前に現れたのは、元老院兵と王都兵の集団。

 その数は、数百に及ぶ。


「いたぞ! 侵入者だ!」


 先頭の元老院兵長が声を張り上げた。

 すると様々な武器を持った兵士たちが続々と、地下に流れ込んでくる。


「あの緑の耳の魔獣を取り戻せ! これは元老院直々の命令だ!」

「……なるほど、ここからは物量で攻めてくるのね」


 王の子目がけて一斉に動き出す、王都兵たち。


「【フリーズブラスト】!」


 レンは正面から駆け込んでくる一団に、先手を叩き込む。


「俺たちも行くぞ! 【剣閃疾駆】!」

「いけサラマンダー! 【喰らい付き】だ!」


 続く同行組の攻撃で、さらに敵兵士たちを片付けていく。

 すると王都兵は、宝珠で魔獣を召喚。

 現れたケルベロスが、炎のブレスでけん制してくる。


「くっ、魔獣も混ぜてくるのかよ!」

「気を付けてください! この魔獣たち、HPを削ることで『正気を取り戻す』タイプです!」

「やっかいだなオイ!」


 それを聞いたレンたちは、範囲攻撃から単体狙いの攻撃に切り替える。


「【装備変更】! 【バンビステップ】からの――【キャットパンチ】!」

「【連続魔法】【ファイアボルト】!」


 青い炎のキャットパンチで、メイは王都兵を次々ノックダウン。

 レンも早い魔法攻撃でHPを削り、それを見た同行パーティがとどめを刺すという連携で、敵を減らしていく。

 新たに合流した面々も、地下で生き残ってきただけあり見事な戦いぶりを披露。

 王の子を守りつつ道を切り開いていく。しかし。


「いたぞ! 王の子を取り戻せ!」


 減った以上の王都兵が、新たになだれ込んできた。


「……これ、キリがないぞ」

「メイちゃんたちには、思い切って先行してもらった方がいいかもな」


 うなずき合う、同行組の面々。

 見れば後衛組のさらに後方からも、王都兵たちが取り囲みに来ている。


「メイちゃんたちは王の子を連れて先に進んでくれ! 魔獣を助けながらこの数を相手にするのは、手間がかかりすぎる!」

「おねがいしますっ!」


 メイは王の子を抱きかかえて走り出し、レンやツバメもそれに続く。


「久しぶりですね。メイさんが抱えて進む感じ」


 ジャングルで子グマを抱えて進んだ時のことを思いだして、笑みを浮かべるツバメ。

 そこに王都兵たちが、雷光槍で襲い掛かってきた。


「【紫電】!」 


 集まってきた王都兵たちを、まとめて止める。

 メイはその隙間を駆け抜け、飛び掛かって来た魔獣には――。


「がおおおおおお――――っ!」


【雄たけび】で動きを止めて回避。

 そのまま地上目指して、一気に道を駆けていく。


「ッ!!」


 そこに現れたのは、道の角に隠れていた王都兵。

 いやらしい不意打ちは、王の子を狙った雷光槍による突撃だ。


「高速魔法【フレアアロー】!」

「ありがとうレンちゃん!」


 レーザーのような高速直線魔法が、迫る王都兵を吹き飛ばす。

 だが、これでも増援は止まらない。

 大量の王都兵が、魔獣を引き連れてやって来た。


「本当に、無限にわいてくるわね……っ」


 まとめて倒すことは難しくないが、それでは魔獣もまとめて倒してしまうことになる。

 できることなら、したくない判断。

 どうしたものかとレンが悩んでいると――。


「「「間に合ったあああー!」」」


 遅れてやって来た一団が、王都兵たちに向かって攻撃を放つ。


「【烈火剣】!」

「【雪月烈花】!」


 炎の剣がうなり、氷の花びらが舞い踊る。


「【雷光槍】!」


 その合間を縫って特攻して来た兵士には、スライムが壁になり【硬化】

 その硬度の前に、ガツンと音を立てて弾き飛ばされた。


「魔獣はHPを削って正気に戻しつつ、王都兵は潰す! いくぞ!!」

「「「了解っ!」」」


 乱入してきた掲示板組は、王都兵たちを見事に分断させたところで一斉に振り返る。そして。


「「「ここは俺に任せて先に行けっ!」」」


 全員、ばっちりカッコつけながら同じことを言った。

 これを見たメイは、素直に気合を入れる。


「ありがとうございますっ! 【バンビステップ】!」


 メイはスライムにも「ありがとう」と、ほほ笑んで駆け出した。

 掲示板組の登場で分断された王都兵たち。

 華麗な足さばきでその隙間を走り、雷光槍も魔法スキルも回避。


「【連続投擲】」


 迫ってきた来た兵士たちは、ツバメの放つブレードが打ち倒す。


「【魔力蝶】【フレアバースト】」


 さらにレンを追うように舞う四匹の蝶が、近づいて来る者たちを撃ち倒す。

 三人はそのまま、一気に道の最奥へと駆け抜けていく。

 奥の石壁には、彫り込まれた紋様。

 その真ん中に、差し込むカギが必要のようだ。


「カギ!? もしかして王都兵の中に持ってるヤツがいるパターン!?」

「ま、ま、まさか……ススススティールでは……っ」


 ツバメが白目をむいた瞬間、三人のもとに一人の少女が現れる。


「お待たせ! 【アンロック】!」


 ここで怪盗を助けたことによる恩恵が与えられる。

 スキル発動と同時に、石壁がゆっくりと左右に割れ始めた。

 カギ持ちの兵長を探さなくともよし。

 見えたのは地上へと続く階段。

 そこを、ゆっくりと降りてきたのは――。


「……セナトの後衛職。そんなところかしら」


 レンの予想はここでも当たる。

 黒のローブを身にまとったセナトの一員が、大きな杖を掲げて立ちはだかった。

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