第292話 夕食の時間です!
「わー! すっごーい!」
「こ、これは……」
「すみません」
目を輝かせるさつきと、唖然とする可憐。
目前の状況に、あやまるしかないつばめ。
夕食の時間になり、ここで一度『星屑』をログアウトした三人は一階へ。
場所がいつものダイニングでないことに、つばめは嫌な予感を覚えていたが、その不安は的中した。
畳敷きの広い和室には、それこそ旅館の様な渋い木目の大テーブルと座椅子。
そして団体旅行客向けかと思うほど、大量の料理が並んでいた。
「つばめちゃんが本当にお友達を連れてくるなんて思わなかったから、大した用意もできずにごめんなさいねぇ」
「い、いえ、夕食の用意までしていただいてありがとうございます」
その量に「私たちを巨人か何かと勘違いしてます?」とツッコミを入れたくなるのをこらえて、優等生モードの可憐が頭を下げる。
「ありがとうございますっ!」
目を輝かせたまま、ペコっと元気よくお礼をするさつき。
席に着くと、工芸品のような急須から見るからに高級そうな色合いのお茶が注がれた。
「いただきまーす!」
「いただきます」
「いただ……お母さん、その手にあるものは何ですか?」
「カメラだけど」
「修学旅行ではないのですよ」
三人並んで夕食を食べるところを写真に収めようと燃える母に、つばめは顔を赤くする。
「でもつばめ、基本全員撮られることが前提の修学旅行写真でも、まともに写ってたためしが――」
「そ、それはっ!」
「だから今日の写真はお父さんはもちろん、お兄ちゃんとも共有しておきたいのよぉ」
「恥ずかしいのでやめてください……っ」
「本当に普段の姿が垣間見えるわねぇ」
カメラマン同行の修学旅行などでも、見事に忘れられているか見切れていたつばめが容易に想像できて、思わず笑みをこぼす可憐。
そして自分の時も『姿を残すわけにはいかない』と隠れてみたり、『集合写真ではフードを目深にかぶってみたり』したことを思い出して、軽くもだえる。
「はあー! おいしいよーっ!!」
一方さつきは「何が好みが分からない」からと、とにかくなんでも用意したつばめ母の出した料理をうれしそうに頬張る。
その格段のおいしさに、可憐はちょっと申し訳なくなる。
「お茶もおいしいーっ!」
「つばめがお世話になってます」
「いえいえ! つばめちゃんにはいつも助けてもらってます!」
もはや右手にエビフライ、左手にハンバーグといった状態で夢中なさつきに、つばめ母が声をかける。
「つばめちゃんは普段どんな感じなのかしら」
「お母さん、本当に恥ずかしいから……っ」
友達と一緒の娘がめずらしすぎて聞かずにはいられない母に、つばめはいよいよ顔を赤くする。
すると、さつきが不意に動きを止めた。
「何か慌ただしい音が……」
バタバタと近づいてくる足音。
そのまま一直線にやって来て、和室の戸をバーンと開いた。
「ツバメが友達を連れてきたと聞いて!」
「……おにいちゃん」
つばめの様な艶やかな黒髪にメガネの青年。
大急ぎで帰ってきたスーツ姿の兄の姿に、つばめはいよいよ慌て出す。
「本当だ……か、母さん、俺だけに見えてる幻想の友達とかじゃないよな?」
「大丈夫よ。私にも見えてるわ」
「そうか! つばめが友達を連れてきたって話は本当だったのか!」
その場にヒザを突き、天を仰ぐつばめ兄。
「これ、夕食後にでも食べてくれ」
そう言って、両手に持った紙袋を差し出してきた。
つばめ兄、妹のお友達が家に来ているという情報を聞いて、全速力で洋菓子店を回ってまとめ買い。
電車の最前車両に乗り込み、そわそわしながらの帰宅を果たした。
「何が好みか分からないから、とりあえず全部買ってきた!」
母と同じ思考の兄が持って帰ってきた紙袋の数は……四つ。
「わああーっ! ありがとうございますっ!」
さつきはいよいよ「やったあ!」と、拳を突き上げる。
「母さん、今日を記念日として毎年盛大に祝うことにしよう」
「それがいいわね」
「やめてください……っ」
早くも祝い始める母と兄に、もう恥ずかしさが止まらないつばめ。
「……ふふ。合宿が終わる頃には、ジョブが相撲取りになってそうね」
もはや家族のリアクションが大変なのは、当たり前。
積み重ねられた食べ物の数々に、可憐はくすくすと笑い出すのだった。
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