第286話 まずはお披露目から!

「王都は端まで詰まってるわねぇ」


 ロマリアには様々なジョブのギルドが点在してるため、どこに行っても人が多く、建物も隅の方までしっかり詰め込まれている。


「ここからは、狼さんにお願いしましょうっ!」


 植物学者から受けたクエスト。

 北門を出たところでメイは右手を上げて、召喚の指輪を輝かせた。


「――――それでは。おいでくださいませ、狼さんっ!」


 真っ白な雪煙と一緒に出てきたのは、巨大な雪狼。

 メイがさっそくその毛並みに触れると、雪狼は静かに腰を下ろした。


「目標は【ホワイトプリム】! 出ぱぁーつ!」


 三人は駆ける狼の背に乗って、東北部にある高山へ。

 そのまま山道を駆け上がり、木々のない開けた地点まで到達。

 続く岩場と、茂る草花の道を進むことにする。


「ありがとうございましたっ!」


 雪狼の胸元を撫でながら、ほほ笑むメイ。

 もちろんツバメも、意外と可愛い前足に触れて「これは……っ」と表情を緩ませる。

 雪狼は小さく一度吠えると、メイに顔を寄せ、また雪煙と共に消えていった。

 高原の様な風景の先に見えるのは、白い輝きを放つ小さな花畑。


「あれが【ホワイトプリム】の生息地ね。そして――」


 三人の前に現れたのは、邪悪な雰囲気をまとったモンスター。

 指と足の先がツルのように巻いている、女性型のマンドレイク。

 その背後にゆっくりと立ち上がった腐りかけの倒木は、幹に顔状の洞があり下半身が根になっている。


「アンデッド版トレントって感じね」

「中ボス級といったとこでしょうか」

「なるほど、ちょうどいいわね。それじゃここで新スキルを試させてもらおうかしら」

「はい」

「りょうかいですっ!」

「それでは、マンドレイクは私が――」


 そう言って一歩前に出ると、マンドレイクはツバメを狙って動き出した。


「【疾風迅雷】」


 スキルの発動と同時にツバメの【敏捷】が向上し、【耐久】と【腕力】が大きく下がる。

 ゆっくりと歩き出したツバメは、迫ってくるマンドレイクに接近していって――。


「シャアアアア――ッ!!」

「【加速】」


 自らの手をムチに変えたマンドレイクの振り降ろしを、斜め前方への移動でかわす。


「【加速】」


【加速】からの【加速】という、本来多少のクールタイムを挟まなければならない移動スキルを連続使用。

 折り返す形での移動でマンドレイクの左前に来たツバメは両手のダガーで連撃を入れ、即座に再【加速】

 マンドレイクの右側部に移動し、さらに二連撃。


「【加速】【リブースト】」


 続くV字高速移動でマンドレイクの左後方へ回り二連撃。

 ここでようやくマンドレイクがツバメを捉え、地面から刃状の根を一斉に突き上げる。


「【加速】【アクアエッジ】【四連剣舞】」


 しかし即座に距離を取ったツバメは難なく反撃をかわし、水刃で四連撃を叩き込む。


「シャアアアアアア――――ッ!!」


 怒りでモードを変えたマンドレイクは両手をムチに変え、乱打を開始する。しかし。


「【加速】【加速】」


 加速による回避と同時に一発だけ斬って、即加速。


「【加速】」


 すり抜け際に斬って即加速。


「【加速】」


 戻り際に斬って即加速。


「【加速】【リブースト】【アサシンピアス】」


 さらにすれ違い際に斬撃を入れ、V字移動で敵の真後ろへ回り込み刺突。

 その都度立ち止まって二連撃してから移動するのではなく、すれ違い際の一撃を連続することで、ツバメはその足を一度も止めることなく敵マンドレイクのHPを削り切った。


「まだ少しぎこちないですが……【疾風迅雷】はこういった感じでしょうか」

「すごーいっ!」


 消えていくマンドレイクを前に、歓声をあげるメイ。


「攻撃をもらってしまうと流れが止まる上に、【耐久】低下で大ダメージ。少し緊張感があります」

「すごい早さで敵のHPが削れていってたわ」

「ツバメちゃんかっこいいよー!」

「あ、ありがとうございます」


 ちょっと照れながら笑い返してみせるツバメ。


「それじゃ次は私の番ね」


 次に動き出したのはレン。


「【魔力蝶】【フリーズバースト】」


 杖を掲げると、空中に四羽の黒い蝶が現れた。

【フリーズバースト】を使用して生まれた黒蝶は、羽の内側を青白く輝かせる。

 そしてレンが杖を向けると、四匹の黒蝶は不死型トレントのもとへ飛来。

 取り囲むようにして宙を舞う。


「【連続魔法】【フリーズボルト】!」


 レンの放った四発の氷弾が当たって弾ける。

 直後、不死型トレントが反撃とばかりに枝葉の腕を振り上げたところで――。


「おねがいっ!」


 スキル使用直後の硬直を打ち消すように、一匹目の黒蝶が放つ青白の冷気閃。

 わずかに遅れて別の個体が冷気閃を放ち、さらに少し遅れて残り二匹の黒蝶も続く。

 カウンターを喰らったトレントは、わずかにバランスを崩した。


「斉射っ!」


 レンが合図を送ると、四羽の黒蝶が冷気閃を同時に放つ。

 その全てがトレントに炸裂して、転倒を奪った。


「なるほどね、威力はそこそこだけど移動砲台と連携しながら戦えるって感じかしら。この子たちに隙を作ってもらっている間に距離を取るっていうのもいいし、近接を狙うのもいい。派生のスキルがどういう形なのかも気になるわね」


 込められた魔力を消費して消えていく【魔力蝶】を見ながら、思わず笑みを浮かべるレン。


「さて、最後はお願いできる?」


 そう言って振り返る。

 するとメイは、一応付近に誰かいないかしっかり確認した後。


「おまかせくださいっ!」


 その手に【大地の石斧】を掲げてみせた。

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