第297話 意外な顛末です!

「よし、次はこれを叩き割ってどかしちまおう」

「了解! おりゃあ!」


 大剣の叩きつけで石壁を割り、砕けた石塊を荷車に載せる。

 残骸の撤去に駆け回る戦士たち。

 その横を、紛失アイテム探しを受注したプレイヤーが駆け抜けていく。

『王都大改修』は、とにかく賑やかな雰囲気だ。


「次は何をしよっか」


 そんなワイワイとした空気に、メイも足取りが軽くなる。

 崩れかけの店から商品を運び出すクエストを終えた三人は、騒がしいロマリアを眺めながら次の目的を探していた。


「あっ、あそこに見たことない動物がいるよ!」

「あれは従魔士のギルド館ですね」

「ちょっと見に行ってみる?」


 こうして三人は、中央部の端にある従魔士ギルドへと足を運ぶことにした。


「ここは無事みたいね」


 従魔士のギルド館は、一部が崩れたり汚れたりしているものの、しっかりと通常業務ができる状態だった。

 広い庭を持つギルド館。

 三人が門をくぐると、すぐに大型の猫や耳の大きな犬、不思議な色使いの鳥がメイのもとに寄ってきた。


「従魔士より従魔士しています」

「あれー! 久しぶりじゃん! みたいな感じで寄ってきたものね」

「とても癒される光景です」


 その距離の近さに、思わず笑みがこぼれるツバメとレン。

 そのまま動物たちを引き連れて館に近づいていくと、一人の従魔士NPCがあからさまに困りだす。


「ああ、困りました……」

「どうしましたかー?」


 それに気づいたメイが声をかけると、付近にいた従魔士プレイヤーたちも集まってくる。


「実は私の『ホワイトパンサー』がいなくなってしまったんです。首輪に発信魔石をつけているので、場所は分かっているのですがなぜか見つからなくて……最近、従魔が突然いなくなる事件が起きているので心配です」

「猫探しの延長的なクエストっぽいわね。でも場所が分かってるってことは、競争しろってことかしら」

「競争!? よし、俺も参加するぞ!」

「おいで! グランドタイガー!」


『競争』の一言に、騎乗可能な従魔を持つプレイヤーたちは、クエストを受けるや否や移動を開始する。


「馬だ! 馬を借りてこよう!」


 従魔士ギルドには、移動用の馬も貸し出している。

 クエストを受注したプレイヤーたちは、皆あっという間に飛び出していった。


「私たちも行きましょうか」

「りょうかいですっ! 【ラビットジャンプ】【バンビステップ】!」

「【跳躍】【加速】」


 目的地の方向が分かっているため、メイは【帰巣本能】に従い最短距離を行く。

 ツバメも【壁走り】と【リブースト】を使うことで、しっかりメイに追従。

 レンは【浮遊】を使い、上空からあとに続く。


「速っ!?」

「従魔より速いってすげえな……」


 建物や道の並びに関係なく突き進むメイたちに、思わず目を奪われる従魔士たち。

 やがてメイの視界に、半壊した倉庫が見えてきた。

 見事三人は、ホワイトパンサーの発信地点に一番乗りを果たす。


「ホワイトパンサーちゃーん!」


 さっそくメイが呼びかけてみるが、返事はない。

 耳をすまし、鼻を鳴らし、小さな足跡一つに注意しながらメイは捜索を続ける。


「どう? 何か気になるものはある?」

「んー、見つからないなぁ」


 だがその鋭い五感と、ジャングルで身に着けた技術をもってしても、ホワイトパンサーにつながるものは見つからない。


「ここか! よーし見つけるぞーっ!」

「負けません! 行方不明従魔を見つけるのは私です!」


 ここで従魔士ギルドで同じクエストを受けた面々もたどり着き、本格的にホワイトパンサーの捜索が始まった。


「ここの扉、この意地でも開かない感じはもしかして……っ!」


 すると一人の従魔士少女が、さっそく固く閉ざされたドアを発見。


「「「ッ!!」」」


 その声に、付近の参加者たちが大急ぎで駆けつけてくる。


「先は越させませんよ! 【アックスチャージ】!」


 従魔士少女は、強烈な踏み込みから斧を一回転。

 扉を弾き飛ばして、強引に内部へ侵入する。


「空っぽだ……」

「はい解散」


 駆けつけた面々は、すぐさま離散。


「あっ、この鉄扉レバー付きだ!」

「「「ッ!!」」」


 新たに聞こえてきた声に、大慌てで集まる参加者たち。

 従魔士の男はレバーをつかみ、鉄扉を開きにかかる。


「よーしっ! 一番乗りだ!」


 そしてそのまま内部に転がり込んだ。


「……な、なんもねえ」

「はい解散」


 今度は小石を蹴りながら立ち去っていく参加者たち。


「……ツバメちゃん、この壁の向こうって何があるのかな?」

「そう言われるとおかしいですね。建物の作り的にどう考えても空間があるはずなのに、扉がありません」

「見て、壁の一部にヒビが入ってるわ」

「「「ッ!!」」」


 三人のそんな会話に、参加者たちが猛然と駆け寄ってくる。

 メイはその手に【大地の石斧】を持ち、おおきく振りかぶった。


「せーの! それーっ!」


 石斧の一撃。

 壁が一気に崩れ落ち、砂煙が立ち込める。


「これは……っ」

「これは来たな!」

「あれ? ていうかこの耳と尻尾……メイちゃんじゃないか?」

「そうだ、メイちゃんだよ!」

「それなら間違いない! 三度目の正直だ――――っ!!」


 砂煙の演出、そしてメイが主導という状況から、確かな手ごたえを感じる参加者たち。


「……何もありませんねぇ」


 しかし、そこも何もないただの部屋。

 これにはさすがに、従魔士の少女が落胆の声をあげた。


「本当にここであってんのか?」


 いよいよお手上げ状態。

 集まった面々は、ホワイトパンサーの発信地点がこの建物の敷地内であることを再確認する。


「……何か仕掛けがあるのでしょうか」


 ツバメがつぶやく。


「でも、単純な仕掛けなら俺のサラマンダーの【ギミックアラート】が反応するはずなんだよなぁ。隠し扉とかがあるんなら分かるはずなんだけど……」


 しかし火トカゲは特に何に反応するでもなく、「トカゲ……」としみじみつぶやくメイを見つめている。


「……これ、他のどこかでアイテムとかヒントを見つけないといけないパターンか?」

「ありえるなぁ」

「貴族が飼ってた希少動物がいなくなったから探してほしいって依頼はあったぞ。受けるだけ受けてまだ見つけてないんだけど」

「それとつながってますかねぇ?」

「「「んー……」」」


 そして皆、もう新たな情報は持っていないのか無言になる。


「なんだよー! また後回しクエストかよーっ!」

「まあ、そういう時もあるか」

「こういうみんな被害者の時って、なんか不思議な連帯感あるよな」

「わかる」


 そんな従魔士たちの会話に、ツバメもそっと笑みをこぼす。


「一人で遊んでいた時は何度もありましたが……三人で見つからないパターンは初めてのような気がします」

「そうかもしれないわね」

「レンちゃんツバメちゃん、これってどういうことなの?」

「クエストの進行に別の場所での発見や行動が必要で、それをこなさないと進めないのよ」

「そんなのもあるんだね」

「メイがいて何も見つからないってことは、なおさらその可能性が高いわ」


 これまでになかった展開に、メイは「なるほど」とうなずく。

 結果としては完全な無駄足だ。

 しかし従魔士プレイヤーたちは、しばらくメイとの会話を楽しんだ後。


「でも、こうやってメイちゃんたちと話せたから結果プラスだな」

「それは間違いないですねぇ」

「何か見つけたら教えてくれよなー」

 などと言い合いながら、解散していった。


「たくましい方々です」

「まあ、気持ちは分かるわ」


 満足げに帰っていく従魔士たちと、そんな従魔士たちに手を振るメイ。

 その姿に、思わずほほ笑むツバメとレンだった。

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