第295話 ハズレのはずのクエスト
「うわー、めちゃくちゃだねぇ」
「結構芸が細かいわね……焼け落ちた部分と、尻尾で叩き壊されたところでちゃんと状態が違うわ」
「さすが王都ですね。イベントの始まり方がとても豪快です」
イベントの始まりは、巨大な竜の襲撃から。
王都ロマリア中央部の一角は、廃墟と呼べるほどの状態だった。
今回のイベントは『王都の大改修』
崩壊した街を舞台に、その再建をしていくという内容のようだ。
すでに各所で「ああ、困った」「どうしたらいいんだ」と、クエストNPCたちが分かりやすく頭を抱えている。
そんな中でメイたちの目が留まったのは、折れた教会の塔が突き刺さった大型アイテム店の主の姿。
店に刺さった教会の塔は、今にも崩れ落ちそうだ。
「このままでは教会塔が崩れて、残った商品も潰されてしまう」
三階建ての店舗は、教会塔が刺さったことで一部の屋根が崩れ、落ちた石塊が床の中心部を一階まで貫いていた。
中央部分が崩れ落ちた店内は、吹き抜けのようになってしまっている。
「ここから数百メートルほど先にある倉庫に、無事だった商品を運び込みたいんだが……力を貸してくれないか?」
どうやら、残ったアイテムたちを外の荷馬車に載せて倉庫へ届けるのが目的のようだ。
「お手伝いしましょう!」
「そうね、ちょっと光景も面白いし」
「いいと思います」
複数パーティで行うこのクエスト。
塔が突き刺さっているという目立つ状況に、他のプレイヤーたちも集まってきた。
受注した面々は、さっそく店舗の中に入っていく。
「あ……これ結構時間取られるクエストっぽいな」
「しまった、ハズレだこれ」
時間と手間を取られて、受けられる美味しいクエストの数が減る。
そんな予感に、早くもため息のプレイヤーたち。
「……あれ」
不意に、店内を興味深そうに眺めるメイに気づいた。
「獣耳にお供の黒服たち。もしかして噂のメイちゃんでは?」
「はいっ! メイですっ!」
「誰がお供の黒服なのよ」
「そうだぞ。正しくは闇の使――」
「黒服でいいわ」
黒服の方がマシなことに気づいたレン、すぐさま訂正を入れる。
「そこは普通に『レン』と呼んでもらえばいいのでは……」
これにはツバメも、言わずにはいられない。
「それじゃさっそく、始めていきましょうか」
内部は三階まで階段で上がる形式の、古いデパートの様な造りになっている。
持ち運びに時間のかかる重たい物が三階に集まっているのは、完全にクエスト用の配置と言えるだろう。しかも。
「これ、邪魔ねえ……」
「邪魔だなぁ」
一階の中央部分には、落ちた屋根の残骸が陣取っている。
これをその都度避けないと、一階奥に置かれた商品を店から出せないのはやっかいだ。
「移動の制限かぁ、やっぱ時間を喰うタイプのクエストなんだなぁ……」
「おまかせくださいっ!」
するとメイは、そう言って石塊をひょいっと持ち上げてみせた。
「「…………?」」
その姿を見て、魔導士とプリーストが目を見開く。
「……え? 障害物をどかすとかできんの?」
「いや、全然動かないぞ……ッ」
メイは邪魔な石塊をいくつも抱えて、あっという間に撤去。
驚く二人を前に、一階の動線を難なく確保してみせた。
一方、三階。
「これを持って降りるのは大変だぞ……」
一人の剣士が古めかしい作りの金庫を持ち上げ、ノロノロと歩を進めていた。
「落としちゃって大丈夫ですよーっ!」
そんな剣士を前に、一階のメイが手をブンブンしながら声をかける。
「で、でも……これは衝突ダメージでも大事になりそうだぞ……キャッチに失敗すれば壊れるっぽいし」
「おまかせくださいっ!」
そういうことならと、剣士は手にした金庫を三階から落としにかかるが――。
「「うわっ!」」
その隣を歩いてきた騎士が剣士にぶつかり、抱えていた銅像を落っことした。
それがきっかけで手が離れ、剣士も金庫を落としてしまう。
銅像と金庫。
三階から落ちてくる、二つの重量アイテム。
「よ、避けてくれーっ!!」
金庫を落とした剣士プレイヤーが、大きな身振りと共に叫ぶ。
「……よいしょっ」
しかしメイ、これをがっちりキャッチ。
「こっちも!」
なんと銅像の方もしっかりと受け止めてみせた。
どちらも、片手で。
「……マジかよ」
「こ、これが噂のメイちゃんか……」
メイは足取りも軽く、荷馬車へと駆けていく。
「おい、メイちゃんが戻ってくるぞ」
「よ、よし、早く次のアイテムを取ってこよう!」
こうして三階と一階のコンビネーションが確立。
やっかいな重量アイテムの移動は、スムーズな運搬が可能になった。
「【加速】【リブースト】」
一階はメイが石塊をどかしたことで、直線移動が可能になっている。
ソロ期間が長かったこともあり、【腕力】もそれなりにあるツバメはアイテムを抱えて高速移動。
それを見た弓術師や盗賊も、ステップスキルであとに続く。
「痛っ!」
「あっ! マズい!」
しかしすれ違いに失敗した二人は衝突し、弓術師の持っていたオイルランプが飛んだ。
このアイテムは、落ちれば破砕してしまう。
「【加速】【跳躍】!」
これを、戻り際のツバメがすべり込みでキャッチ。
そのまま床を転がって、事なきを得た。
「助かった……」
「ありがてえ……アサシンちゃんは一階のエースだな」
「い、いえ、そんなことは……」
ちょっと恥ずかしそうにしながら、ランプを荷馬車に持って行くツバメ。
「よし、俺たちもアサシンちゃんに続こう!」
「そうだね」
ここから一階勢はツバメを中心にして、その動線の左右を通行することを決定。
各自の進路がコース化されたことで衝突もなくなり、ステップスキルによる運搬効率が上がり出す。
こうして一階、三階の荷物はドンドン外の荷馬車に運び込まれていく。
さらに。速いプレイヤーは一階、力のあるプレイヤーが三階と別れたことで、残りの顔ぶれは皆二階と役割もきれいに分担。
時間ばかり取られるはずのやっかいなクエストに、早くも光明が見え出した。
「困りました……」
そんな中、荷馬車の前をうろうろしているシスターNPCを見つけて、レンが立ち止まった。
「どうしたの?」
「あの十字架は長い歴史のある物で……できれば無事に持ち帰りたいのですが……」
シスターが指さした先には、今にも崩れ落ちそうな教会塔。
その天辺についていた十字架が外れ、ひっくり返った状態で店に刺さった塔の上部に、引っかかっている。
「あれを取りに行くのは難しいぞ……」
「失敗したら落下ダメージと……塔の崩壊で店のアイテムも壊れそうだ」
「間違いなく高難易度ミッションだろうし、運搬が終わって余裕があったらでいいんじゃないか?」
「ミッション放置はテンション下がるんだよなぁ……クエストをクリアしても心残りになるから」
集まって来たプレイヤーたちは、ため息交じりにミッションの放置を決める。
「そういうことなら……【浮遊】」
レンはふわりと宙を行く。
そのまま大幅なショートカットで、難なく十字架の前に着地。
そっと両手で抱えて、シスターたちの前に帰ってきた。
「ありがとうございます!」
本来であれば、動きに自信のある軽いジョブのプレイヤーが、塔を崩さないよう気を使いながら向かうこのミッション。
これをレンは、あっさりクリアしてみせた。
「こ、こんなクリア方法があるのか……」
「体力を使わずにこなしちゃうのが魔導士って感じだなぁ」
感嘆の声を上げるプレイヤーたち。
この間にも、メイたちは店内のアイテムを気持ち良く減らしていく。
「もしかしてこれ、意外と早く終わるんじゃないか?」
「よし……ちょっと気合入れてやっていくか!」
こうして三人の活躍が、ハズレクエストに消沈していたプレイヤーたちを盛り立てていくのだった。
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