第270話 終わり際の依頼
「さーて、最後はどうすっかな」
「残り時間も少ないし、簡単なクエストでも受けておくか」
「俺は適当に街でも観光して終わるかね」
大型イベント『ウェーデンギルドは大忙し』も、いよいよ残り時間わずか。
変わらず賑やかな掲示板前は、最後のスパートをかける者とすでに一段落している者とで分かれている。
そして一段落している者の多くは、フィンマルクでのクエストを終えたプレイヤーたちだ。
ポイントの入りも良く、イベント後半のメインクエストを終えた達成感に浸っているようだ。
「やはり君たちに依頼してよかった。ありがとう」
そんな掲示板前から少し離れたところにやって来たのは、フィンマルク王国軍の副官。
メイたちが海運倉庫に乗り込んで助け出したNPCだ。
「海竜や大型砲台の攻撃もあって王国軍はかなりの損害を出し、風前の灯火といった状態だ。君たちがいなければすでに壊滅に追い込まれていただろう」
「お役に立ててよかったです!」
正体がばれ、フードと王者のマントを外したメイはうれしそうに尻尾をブンブンさせる。
そんな中、ツバメの視線が一点にとまる。
ギルドの入り口に突然現れたマントの男。
深くフードをかぶった姿は、正体を隠していた時のメイのようだ。
ただ、その体格がとにかく大きい。
付近のプレイヤーの1.5倍はあろうかという男は、ギルドの隅を通ってこちらにやってくる。
「……お前たち、フィンマルクの戦いで海竜を打ち破った冒険者だな?」
「そうだけど?」
妙な展開に、レンが不審げに応える。
「依頼があるんだが……いいか?」
「依頼? ここにきて新しいクエストってこと?」
副官から依頼を受けた上で、ヴァイキングとの戦いに勝利した場合に持ち掛けられるクエスト。
そう判断して、レンは問いかける。
「ああ、そうだ」
「まだ話は続いているのでしょうか」
「あれでひと段落だと思ったんだけど……で、依頼って言うのは何?」
「護衛だ。フィンマルクの貴族ライングロウから……ヴァイキング首領・ガーランドを護衛して欲しい」
そう言って男はフードを外した。
「なんだと……っ?」
まさかの展開に、驚く副官。
現れたのは、先ほどフィンマルクで戦ったヴァイキングたちの首領、ガーランドだった。
「どういうことー?」
意外な展開に、首と尻尾を傾げるメイ。
「ライングロウ家はフィンマルクに館を持つ豪商だ。そいつがオレのクビを狙ってやがるんだ」
「当然だろう。我が国は貴様らに奪われかけたのだぞ」
ガーランドに怒りの視線を向ける副官。
「……それがな、そういうわけじゃねえんだ」
「どういうことだ?」
「オレたちは、そのライングロウの指示でフィンマルクを襲ったんだ」
「なに……っ?」
副官は驚きにのけ反る。
「そういえば何度か聞いたわね。ヴァイキングはあっという間にフィンマルクの要所を押さえたって」
「誰かが要所の情報を流していたわけですか。それがライングロウさんだったわけですね」
「ああ、その通りだ。大金を積まれてオレたちはフィンマルクに攻め込んだ。あの巨大船もライングロウのヤツが用意したもんだ」
「なぜ、ライングロウがそんなことを」
「決まってんだろ。王国軍とオレたちをぶつけて疲弊させたところで、フィンマルクに私兵を送り込む。そして国の実権を奪うんだ」
「なんだと……」
「狙い通り王国軍は半壊した。アイツからすればオレはもう用済みだ。余計な事実を知る者を消しておけば、あとは憂いなく国を獲れる」
そう言って深く息をつく。
「すでにライングロウの雇った冒険者たちが、オレを消すために動き出してやがる」
「なるほどね。表向きはヴァイキングが独断で攻めてきたように見せてるから、貴族が首領の追討を狙うってのも自然な流れだわ」
「私たちだけが、貴族の自作自演を知っている状態なわけですね」
「……許せませんわ」
その話を聞いて、白夜が突然飛び込んできた。
「ヴァイキングの突然の侵攻。それを裏で操る豪商貴族……利用した者を邪魔になった途端に消すというやり口……そんな巨悪はこの光の使徒、九条院白夜が許しません!」
その目は、これでもかというくらいに燃えていた。
「普通の女の子も許しませんっ!」
そして当たり前のように、その隣で目を燃やすメイ。
さらにその後ろで謎のポーズを試すツバメ。
「……まだ、この『光の使徒たち』みたいな流れは続くのね」
大事件の背後で暗躍する大貴族。
利用された大物ヴァイキングが、闇に葬られそうになるという展開。
そして真実を知り、昨日の敵を守るという状況。
多少自分もワクワクしてしまっていることに、レンはそっと苦笑いを浮かべる。
「でも、ヴァイキングを助けてもいいの?」
「金に目がくらんだ罰だ。ライングロウのヤツをなんとかしてくれたらヴァイキングは港の復興、近海を守るために尽力することを約束する」
「っていうことみたいだけど」
「どちらであれこの男の口が封じられてしまったら終わりだからな……すまない。もう一度頼んでもいいだろうか」
そう言って副官は、深く頭を下げたのだった。
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