第271話 首領を狙う者

「これが最後のクエストになりそうだね! クリアすればローチェちゃんたちが一番だよっ!」

「…………」

「……ねっ?」


 海竜の登場と、氷海大波による後退。

 さらにローチェが凍結から回復するのを待っている間に、主役は完全にメイたちに変わってしまった。

 ヴァイキング船破壊を後方から見守る形でフィンマルクのクエストを終えてしまったシオールは、そこから笑みを浮かべたまま無言。


「いやはや、噂のメイちゃんは想像以上でしたなぁ」


 それでもヴァイキング相手に、多少ドールの試し運転ができたなーにゃはマイペース。

 アルカナとヘルメスを交互に眺め、「やっぱりかわいいですなぁ……!」と満足そうにうなずいている。


「ナイトメア……」


 そしてメイと一緒だったレンを垣間見たリズも、何やら感慨深げだ。


「それにほら、こうやってイベントを締めくくるクエストがきちゃう辺り、ローチェちゃんたちはやっぱり一番になる運命なんだよっ。ねっ?」


 ローチェはどこか焦った感じで、リズに問いかける。


「最後のクエストを片付ければ、自然とそうなるだろうな」


 そう言ってリズは、フィンマルクに建つ一軒の邸宅に踏み込んだ。


「待っていたよ」


 そこに現れたのは、しっかり分けた金色の髪に高級そうな前開きのベストを着こんだ男。


「ギルドから大きな依頼があると聞いてきた」

「ああ、その通りだ」


 ギルドクエストでポイント上位に入り、特別に『紹介』をもらう。

 さらにいくつかのクエストをこなし、信頼を得る。

 それがこのクエストに到達するための流れだ。

 金色の髪の男は、余裕を感じさせる笑みを浮かべながらトッププレイヤーたちに向き直る。


「君たちに頼みたいこと、それは――――ヴァイキング首領・ガーランドの抹殺だ」


 その言葉に、ヴァイキング船でほとんど活躍できなかった四人は意気を上げる。


「……ほう、まだあのクエストは終わっていなかったという事か」

「そのようですな」

「よかったねシオール! やっぱり大きなクエストの最後はローチェちゃんたちが締めるんだよ! ランク一位もいただきだねっ!」

「どうやら、そうなってくれたようですね」


 シオールがそう言ってほほ笑むと、ローチェは安堵の息をつく。


「首領は海竜と大型船を失った後に逃走。このままではいつまたフィンマルクに攻め込んでくるか分かりません。後顧の憂いを断つためにも、キッチリ始末してきてください」

「なんだか物騒なクエストでございますなぁ」

「ガーランドには、発信機代わりの魔法石を取り付けてあります。居場所はこの地図を見れば分かるはずです」


 そう言って豪商貴族ライングロウは、一枚の地図をシオールに手渡した。


「それでは参りましょうか」


 シオールがメガネを直しながらほほ笑む。


「これでローチェちゃんたちの優勝はもう間違いなしだねっ!」


 こうしてトッププレイヤー四人のパーティ『闇の血盟』は、ヴァイキング首領・ガーランド打倒に向けて動き出したのだった。


   ◆


「ウェーデン国王に保護を要請した。ガーランドを城内まで連れて行ければ、この依頼は終了となる……あとは頼んだぞ!」


 豪商貴族ライングロウの謀略を暴くためのカギ、ヴァイキング首領・ガーランドの護送。

 これがフィンマルクの最後のクエストだ。


「これって、メイが首領を担いでケツァールに乗っちゃダメなのかしら」

「オ、オレは空はダメなんだ!」

「でも強引に担げばどうにでも」

「オ、オレは空はダメなんだ!」

「意地でも地上から行かせようという、運営の強い意志を感じますね」

「オ、オレは――」

「もう同じことしか言わないわ」


 ガーランドはギルドのデスクにしがみついたまま、同じ言葉を同じ声量で叫ぶ。

 ゲームではこうなってしまったらもう、らちが明かないことを知るレンは苦笑い。


「まあせっかくだし、そうしましょうか」


 メイたちはさっそく犬ぞりを借りて、ウェーデン城を目指す。


「お金に目がくらんだ悪いヴァイキングを護る……まったく腑に落ちないクエストですわね」


 そう言いながらも、白夜の目は輝いている。

 それはもちろん、ヴァイキングの襲撃を裏で意図した悪い貴族の存在のせいだ。


「ふふ、最高の相手ですわ」


 そう言って、高笑いをし始めたその瞬間。


「あぶないっ!」


 メイが叫んだ。

 慌てて全員が辺りを見回す。

 見えたのは、空から落ちる雷光。


「わああああああ――――っ!!」


 目前に落ちた雷の衝撃で犬ぞりは弾き飛ばされ、メイたちは全員そりから投げ出された。


「皆だいじょうぶー!?」


 すぐにメイは全員の無事を確認し、目を回していた犬の安否も確認。

 ヴァイキング首領も運よく無傷で、安堵の息をついた。


「早くも敵の奇襲ですの!? 姿を現しなさい! この光の使徒がお相手して差し上げますわ!」

「わたしもがんばりますっ!」

「一体敵は何者でしょう」


 そしてそんな白夜と共に、ポーズを決めるメイとツバメ。

 レンも三人の後ろに並んで杖を取る。


「光の使徒……? これは一体どういうことだ……?」

「……リズ?」


 そこに現れたのは、黒馬に乗った黒騎士。

 黒神リズ・レクイエムは、肩をブルブルと震わせていた。


「突然消えたナイトメア。その狙いは……裏切りだったというのか……っ!」

「…………え?」


 予想外過ぎるリズの言葉に、言葉を失うレン。

 意味の分からない展開に困惑していると、黒馬の後ろからさらに三頭の馬がやって来た。


「まさか、ヴァイキング首領の護衛がプレイヤーだとは思わなかったのだよー」


 ホムンクルスを馬の前後に乗せ、挟まれた状態で現れたのは錬金術師なーにゃ。


「あらあら、本当ですねぇ」


 メガネのお姉さんシオールも、柔らかな笑みを浮かべている。


「なるほどねー。クエストの最後に対人戦を持ってくるなんて、運営やるじゃーん」


 そう言って、可愛らしく笑って見せるローチェ。


「さーてと、ヴァイキング船破壊でだいぶポイントを稼いだみたいだけど、そんな君たちを倒して首領ガーランドをいただいちゃおっかなぁ」


 メイたちを狙い撃ったムチを弄びながら、勝ち気な視線を向けてきた。


「ちょっとは名の知れたプレイヤーみたいだけど……偶然は二度も続かないよっ」

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