第287話 大地の石斧

「さて、【大地の石斧】はどんな感じかしら」

「いよいよですね」


 わずかに湾曲した古木の先に、鉱石を含んだ岩をくっつけた感じの野性的な一品。

 見ようによってはハンマーのようにも見える新武器を抱え、メイは走り出す。


「【バンビステップ】!」


 即座に反応した不死型トレントは、伸びる根による範囲攻撃を展開するが、メイはこれをゆうゆう回避して迫る。

 続く攻撃は、烈風と共に吹きつける無数の枯葉。

 迫る葉の乱舞は、刃となってメイに襲い掛かる。


「【ラビットジャンプ】!」


 しかしメイはこれを大きな前方への跳躍で回避して、【アクロバット】でくるっと一回転。


「いっくよー! 新必殺技――――【地裂撃】だぁぁぁぁーっ!」


 そのまま不死型トレントの目前に、【大地の石斧】を叩き込んだ。すると。


「「ッ!?」」


 石斧の先の地面が、ものすごい速度でひび割れていく。

 そして付近一帯、かなりの範囲を一瞬で陥没させた。

 崩落に巻き込まれた不死型トレントは大きく体勢を崩し、身動きが取れなくなる。

 壮大な一撃に驚くレンたち、しかしこれだけでは終わらない。


「……ん?」


 ここでメイ、【大地の石斧】で放つ【地裂撃】には、二段目のスキルが用意されていることに気づく。


「そういうことならっ! いきますっ! 【グレート・キャニオン】!」


 いまだ動けずにいる不死型トレントに、放つ追撃。

 ドン! と大きな音を立てて、地面が揺れる。

 直後、落ちた地面から巨大な岩盤が突き上がり、トレントを空高く突き飛ばした。

 一度大きく割れ落ちた地面が、一転して天に向けて突き上がるというド派手な一撃。

 メイの放った新スキルは、不死型トレントの残りHPを全て消し飛ばした。


「……て、天変地異です」

「【腕力】に依存させるから……」


 その光景に、レンとツバメは呆然と息をつく。


「やったーっ!」


 対して、見事に新技で敵を打倒したメイは、うれしそうに拳を突き上げた。


「これで【ホワイトプリム】を――」


 さっそく花を回収しようとして、その動きを止める。

 大きく落ちた地面から、突き上がったままの地盤。

 広がる地殻変動直後みたいな光景に、かつての高原の面影はもちろん白い花もなし。


「……ど、どうしようっ! 花も一緒に消えちゃったよー!」


 大慌てで地面にしゃがみ込み、花を探すメイ。


「大丈夫よ。大きな戦いで壊れた街なんかも、時間が経てば修復されるでしょう?」


 そう言ってレンは笑う。


「そ、そっか、よかったぁ……」


 やがて高原の自動修復が始まり、メイは安堵の息をついたのだった。



   ◆


「なるほどね。【地裂撃】でダウンを取ったところで止めるも良し、追撃スキルの【グレート・キャニオン】まで一気に使うもよしっていう武器なのね」

「どこまで使うかで次撃へのチャージにかかる時間が変わってくる。少し変わった武器ですね」


【大地の石斧】の仕様を確認して、天変地異にしか見えない点以外は納得するレンとツバメ。


「もう何が起きても驚かないつもりだったんだけどねぇ」

「まだまだ甘かったようです」


 そう言って笑い合うレンとツバメ。

 無事目的の【ホワイトプリム】を手に入れたメイたちは、植物学者のラボに戻ってきた。


「戻ってまいりましたーっ!」

「おおっ! 【ホワイトプリム】を30株も! すごいです!」


 その数に驚く植物学者トミー。


「もしかして……戦う内にモンスターの攻撃で数が減っていく類のクエストだったのかしら」


 新スキルによってモンスターが一方的に倒されたことで気づかなかったが、レンの予想は正解だ。


「これなら間違いなく貴族さんは大喜びでしょう! ありがとうございました!」


 そう言ってトミーは、自身が集め育てた植物が載った一覧書をデスクに開いた。


「この中から、お好きな物の種をお持ちください!」

「へえ、どんなものがあるのかしら」


 さっそく三人、イラスト付きの植物解説文を読む。

 そしてメイたちは、一つの株からたくさんの枝が伸びる【豊樹の種】を選んだ。

 説明を読むと、建てた家に一粒使うだけで『緑の家』になるほどの効果を持つようだ。

 せっかくなので、これをたくさんもらっておく。


「それと、今回は多くの【ホワイトプリム】を持ってきていただいたので、特別にこちらもどうぞ」



【世界樹の分種】:世界中に根を伸ばすと言われている巨大な世界樹の種。城のように大きな樹木になる。



「やったー! ありがとうございますっ!」


 ミッション報酬の種を一粒もらって、歓喜するメイ。


「……なんでかしら、またとんでもないことが起きそうな気がするわ」

「はい、ドキドキとワクワクが入り混じった不思議な感覚です」


【大地の石斧】に続いて、大事になりそうな説明文。

 手にした報酬に、そわそわしてしまうレンとツバメだった。

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