第291話 王都を駆け抜けます!

「右から左! 曲がり切ってから速度を上げてくださいっ!」


 王都ロマリアを駆け抜けていく馬車。

 令嬢を狙って追いかけてきた盗賊たちと戦いながら、メイたちは送迎を続ける。


「お、送迎クエストか」

「今回も派手だなぁ」

「早くしてくださいまし! このままではつかまってしまいますわ!」

「相変わらず、令嬢は生意気だしうるせえなぁ」


 ぶつかったり攻撃を受ければ、ご機嫌ゲージが減る。

 そしてゲージが減るほど、令嬢が口汚くなるというその内容に苦笑いの観客たち。


「レンちゃん! 曲がるよっ!」

「了解っ!」


 レンはとっさに腰を下ろして屋根上の飾りをつかみ、大きく外へ回り込んで行く馬車から落ちないよう力を込める。

 するとこの隙を突き、真横に一台の盗賊馬車が横付けしてきた。

 ドアを開け、盗賊たちが貴族馬車に乗り込もうとしてくる。


「【紫電】」


 そんな盗賊たちの動きを止めたのはツバメ。


「【跳躍】」


 そこから盗賊馬車の上に跳び乗ると、御者の盗賊に【アクアエッジ】を決めて強制停車。

 再度の跳躍で、貴族の馬車に戻ってきた。


「すごーい! アクション映画みたい!」


 歓喜の声を上げるメイに、ツバメは少し照れる。しかし。


「ああああっ! レンちゃんしゃがんでーっ!」

「ッ!!」


 後を追ってくる馬車に魔法攻撃を仕掛けていたレンは、すぐに状況を理解した。

 確認より先に、客車の上に伏せる。

 すると路の上部を横切るようにかけられた看板が、頭上を通り過ぎて行った。

 反応の遅れた盗賊が一人、看板に直撃して客車から転がり落ちる。


「ギリギリだったわね! ありがとメイ!」

「どういたしましてっ!」

「【誘導弾】【フレアストライク】! 【誘導弾】【フリーズストライク】!」


 レンは立ち上がると同時に放つ魔法で、迫る盗賊馬車二台を吹き飛ばした。

 ここまで店や壁にぶつかることもなく、被弾もなし。


「気を抜いている場合ではございませんことよ! しっかりしてくださいませ!」


 叫ぶ貴族令嬢。


「……ここからラストパートって感じ?」


 目前の光景に苦笑い。

 駆ける馬車を待っていたのは、魔術師の集団。

 全員が一斉に杖を構え、放つ魔法。


「まずっ!」


 魔法スキルを使ったばかりのレンは、ここで馬車の被弾を覚悟。


「おまかせくださいっ!」


 メイはここからの道が直線であることを確認して、御者台の上に立ち上がった。


「【装備変更】!」


 前方から迫る無数の魔法弾。

 その位置をしっかりと確認したメイは、【魔断の棍棒】を手に構える。


「それっそれっ! それそれそれそれーっ!」


 飛んで来た魔法を、全弾打ち返す。

 そしてレンを狙って放たれた魔法には――。


「【ラビットジャンプ】【アクロバット】! からの……それーっ!!」


 客車の屋根上に着地して弾き返す。

 打ち返された魔法で、魔術師たちは次々に倒れていく。


「ッ!」


 しかし街にかかる橋の上から、明らかに盗賊風の男たちが飛び降りてきた。


「高速【連続魔法】【ファイアボルト】!」


 即座に対応したレンが放つ魔法。

 炎上し、落ちていく盗賊たち。

 撃ちもらした二者は――。


「お願い、メイ!」

「りょうかいですっ! 【フルスイング】だーっ!!」


 とっさにしゃがむレン。

 メイはそのまま【魔断の棍棒】を振り抜きにいく。


「「うああああああ――――っ!!」」


 盗賊二人はまとめて吹き飛ばされて、店の壁にめり込んだ。

 馬車の上でハイタッチを決める二人の華麗なコンビネーションに、偶然居合わせたプレイヤーたちは目を奪われる。


「まだ、終わってない……!」


 そんな中、ここで新たな障害物が迫っていきていることにレンが気づいた。


「メイ! 横から別の積荷用の馬車が来てるわ!」

「うわっとー!」


 馬は言われるまま、猛スピードで直進中。

 そして前方の十字路には、同じく道を急いでいる荷馬車の姿。

 このままでは、衝突は免れない。


「……ここは全速力で、おねがいしますっ!」


 ブレーキをかけるか、突き進むか。

 ここでメイは両者の距離と速度を見て、全速前進を選択。


「いっけーっ!」


 馬車はそのまま、全速力で直進。

 真横から突っ込んでくる荷馬車に、思わず皆息を飲む。

 しかし接触はなし。

 事故を起こすことなく、見事に十字路を通り抜けた。


「やったー!」

「やったわね!」


 メイとレンは、もう一度ハイタッチ。

 馬車はその後自然と速度を落とし、アルバース邸前に到着した。

 ご機嫌ゲージはなんと、ノーダメージだ。


「【飛足】」

「「ッ!?」」


 アルバース邸の門陰に隠れてた最後の盗賊が、隙を突いて飛び出してきた。

 貴族令嬢のゲージが消えていなかったのは、このための伏線だった。


「【投擲】」


 しかし、念のため最後に馬車から降りることにしたツバメの判断が活きる。

【ダインシュテル】による投擲を喰らった最後の盗賊も、令嬢に迫ることなく倒れた。


「おおー、このクエストのクリアを見たの久しぶりだ」

「ていうかノーダメかよ……すげえなぁ」


 傷一つない馬車に、驚きの声を上げる王都プレイヤーたち。

 そんな中、三人の前にやって来た貴族令嬢は――。


「……まあまあ、悪くない仕事でしたわ」

「お、おい、うそだろ……?」

「あのウザい貴族が、ちょっとデレたーっ!」

「こんな言葉を使う場合もあんのかよ!」

「なんだよ意外と可愛いじゃん! それでもぶん殴りたいのは変わらないけど!」


 これまでどれだけ罵られてきたのか、驚きに戸惑う観衆。


「このようなレベルの仕事ができる冒険者がいるとは、あなどれませんわね」


 令嬢はそう言って、一冊の本を取り出した。


「こちらお礼として差し上げますわ。貴族の令嬢のたしなみが書かれていますの」



【連続投擲】:投擲を複数回連続で行うことができる。飛距離は【腕力】命中は【技量】に依存する。



「……何をたしなんでるのよ」


 参加プレイヤーのステータスによって変化する報酬が令嬢の言葉と合っておらず、思わずツッコミを入れるレン。


「それでは失礼いたしますわ。縁があれば、またお願いしますわね」


 そう言って令嬢はアルバース邸に入っていく。


「最後の言葉までまともだ……」

「今回はクエスト終わりに令嬢が吹き飛ばされなかったですねぇ」

「……どういうこと?」


 聞こえてきた声に、思わずレンがたずねる。


「クエストの難易度の高さ、ご機嫌ゲージが下がった時の口の悪さもあって、報酬を得た後に魔法とかで令嬢を吹き飛ばすプレイヤーが多いんです」


 どうやら『クエスト中は我慢して、報酬を得たらやり返す』というのが当たり前のようだ。


「普段は吹き飛んでるの?」

「はい、結構王都の名物になっていますよ」

「そうなんだ……」


 特に悪気もなく応える王都プレイヤーの返事に、それはそれでやってみたかったかもと思うレンなのだった。

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