第296話 火事場といえば!

「残り三つ!」


 メイたちの的確な動きで、商品の移動クエストはあっと言う間に片付いた。


「よし、これで最後だ!」


 飛び出してきた武闘家が抱えてきたソファで、無事商品の救出は終了。

 するとそれを待つようにして、店舗の壁が崩れ始めた。

 それに合わせて、刺さっていた教会塔も深くめり込みだす。


「退避しよう!」


 砂煙を巻き上げながら崩れ落ちていく、三階建てのアイテム店。

 無事だった商品は全て、荷馬車に積み込むことに成功した。


「危なかったな……」

「そんじゃ、この荷馬車は届けておくぜ」

「おう、頼んだぞ」


 やって来た数人のNPCが馬車を動かし出す。すると。


「……あれは誰だ!?」


 商店の主が、走り出した荷馬車を見て叫んだ。


「バレたぞ! 逃げろ!」

「はははっ! このアイテムたちは頂いたぜ!」


 男たちはそう言い残して、馬車を走らせ逃げていく。


「火事場泥棒!? 意外と大変なクエストなのね!」

「メイさん、いきましょう!」

「うんっ!」


 すぐさま駆け出すメイとツバメ。


「この馬を使って――」


 店主は残った荷馬車から、牽引用の馬を貸そうとするが。


「【バンビステップ】【モンキークライム】!」

「【加速】【壁走り】!」


 二人はすでに前方、自力で盗賊団を追いかけていく。


「すげえ! 自力で追いかけるのか!」

「メイちゃん、アサシンちゃん! 頼んだぞー!」

「がんばれメイちゃん! アサシンちゃん!」


 駆け出していく二人に、思わず応援の声をかけるプレイヤーたち。


「【跳躍】」

「【ラビットジャンプ】」


 ツバメとメイは続く建物の上を駆け、荷馬車を追いかける。


「この位置からの攻撃は……難しいですね。アイテムまでまとめて壊してしまいそうです」

「どうしようツバメちゃん」


 盗賊五人が乗った荷馬車には、もちろんアイテムの数々も載っている。

 そしてこれは間違いなく『下手に攻撃すると破損していく』クエストだ。


「少し無駄遣いになりそうですが……行ってきます」


 ツバメは足を止め、並んだ武器店で商品を購入。


「【壁走り】」


 再び壁を蹴って上がる。


「【加速】【リブースト】【跳躍】!」


 そこから同一方向への二段加速で一気に速度を上げ、高速移動から高く舞うと――。


「【連続投擲】!」


 買ったばかりの忍者用クナイを、連続で投擲。

 これまで【投擲】を使ってきた経験と、ある程度上げてあった【技量】のおかげで四つのクナイは見事ヒット。

 盗賊たちが馬車から転げ落ちた。


「すごーい!」


「いえー!」と拳を突き上げるメイ。


「……ですが、御者台の陰にいる盗賊には当てられません」


 ツバメがそう言うと、メイは尻尾をピンと立てた。


「そういうことなら、おまかせくださいっ!」


 そう言って地上に戻り、足を止めるメイ。


「そういう事ですか! 【加速】【リブースト】【電光石火】【跳躍】!」


 ツバメは三連続の高速移動から跳躍。


「【連続投擲】!」


 【アクアエッジ】と【ダインシュテル】を投擲した。

 二本のダガーは、馬車の進路の先に突き刺さる。

 それを見た御者盗賊は、慌てて角を左折。


「今だっ! 【投石】ーっ!」


 荷馬車が曲がり、御者盗賊の側部があらわになったところに、豪速で飛んで来た石が直撃した。


「ぐああっ!?」


 盗賊が転げ落ちたところで、荷馬車はその足を止めた。


「やりましたね」

「【バンビステップ】【アクロバット】! やったよツバメちゃん! ありがとーっ!」


 投じたダガーをひろうツバメのもとに、飛び込んできたメイ。

 受け止めたツバメは、向けられた笑顔に――。


「は、はいっ」


 一回嚙んだ。

 しかしこのクエストは、まだこれで終わりではなかった。

 崩れた店の前に残ったレンと、プレイヤーたち。


「そいつを……寄こしな」


 残った荷馬車を狙って、別動隊の盗賊たちが現れた。


「あっちを全員で追っかけちゃうと、こっちが盗まれるわけね。なかなか大掛かりなクエストじゃない」

「いくぞ! 馬車を奪うんだーっ!!」


 盗賊たちは、短剣を手に飛び掛かってくる。


「【連続魔法】【ファイアボルト】!」


 だが動きの速い敵への対応も慣れたもの。

 レンは四連続魔法でしっかり敵の数を減らし、その隙間を抜けてきた者に自ら接近を仕掛ける。

 手にしたのは【魔剣の御柄】


「【フレアストライク】」


 手前の盗賊を炎の剣で斬ると、二人目にその切っ先を向けた。


「【解放】!」


 そのまま炎の砲弾で吹き飛ばす。

 だが盗賊たちは数も多く、レン一人では全てを相手にするのはさすがに面倒だ。


「……いくぞ」

「「「おう!」」」

「あら?」


 そんなレンの前に、歩み出てきた参加者たち。


「ここまでメイちゃんたちが完璧にやってくれたんだ! ここは死ぬ気で守るっ!!」

「「「おおーっ!!」」」


 駆け出すプレイヤーたち。

 その目には、気合が入りまくっていた。


「消し飛べやぁぁぁぁっ!!」


 プリーストはトゲの付いた物騒なメイスを掲げ、補助スキル全開で盗賊を叩きつける。


「【バーストアロー】【バーストアロー】さらに【バーストアロー】だああああっ!」


 弓術師は直撃即爆破の高火力スキルを次々に発動。


「消えろーっ! 【トルネード】ッ!!」


 そして魔導士は、持てる最高の魔法を叩き込むのだった。



   ◆



「ただいま戻りましたーっ! ……あれ?」


 メイとツバメが、崩壊した店舗の前に戻ってきた。

 そこには、必要以上にボコボコにされた盗賊たちが倒れ伏していた。


「メイちゃん! こっちは問題なしだ!」

「不届きな盗賊共は、俺たちが倒しておいたぜ!」


 爽やかな笑顔で、親指を立てるプレイヤーたち。

 その惨状を見ていたレンだけが、苦笑いを浮かべている。


「ありがとう。君たちのおかげで無事に商品を運び出すことができた」


 荷馬車を倉庫へと運んだところで、店主NPCは満足そうにうなずいた。


「君たちの様な冒険者がこの街を救ってくれるのだろうな。これは礼だ。取っておいてくれ」


 見事な連携による、迅速なクエスト達成。


「いやー終わった終わった!」

「こんなに早く終わるクエストじゃないよな、どう考えても」

「メイちゃんのパワーのおかげだな!」

「いえいえ! 皆さんのおかげですっ!」

「黒服ちゃんも、ミッションクリアすごかったぜ!」

「ツバメちゃんの速さもな!」

「ちょっと待って、ツバメをツバメって呼ぶんだったら私もレンでいいじゃない」


 そんなレンのツッコミに、笑い声が上がる。


「いやあ、雑用系だし時間かかりそうなクエストだったのに楽しかったなぁ!」

「普通だったらあり得ない方法で、荷物が次々に減っていくのは気持ち良かったよ!」


 どう考えても面倒なはずのクエストが、気持ちよく片付いたことに参加者たちは盛り上がる。

 レンがミッションまでクリアしたことで、報酬もなかなかのものだ。

 そんな中、メイたちは――。



【ターザンロープⅡ】:強度が非常に高く、伸縮性もあるロープ。投げ縄にしてオブジェクトやモンスター、プレイヤーに投じることも可能。その際の命中率は【技量】に補正される。



「「「…………」」」


 パーティごとに配られた報酬アイテム。


「いいアイテムなのは、間違いないわね」

「はい」

「…………」


 見事、かつて使用した野生アイテムの強化版を手に入れることに成功したのだった。

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